金獅子との戦い(1回目)

金獅子との戦い(1回目)


空に浮かぶ島々、名はメルヴィユ。

獰猛な生物が数多く生息する島々の中、唯一人が住んでいる小さな村に滞在することになったナミ。彼女はその日の夕方、村の裏手へと回り、一味の仲間達と合流しようとした。


「来るな、ナミ!」


しかし裏手に回ったところで、ルフィに制止される。大きな石舞台のある高台にて、ルフィ、ウタ、ゾロ、サンジ、ウソップ、チョッパーの6人が、戦闘体勢を整えた状態で並んでいる。何故そのようなことになっているのか、理由はすぐにわかった。


「ベイビーちゃ~ん、見っけ♡」


大きな石舞台の上に立っていたのは、かつてあの海賊王と互角に渡り合ったとされる伝説の大海賊。獅子の鬣を思わせる金髪、頭部に刺さった舵輪、両足に義足代わりとして着けられた2本の刀が特徴的なその男———“金獅子のシキ”は、ナミの姿を見つけるとニヤリと笑った。


「シキ…!」

「つれねェじゃねェか、ベイビーちゃん。黙って逃げ出すなんて…傷ついたぜェおれァ!」

「黙れクソ野郎! ナミさんとおれ達にした仕打ち、何倍にもして返させて貰うからな…!」


馴れ馴れしい態度で語りかけるシキに対し、サンジが苛立った口調で返すも、シキは「ジハハハハ!」と笑ってみせる。


「威勢のいいこった…! おれは海賊、欲しいものを奪っただけだぜ? 奪われる方が間抜けなのさ。そこまでいい女もそうそういねェからな。奪われたくなけりゃしっかり守れ! もっとも…その女の方が、既におれから離れられなくなってると思うがな。そうだろ、ベイビーちゃ~ん?」

「てめェ…!」

「ほんと最低…シャンクスとはまるで大違いだね」


ねちっこい言葉でナミのことを見るシキに、一味のメンバー達は不快そうな表情を見せる。サンジは今にも動き出しそうなほどに怒りの感情が露わになり、ウタは自身の父のことを思い浮かべながらシキを軽蔑する目で睨みつける。その言葉を聞いたシキは「ん?」とウタの方に視線を向けた。


「シャンクス? そっちの紅白のベイビーちゃん、赤髪の奴と知り合いか?」

「そう。私はシャンクスの娘、ウタ。歌で新時代を作る女だよ」

「…ほう、驚いたな」


昔、自身が何度も激突した海賊王の一味。そこにかつて見習いとして所属していた赤髪の少年のことは、シキもまだ記憶に残っていた。四皇と呼ばれるほどにまで成り上がったあの小僧に、まさかこんな可愛らしい娘がいたとは。シキは興味深そうにウタのことを見据える。


「ジハハハハ! あの見習い小僧、おれの知らないところで子供なんて作ってやがったとは…だが悪いなァ、紅白のベイビーちゃん。興味が全くないと言えば嘘になっちまうが…今おれが用があるのは、そっちのオレンジのベイビーちゃんだけだ」


シキから見ても、ウタはかなりの美少女だという認識はあった。しかし、シキが今求めているのは、航海士として優秀な能力を持つナミだけ。ウタが不快そうな表情を浮かべるのを無視し、シキは改めてナミの方に狙いを定めようとした。


「おい舵輪!」

「あ?」


その時、今まで黙って話を聞いているだけだったルフィが口を開いた。


「ウタも、ナミも、お前なんかには渡さねェ。おれの仲間に手ェ出して、無事でいられると思うなよ」

「ほう、どうする気だ?」

———ぶん殴る!!


ルフィが先陣を切り、それに続くように他のメンバー達も一斉に動き出した。


「ジハハハハ! 殴れるもんなら殴ってみろォ!」


高笑いするシキに向かって、まずは右腕を振りかぶったルフィが攻撃を仕掛ける。伸ばした右腕が石舞台のへりを掴み、もう片方の左腕でシキに殴りかかる。


“ゴムゴムの”ォ…“鎌”ァ!!


