金細工師×捕鯨
ワ
ン
ク
ッ
シ
ョ
ン
🐶
金細工師×🐳です
すみません日和りました
金細工師×🐳×金細工師な気がする
少女のようなあどけなさを残したまま、鼻歌を歌いながら美しい芦毛の髪を梳かす様を、オルフェーヴルは後ろから見つめていた。
なんで初めてのラブホでそんな上機嫌でいられるのか、まったくの不思議だった。そこそこ広いベッドの上で正座をして彼女を待っている自分のほうが、あまりにも童貞くさくて悔しかった。受付の時点でガチガチで、父親にニヤニヤされたことを思い出す。せめて足は崩そう。ごそごそと動いて座り直すと、彼女が振り返った。
「おまたせ、オルフェくん」
豊かな芦毛をゆったりとおさげの三つ編みに結い終わった彼女。フリルとリボンたっぷりのベビードールは、やはり妖艶さよりも少女らしさのほうが際立っているような気がする。白に限りなく近い薄い桃色が、淡く色づく二人の間の想いを表しているようで。幼い彼女の、いや自分たちの象徴みたい。と思っていたが。
「どう?この日のために買ったのよ。似合う?」
くるりと一回転してみせると裾が広がって眩しい太ももが顕になる。おまけにぴたりと止まってみせたときに、ブラジャーで抑えられていない柔らかな胸がたゆん、と揺れたのを見逃さなかった。
「…………かわいいよ」
ここで素直じゃないことを言えば、まるっきり自分が緊張しているのがバレバレになる。一歩大人に見せたい。リードしたい。余裕を見せたい。
そんな思惑がありつつも、本当に素直に思ったままを口にした。
彼女は口を抑えてふふふ、と淑やかに笑う。
「オルフェくん、緊張してる」
バレていた。
「悪いかよ」
「ううん、かわいいなって」
「逆になんで君はそんな楽しそうなの」
うーん、と人差し指を口元に当てて考える仕草を見せる。
「オルフェくんが緊張してるから、かしら」
やはりこの女はただものではない。
そこそこ広い、ふかふかのベッドに彼女も上る。オルフェーヴルの隣に腰を下ろして、自分の太ももを指した。
「膝枕、させて」
膝枕しよっか?とかではなく、させて。扱われ方をよく知られているようで、やっぱりこの女は油断ならない。
ホエールキャプチャ。
三冠馬になる前のただのオルフェーヴルに初めて土をつけた女。ただかけっこが好きで、かけっこでは誰にも負けたことのない、デビュー戦もその延長で走った少年オルフェーヴルに、これはかけっこではなくレースなのだと強烈に示した女。少年を少し、大人の階段を登らせた女。
その女の太ももは柔らかく、頭を撫でる手も優しく夢見心地だった。
「今日は正式な種付じゃないから。妊娠するようなことはできないよ」
「まあ、意気地なしね」
「あのねえ!大体なんでこんなところに来たいなんて言い出したんだか」
「仕事じゃなくて。オルフェくんとの思い出がほしかったって理由じゃだめかしら?」
屈託なく笑う少女にそんなことを言われてしまっては、これ以上咎めることはできない。
オルフェーヴルは寝返りを打って、彼女から視線をそらす。
「ねえ、そんなに緊張しないで。私、あなたに一番に汚されたいの」
「……汚す気なんてないんですけどこっちは」
どんな行為をしたって、君はきっとずっときれいなままだから。
「でもオルフェくん大丈夫?あんまり緊張すると、男のひとってこれ、使えないんじゃなくて?」
「ふみゃっ!!」
あろうことか、ぐいと体を伸ばした彼女がなにをするかと思えば、オルフェーヴルの大事なところを無遠慮に揉みしだいてきた。
「ちょちょちょちょちょなにしてんの!!」
あまりに不意打ちで情けない声を出してしまったのが二重に恥ずかしい。オルフェーヴルは彼女の白い細腕を掴んで静止を求める。
ホエールキャプチャはあらら?と困ったように眉を下げる。
「ごめんなさい…こういうことの作法とかルールとか、私なにもわからなくて…」
「わからないのは結構だけど……!いきなりそんなところ触るなっていうか、触るならもっと優しく……いややっぱり触らなくていいから…!!」
勢い良く起き上がる。本当に油断ならない女。こっちばかりが心臓を跳ね上がらせているのがバカみたいに悔しい。
ホエールキャプチャに向き合って肩を掴む。
「いいから、君は大人しくしてるだけで。ぼく…おれが、全部やってあげるから」
不満そうな顔の彼女が、手を伸ばしてふわりとオルフェーヴルの頬を包み込んできた。
むにむに、むにむに。まるで強張る表情筋を解すように。
「オルフェくん、きみは勘違いをしていると思うの」
「かんちがい?」
「ねえ、私の名前を言ってみて?」
小首をかしげておねだりをする、愛らしい少女。
「ホエちゃん……ホエールキャプチャ」
「そう、私はホエールキャプチャ。大きな鯨を捕まえる者」
むにむにと頬を揉んでいた手つきはやがて、オルフェーヴルの唇に触れる。
「鯨はきみ。つかまえるのは、私よ」
果たしてどちらが先にとらえたのか。
ふにゃりと触れ合う唇の感触はおそらく、少年と少女の思い出として残っていくのだろう。
やっぱりこの女はただものではないと思う。こっちが火が出そうなほど顔が熱くなっているというのに、にこりと愛らしく微笑むばかりのホエールキャプチャ。
「本当にかわいいひとね」
どうかとらえてはなさないでと、願ったのはどちらだったろうか。