鈍感女子会と尾行男子会
(美浦と栗東で別れてるはずだろ!というツッコミはなしでお願いします……)「このクッキー盛り合わせ頼んでいい?みんなで食べよ!」
「アカリは何か気になるメニューある?」
「なら、せっかくだしこのハーブティー飲み比べセットも頼んでみんなで飲むのはどうかしら」
「いいわねそれ。そうしましょう」
「店員さーん、注文お願いしまーす!」
お昼時のピークを過ぎてひともまばらな喫茶店。女子三名による近況報告会という名のお茶会が開催されていた。
そして少し離れた席から女子会を見守る男子が三名。
「やっぱこういうのって良くないんじゃ……」
「いやでも気になるもんは仕方ねーだろ、見つけちまったのが運の尽きというか」
「とりあえず何頼むか決めよう、何も頼まないのは店に失礼だ」
「アイスコーヒー」
「ホットコーヒーで」
「このあいだ、道で外国の人に道話しかけられちゃって、何語かわからなくてどうしよ~ってなってたときにね、シャフリヤールくんに助けてもらったの!お父さんもそうだけど、やっぱり色々話せると格好良いよね。わたしも何か勉強してみようかなあ」
「まあ!」
「よかったじゃないレーベン。そのあとシャフリヤールとはどうしたの?」
「また話しかけられたりするかもしれないから、って部屋まで送ってもらっちゃった。ほんといいひとだよね~」
「シャフリヤールさん……お話したことはないけれど、レーベンちゃんがそう言うならきっとすごくいいひとなんでしょうね」
「うん、よくお土産ってお菓子もくれるの!」
「食べすぎはほどほどにしときなさいよ」
「わかってるよう」
「いやあの時あいつナンパされてて……気付いてなかったのか……いや薄々そんな感じはしてたけど……」
「あー、まあ、気付かなそうだよね、彼女」
「何て言って追い払ったんだ?」
「……『俺の彼女なんで』って……」
「へえ?」
「ほう」
「気付かれてねーからセーフッ!なんだよッ!」
「しっ!気付かれる!」
「そういえば私も、この間ハンカチをなくしてしまって。数日経ってもう見つからないと思っていたらタイトルホルダーさんに見つけてもらったの。道を探していたら『困りごとですか?』って話しかけてくださったから、そのときにハンカチを探していると伝えたのを覚えてくれていたみたいで」
「わざわざ探してくれたのかなあ」
「どこで見つけたのかを訪ねたら、木に絡まっていたと教えてもらったの。でもどこの木で見つけたのかは忘れてしまったらしいの」
「木って……よく見つけたわね、そんな所」
「ええ。本当に感謝しているから何かお礼がしたいのだけれど、何がいいかしら」
「そうだ、メロちゃん先輩に訊いてみない?お姉さんなら好きなものとか知ってるかもしれないし」
「連絡先わかるの?」
「うん!メロちゃん先輩のお父さんとわたしのお父さんが知り合いだから。アカリちゃんに先輩のアカウント教えるねー」
「お前がこないだ必死に探してたのってハンカチ?」
「木の上とか、よく見つけたな」
「結構落ち込んだ様子だったし、何か思い入れのあるハンカチなのかと思ったんだよ」
「これでお前に拾ってもらったっていう思い出ができたわけだ」
「そういえば木から落ちかけて擦りむいたのって……」
「うるさいなあもう!ハンカチを拾うくらいしたっていいだろ別に!」
「誰も悪いとは言ってないが」
「だーから声荒げんなって……」
「ソダシちゃんは?最近何かあった?」
「あたし?あたしは特に何もないわよ。いくらあたしが可愛いって言ったって、可愛げがあるわけじゃないしね」
「???????ソダシは可愛らしいだろう?」
「立つなエフフォーリアお前ただでさえデカいんだから!」
「ほらコーヒー飲んで。一回落ち着けって」
「それによくつるむのがあいつらだし。もうふたりの世界にどっぷりよ」
「それは……そうかも」
「あ、でも最近エフフォーリアと話す機会があったわね」
「どんなお話を?」
「道でたまたま会って話しながら歩いてたんだけど、内容自体はあんま覚えてないわ。レースの話とかだったし」
「うんうん」
「歩いてるとき、後ろから自転車が来てたのにあたしが気付かなかったのよ。あいつが『危ない!』って手を引いてくれたから助かったんだけどね。そのとき、やっぱ男は筋肉の点き方が違うと思ったわ。あたしも鍛えてるつもりだけど、やっぱ違うわね」
「まあ、手を引いてくださったのね」
「思い出せば出すほど悔しいわ……あのときは疲れてて気付かなかっただけで、いつもなら絶対気付いてたのに!」
「そこ?」
「そうだ、あの時はソダシに怪我がなくて本当によかった」
「なんかライバル視されてないか?」
「勝利に貪欲な姿勢にも見習うところがあるな」
「お前それでいいのか……?」
「あっ、メロディーレーン先輩から返信が。『それなら今度一緒にお買い物でも行ってみない?』ですって」
「確かに、一緒に選んだ方が確実よね。それに色々聞けるかもしれないし」
「色々?」
「興味がある話題とか教えてもらったら、仲良くなりやすいかも!」
「姉さん…………余計なことを言わないといいんだけど……」
「もしかして話してるのか」
「ハンカチを返すときに、自然に返すにはどうしたらいいかって聞いたんだよ」
「よく話せるよな、俺絶対兄貴には話したくねえ」
「お前の兄貴と僕の姉さんを同列で扱わないでくれる?」
「悪かったって」
「あのねえあんたたち。尾行するならもっと静かにしなさいよ」
「あー、これは……ええと……」
「いつから気付いて……?」
「今通りがかったからだけど……って、なんか疚しい話でもしてたわけ?」
「断じてそういう訳ではないんですけど」
「ま、どうせあのふたりのことが気になって着いてきたとかそんなんでしょ。安心しなさい、ふたりは外で待たせてるから」
「いやだからそういうんじゃねえって、」
「違うの? シャフリヤールはレーベン、タイトルホルダーはアカリのことが好きなんでしょ?まあいいけど。次はないと思いなさいよね」
「「…………」」
「ソダシは今日も気が強くて可愛いな……」
おわれ