ルフィの攻撃を、シキは自身が持つフワフワの実の能力で宙に浮かび、難なくかわす。そこにウソップとゾロが続けて攻撃を繰り出す。


必殺、“火の鳥星”!!

“七十二煩悩(ポンド)砲”!!


ウソップが大型パチンコ“カブト”から炎の鳥を放ち、ゾロが2本の刀で斬撃を飛ばす。シキは前者をひらりとかわし、後者は両足の刀で難なく弾いてみせた。そこに今度はウタが仕掛ける。


“音波”…“破壊の編曲(ハボック・アレンジ)”!!

「…!?」


マイクランスを地面に立てたウタが、シキに向かって放った強力な音波。それを直に受けたシキが空中で一瞬だけ動きを止め、その隙に“飛力強化(ジャンピングポイント)”で跳躍したチョッパーがシキの背後を取り、すぐに形態を“腕力強化(アームポイント)”に変化させる。


“刻蹄”!! “桜吹雪(ロゼオミチエーリ)”!!


シキの背中に炸裂する蹄パンチのラッシュ。これには流石のシキも「ぬっ」と僅かに呻き、そこにすかさずサンジが追撃する。


“胸肉(ポワトリーヌ)シュート”!!


サンジの強烈な蹴りがシキの胸部に命中する。これは決まった…かと思われたが。


「なかなかいいチームだ」

「なっ!?」


サンジは驚愕する。彼の放った蹴りは、シキの右手に掴まれ難なく防がれてしまっていたからだ。


「おれに手を出させるとは大したもんじゃねェか…だが、出した手は引っ込める訳にはいかねェぞ?」

「「サンジ!!」」


ウタとチョッパーが叫ぶ中、シキは空中でサンジの右足を掴んだまま左手をゆっくり上げようとする。


「まずはお前からだ…!」


その時。


———“ロケット”ォ!!!

「ぬお!?」


シキの後方から、ゴム鉄砲の弾のように加速したルフィが飛来し、シキを大きく吹き飛ばした。それによりサンジがシキから解放される。


「ん、なんか喋ってたか?」

「別に」


ルフィとサンジが地面に着地し、そこに他のメンバー達も並ぶ。空中で態勢を立て直したシキは、そんな彼らを見下ろしながら鬱陶しげな表情を浮かべる。


「…おれと対等にやり合えると思っているとは」


今の少ない攻防の中で、彼らがそれなりの実力を持っていることはシキにも理解できた。しかし、それだけだった。彼らが自分とまともにやり合えると思っている今の状況は、シキにとっては不愉快な物でしかなかった。


「面倒だ。まとめて相手をしてやる」

「! 何かする気だぞ…!」


シキが右手をゆっくり前に出す。それを見たルフィ達が、どんな攻撃が来るのかと咄嗟に身構える中で、シキが手首を上に返す。


「ん?」


ルフィの足元で、石ころが僅かに転がり動く。次の瞬間…


「「「「「「!?」」」」」」


ルフィ達の立っている地面が大きく揺れ、周囲の地盤が次々と浮かび始める。驚くルフィ達を見下ろしながら、シキは右手で拳を握り締める。


“獅子威し”…“地巻き”!!!


周囲の地盤は複数の巨大な獅子の顔へと形を変え、それらが咆哮を上げながらルフィ達を取り囲む。完全に逃げ場を失った彼らだったが、ルフィはすぐに両腕でパンチのラッシュを繰り出し、その勢いのまま両手で強力な掌底を放つ。


“ゴムゴムの”…“攻城砲(キャノン)”!!


