(酔うと儚げ泣き上戸なカイザー、良いっすね……)

(酔うと儚げ泣き上戸なカイザー、良いっすね……)


 貴方の為なら死ぬことすら厭わない、と叫んで縋る奴隷のような男達さえ射竦めてみせる刺々しい薔薇の美貌が。

 ある一定水準のアルコール摂取量を満たすと途端に茨を脱ぎ捨て、ぼんやりと虚空を眺めながら涙を流すだけのカラクリ人形になるのを、冴は知っている。


「……………………」


 お可哀想に、と訳がわからずとも嘆く者の現れそうな儚げ極まりない風情で、カイザーは白いままの頬に雫を伝わせていた。

 中身の残ったワイングラスを手にやや俯き、濡れたまつ毛が瞬きのたびにはらはらと水滴を落とす。水面に波紋の打つワインは、カイザーの特殊なファン層なら茨姫様の御涙によって清められた聖酒だとして崇め奉ること請け合いだ。


「おいカイザー、大丈夫か?」

「…………うん。…………まだのめる」

「なるほど大丈夫じゃねぇな。オラもう飲むな、ピンチョスでも食べてろ」


 とろんとした目付き。拙いお返事。この状況でまだ自分を酔っていないと思う判断能力の低下。完全に出来上がっている。

 冴はカイザーの手からワイングラスを引ったくり、自分の酒のつまみであった串刺しのトマトとオリーブを口元に差し出す。

 いわゆる「あーん」を普段のカイザーならばあしらうように手で払うだろうが、今のカイザーは泣く以外の機能をほとんど喪失した生き物なので素直に口に含む。

 だがぼーっと咀嚼しているから上手く飲み込めず、潰れたトマトの果汁が唇の端からつぅと伝い落ちた。


「ああもう。ったく、仕方ねぇなぁ」


 それを幼い頃の弟でも相手にするような目で甘く見咎めて、垂れる薄赤い液体を口付けに近い仕草で舐めとってやる。

 何のことは無い。冴もほぼほぼ酔っていた。100まで到達すると無邪気系女王様が爆誕するとして、現在値は98くらいまで行っている。つまり彼も傍目に平静に見えても脳味噌はだいぶアルコール浸りなのだ。


「ん、さえ……」

「そうだぞ冴だ、冴じゃなかったらこんなコトさせんなよ。犬や豚が許されてるのはお前の脚の味だけだ。唇は畜生どもにはもったいない」

「わかった……さえだけ……」


 多少の流行り廃りはあれど、人間は美形同士の絡みが大好きだ。

 スペインのバルの片隅でひっそりと咲く薔薇で作られた百合の花に、現地の飲み客や潜在的マゾ犬どもははわわと口元を押さえた。

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