針の使い方
(16話)
カルセドさんの捜索のため里を出たらすぐにイノシシと出会った。何度か戦ったことのある相手だから行動パターンは分かっている。いい機会だからこの間思いついた新しい攻撃の仕方を試してみることにした。
まっすぐな突進を少し横に飛んで回避する。目の前を通るイノシシの背中の上に手をかざし、針を落とした。先端が背中に触れ、ダメージが入る。呪いによってすぐ手元に戻すが、あえて掴まない。もう一度背中に針が触れた。二度目に戻した時にはイノシシの背はもうそこにはなかった。
「やっぱり……」
針は掴まなければその場に落ちる。そこで引き戻しを繰り返せば相手と手の間を針に往復させられるようだ。
その後も突進を避けながら何度か試してみた。タイミングや距離感がうまく掴めれば多くて10回くらいは針を当てられる。連続投擲よりも短時間に与えるダメージは多い。刺しても当てるだけでもダメージが変わらないからこそだ。まあ、相手に近づく必要があったり等身大の敵でないと使いにくかったり欠点はあるけれども。
「この技、どこかで生きてくるかもしれない」
***
(31話)
なんとか狐に同士討ちをさせることができたが、そのせいで敵の強さが上がってしまった。しかし不思議と思考は明瞭だった。
解除解除解除……
攻撃をかわしながら、狐の腕の上を針でなぞるように「解除」を念じ続ける。35回。41回。いつもは朧げにしか分からない回数が正確にわかる。相手の動きが正確に読めれば、触れるか触れないかのぎりぎりで針の往復技が可能。接触回数は飛躍的に上がっていた。もしかすると頭が冴えて「解除」の意思そのもののスパンも早くなっているのかもしれない。
さっきカルセドさんに聞いたHP情報ではこっちの狐はあと一度この技を使えば確実に倒せる。待てよ、「こっちの狐」?ふと倒れていたほうの狐を見遣る。よろめきながらも立ちあがろうとしていた。その間にもう一匹が攻撃を仕掛けにくる。
あ、これは僕のスピードだと避けきれない。
そう思った矢先、攻撃の動作が止まった。肩を見ればナイフが刺さっている。カルセドさんが投げたものだ。その隙を逃さず多重攻撃を与える。HPが0になった狐はパァァァァと光って消滅した。
「よし……あといっぴ……」
傷だらけで立ち上がったもう一方を見据えるが、これ以上意識を保つことができなかった。