前方にある巨大な土の獅子が、強力な掌底により打ち砕かれる。それによりシキの姿が見えたことで、ゾロとサンジ、ウタとチョッパーが駆け出した。


「コック!!」

「おう!!」

「チョッパー、私を乗せて飛んで!!」

「わかった!!」


“和道一文字”を口に咥え三刀流の構えを取ったゾロが跳び、それに続いて跳躍したサンジが右足にゾロを乗せ、シキに向かって大きく飛ばす。


“空軍(アルメ・ド・レール)”…“パワー・シュート”!!


ゾロがシキに向かって飛ぶ中、再び“飛力強化(ジャンピングポイント)”に変化したチョッパーもまた、ウタを連れて高く跳躍。そこからウタもチョッパーを踏み台に大きく跳び、マイクランスを構えてシキに突撃する。


必殺!! “アトラス彗星”!!


さらにウソップがカブトから4発の弾丸を放ち、それらが宙に浮かぶシキに向かって曲線軌道を描きながら正確に飛んでいく。彼らの連携を見たシキはと言うと……どこか拍子抜けといった表情だった。


「狙いはいいが、ダメだ」


ウソップの放った弾丸を難なくかわし、4発の弾丸がシキの後方で爆発する。そこに3本の刀を構えたゾロが攻撃を仕掛ける。


“三刀流”!! “牛鬼勇爪(ぎゅうきゆうづめ)”!!


一点に破壊力を集めた、ゾロの三刀流による強力な大技。その一撃は、シキが振り上げた足の刀で難なく受け止められてしまった。


「何…!?」

「お前ら如き、殺す価値もないわ」

「ぐォあ!?」

「ゾロ!? この…!!」


シキが右手でパンチを放ち、ゾロをルフィ達のいる地上へと撃墜する。その横からウタがマイクランスを構えて飛来し、それを見たシキは面倒臭そうに足の刀で返り討ちにしようとする。しかし彼が足で振り上げた刀の一撃は、ウタが突き出した槍の穂先に触れる寸前で勢いがなくなってしまった。


「んん?」

「斬撃、貰った…!!」


マイクランスに仕込んである斬撃貝(アックスダイアル)の効果で、シキが放った斬撃を吸収することに成功したウタ。その斬撃をそっくりそのまま返してやろうと、ウタは槍で薙ぎ払いを仕掛けようとした。


“インレイ”———

「いい加減鬱陶しいぞ、小娘」


しかし、事態は彼女の思い通りにはならなかった。


「!? がは…!?」


ウタの横腹に、強烈な衝撃と痛みが走る。シキが能力で浮かせた岩石が、横方向からウタの横腹に向けてぶつけられたのだ。想定していなかったダメージによりウタは体勢を崩され、シキはその隙を見逃さなかった。


“獅子舞・獣王無塵(ししまい・じゅうおうむじん)”!!!

「くっ…あァ!?」

「ウタ…うわァ!?」


シキが至近距離から繰り出した、両足の刀による凄まじい連撃。槍を用いても完全には防ぎ切れなかったウタが吹き飛ばされ、それを受け止めようとしたチョッパーごと地面に撃墜される。


「ひいいいい!?」

「くっ…“ギア”———


土煙が上がり、巨大な土の獅子達がルフィ達に迫り来る。ウソップが悲鳴を上げるその横で、ルフィは右手の指を噛み、“ギア3(サード)”を発動しようとした……が、その前に巨大な獅子達が、ルフィ達を全員呑み込んでしまった。


「ルフィ!!」


その光景を見たナミが叫ぶ中、ルフィ達を呑み込んだ土の獅子達は形を変え、蔓のように絡み合いながら螺旋状の巨大な塔へと変わっていく。


「っ…」


ナミは声をなくした。巨大な土の塔に生き埋めにされたゾロの、ウソップの、サンジの、チョッパーの、ウタの、そしてルフィの顔が見えたからだ。


「みんなァ!!!」


ナミは悟るしかなかった。今この瞬間……ルフィ達は金獅子のシキに、敗北を喫したのだと。


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