仮面ライダーδ

仮面ライダーδ

KamenRider delta 1話「姉妹」

 198■年 冬


 お腹にいた赤ちゃんが無事だったのなら。

そんな淡い希望を少女は砕いて祖父母と共に熱を失った両親と再会した。      身体を抉る悪寒と、酷く平坦な感情が少女を包んだ。

お父さんもお母さんも、もうしんじゃったんだ

 

 深さをます降雪の中、それが起こった。

一方は早産の危険があり入院する妊婦と、その旦那を運ぶ足となったタクシー   一方は意識が朦朧とした男に操られたトラック

居眠り運転によるスリップからの衝突。

重体の妊婦が救出されたが、肚の胎児を産み落とした後、息を引き取った。

三つの遺体と命すら危うい未熟児が、ささやかな悲劇の結果だった。

いつも宅配便を届けていた父親

妹か弟になる赤ちゃんをお腹に拵え三人共に元気に帰って来ると約束していた母と父

勢いを増す降雪のように、遺された者達にはどうしようもないほどの絶望が降り積っていた。


「お爺ちゃん、お婆ちゃん、会いに行こう...会いたいよ、私」

 母を庇ったらしい父の面影も無い姿、母の陶磁人形のような姿に立ち会っても彼女は一滴の涙も流せなかった。

感情がもたれかかる先を失って胸の底を搔き回す。だから両親を永久に失った事を自分の弟妹となる特別な赤子の姿を見て、忘れてしまいたかった。

医者との短いやり取りの後、祖父が重い腰を上げた。少女は脱け殻のような祖母の 手を引いて、重々しい祖父の背中を追い、姉妹になる小さな嬰児の元へ向かった。

「この子が、お孫さんです。女の子ですよ。」

案内されたベットには、雛のようにを小さな妹とそれに取り付く寄生虫のような     医療器具の管があった。

「こんな、これじゃ...」

老人達には小さな孫が機械の胎盤に繋がれ生きる胎児のように見えた。


「.......私、お姉さんなんだよね?お爺ちゃん」

問いかけに応えは無く、女医の説明が経のようにぶつぶつと聞こえる。

「予定より......早く...で....障害が....から心肺機能の補助の為.....を...油断は出来..せん...」

 祖父母は医者の経に祈るように首を傾げそれを聞く、嬰児の見通せない将来を拒否して現実を理解する事に必死の姿は、老人という観を表現しているように少女には見えた。自分と言う物を確立した老夫婦達にはきっと自分も、妹の生死も、両親の死も遠い場所にあって理解するには二人が老い過ぎたのだろう。

慰めも求められない現実が、少女の心から平静を奪っていった。

 姉である少女は哭きたかった、身体中の水分を枯らしても両親が死んでしまった事など理解したくなかった。

吐き出したい激情を少女は抑えた、ここで泣いて、叫んでも、もう大好きな両親が帰って来ない事は分っていたから。

激流のように流れ込んで来る感情や事実を受け止めきれず、少女の意識は途切れてしまった。


「お孫さんは生きようとしています...だから私達が全身全霊で守ります。お二人も希望をもってあの子を見守って....」

部屋の隅から響く、素朴で実直な言葉は、老夫婦よりも頬を涙で濡らす少女の記憶に強く、深く、響いた。


「明日、これからお姉さんになって、私がいない時は...明日がお母さんになって守ってあげるのよ...」


髪に雪を引っ付けた母親が自分の頭を撫ででそう云う。温かい母の手を言葉と共に 思い出す。


「明日、妹の名前が決まったら電話してくれ。お姉ちゃんとしての最初の仕事だ。良い名前考えとくんだぞ」


硬い父親の手。母よりも無骨な手は自分の肩を優しく叩いた後、母親の肩へ移る


夢の中で、穏やかな両親の最期と再開した。声を上げ、二人を抱き留めたかったが 両親の姿は段々と白い景色の中に溶けていく。

影になる寸前に、二人は振り返って明日を見ていた。

その顔はとても穏やかで、少女がずっと欲していた物だった。


 回復した意識の中で、少女は気付いた。父も母も、自分に託してくれたのだ。

明けた視界の先で、呼吸の度に身体を揺らす小さな妹がどうしようもなく愛おしい。

母と父がそうしたように、最期まで強く生きたい、正しく生きたい。

その為に自分の全てを妹の為に使おう。小さな妹の、親になるために。

今はいない両親に、少女は約束した。


祖父母と女医は言葉を選べず、少女と接する事を躊躇っていた。だが


「もう泣かない」

彼女の表情に悲愴があっても。絞り出したような声に絶望は無い。老夫婦も女医も 少女の意志を聞いたとき彼女が誰よりも強く明日を望んでいた事を知った。


「私の全部を使って、父さんと母さんの分もこの子と一緒に、幸せになる」

 粗く拭いた顔には、もう涙は無かった。

戸川明日はこの時から独りの妹の親となり 姉になった。






「あぁ!止んだよ、これで多少は楽だな、もう降らねぇんだから」

夜更けと言え、病院が眠る事は無い。急患を運ぶ緊急車両の為、警備員と病院から帰れなかった有志が周辺の雪を集積していた。


「最低限やったら、あんたら休みな、後は俺達で出来るからさ」

医者になりたくとも学が無く警備員をやっていた身としてはそう言ってやりたかった理由をつけるため。自分も一旦休憩するから、と言って男は病院側の人間を帰らせた


「さてさて、株株」

男の趣味は株取引だった。金入りの細い彼にとって、自分の株は命そのものと言えるが雪の中夕刊やラジオを吸収する暇は無かった。


「ん?スマート....ブレインテクノロジー?独立....株式上場...」


ホットコーヒーをすすりながら警備員の男は大見出しに書かれた見知らぬ企業に興味を寄せ始めた。


[城南経済新聞 12月30日]


『スマートブレインテクノロジー____遂に株式上場!高い技術力から成長期待大!』

 先日29日、産業ロボット·作業機械の老舗難波重工業の下請けであったスマートブレインテクノロジーが遂に株式上場を果たした。高品質で知られる難波重工の製品であるがそれらを支えていたのはスマートブレインテクノロジーの優れた冶金技術や設計能力の賜物であった。他会社からの工業製品の設計や材質研究も請け負うスマートブレインテクノロジーを難波重工は子会社化を避け、独立を後押しし遂に上場の運びとなった。    

 難波重工は今後スマートブレインテクノロジーと製品の共同開発を検討していると発表した。これは難波重工とスマートブレイン社の良好な関係を示すものだろう。 スマートブレインテクノロジーは株式上場と共に難波重工と共同開発中の試作二輪車「f.i.g.」を発表した。子会社化を避け、二人三脚を望んだ難波重工の決断がこれからどうなるのか。進展が楽しみである。


『独占インタビュー、スマートブレイン社が挑むビジョンとは?』


我々日経は現在難波重工業から独立したスマートブレインテクノロジー社花形秀一社長に今後の展望を尋ねてみた。目指す物はより高い......


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