重なる影
注意
・2年後軸
・居住スペースで寝落ちるGWちゃん
・3兄さんは出てこない
・本編はMr.5、おまけはGWちゃん視点
・その他もろもろ
上記を読んだうえで大丈夫でしたらどうぞよしなに。
「...あ、また落ちてんな」
ミス・ゴールデンウィーク...マリアンヌが居住スペースの床で寝落ちている。
スタミナが無いのか眠気の限界まで我慢するタイプなのか、彼女は時々床で寝落ちていた。
どれくらい前から落ちていたかは分からないが、一番目敏く回収してくれるザラもそこそこの確率で見掛けてはゆっくりと運ぶベーブも出掛けていて居ないせいで今の今まで放置されていたのだろうか。
「おい、起きろ」
「んんう...」
こうなると中々起きない。
傍らに落ちていたバッグを回収し、溜め息を吐いて彼女を抱き上げる。
愛らしさというものが備わっている彼女の緩んだ寝顔に、こっちまで気が抜けそうになった。
「ん...」
マリアンヌの目がゆっくり開く。
「おっ、起きたか?起きたなら自分で───」
こちらに焦点の合わない瞳を揺らしながらきゅっと縋り付くように服を掴まれた。
「ありがとう、みすたーすりー...」
元同僚の名を呟いたマリアンヌは瞼を下ろして眠りに落ちてしまう。
「...アイツもやってたのか、これ」
反射的にというかほとんど無意識の状態で名前が出る辺り、よっぽどこの嬢ちゃんは相棒に大切にされていたらしい。
ここには居ないアイツを思い出すと2年前のあの時『どうしてリトル・ガーデンに置いて行った』と少しばかりむかっ腹が立ったが、まさか八つ当たりに彼女を叩き起こすわけにもいかないのでそのままベッドまで運んだ。
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「ああ、マリアンヌは時々言うわよ。」
「そうか...」
帰ってきたザラに説明するとそう返ってきて思わず渋い声が出る。
「でも私にはほとんど言わないから、多分ベーブの方が言われてるんじゃないかしら。」
「アイツを重ねてんのか?(よりにもよってアイツかよ)」
「まあ一番彼女と関わる時間が長かったのはMr.3だったし、仕方のないことね。」
「でもアイツはリトル・ガーデンで置き去りにしやがったんだぞ。」
「それでも、よ。親が手を離しても多くの子どもはまた手を繋ぎに行くでしょう。...多分それと同じ。いつか言わなくなる日が来るんじゃないかしら。」
ザラにそこまで言われては納得するしかない。
「(...それはそれとしていつか相棒のマリアンヌを置き去りにした罰として一回爆発くらいしてくれねェかな)」
苛立ち混じりに吐いたおれの溜め息がカップの前で爆発した結果死ぬほど怒られたのはまた別の話だ。
おまけ
「なあ、マリアンヌ」
「なあに?」
「お前が床で寝落ちてたときなんだが...覚えてるか?」
そう聞かれて首を傾げる。
残念ながら途中で落ちてしまった時は起こされたりしてもほとんど覚えていない。
「アイツの、Mr.3の名前を呼んでたんだ。よく拾ってもらってたのか?」
「あー、ええ。机とかなら放置されてたけど床で落ちた時は回収されてたわね。...もしかして間違えて呼んでたりした?」
「ああ、おれが運んでる時だったから驚いてな。」
何回かやらかしちゃったことはあったけど、まさかジェムにまでやってしまうなんて。
「ジェムは煙草の残り香がするから、それで間違えちゃったのかも...ごめんなさい。」
「寝ぼけて間違えることなんて誰にでもあるから別に構わんが...」
なにかを言いたげな複雑な顔をしたけれど、その口からその顔をさせるに至った思考由来であろう言葉はそれ以上出てこなかった。
「まあなんだ、寝落ちる癖は直した方がいいな。そのうち風邪引くぞ。」
「はあい、気をつけるわ。」
代わりの優しさを口に出したジェムが買い出しに行くのを見送って、溜め息を1つ。
「(...本当にMr.3だと思ってたんだわ、きっと)」
また回収して運んでくれている、とあの時のわたしは思ったんだろう。
わざわざ運んでくれたジェムに失礼なことをしてしまった。
「...」
それだけ、あのときのMr.3の優しさがわたしは忘れられないんだろう。
「ひどい人ね、Mr.3って」
優しくするだけしておいて、そのまま放り出した。
置いて行って、振り返ることもしなかった。
その事実に少しだけ心臓の辺りに痛みを覚える。
「まあ、もうどうでもいいことね」
口に出しても心に纏わりつく言葉が微妙に重苦しさを残したままだけれど、新しく何か描こうと筆を取った。