酒は飲んでも飲まれるな
IF世界で死ぬ程お酒に弱くなってたせいでハト麦相手に盛大にやらかすIFローのちょっとした話
おまけ付き、おまけの方が長い
正史ローは「ロー」、IFローが「”ロー”」と表記してます
IFローの台詞が読みづらいと思いますがご了承ください
「お前等、どっちが原因だ?」
眉間に皺を寄せ、明らかに怒っている態度を隠しもせず、同盟相手の船長ルフィと剣士ゾロに問いを投げかける死の外科医ことトラファルガー・ロー
怒髪天を突く勢いのローに対し、二人は普段通りのあっけらかんとした態度のままお互いの顔を一瞥し、再度ローを見ながらお互いを指差した
「ルフィが誘った」
「ゾロが飲ませた」
何の悪気もなく互いに責任を押し付けあえば、互いが互いに怒りの感情を向ける
しかしそんな二人よりも圧倒的に激怒しているローはそんな二人の態度に更に怒りの炎を燃やした
「テメェ等二人共同罪だ!!!」
広い広い海の上、ローの怒声は波間に消えた
さて、ローが一体何に激怒しているかと言えば、それは別の世界から来た『もう一人のトラファルガー・ロー』が関係している
かつて麦わらの一味とハートの海賊団船長トラファルガー・ローが組んだ海賊同盟により、ドレスローザ国王ドンキホーテ・ドフラミンゴを倒した、世間的にも事件と呼んでいい出来事があった
しかしこの世界には並行世界、所謂『パラレルワールド』という物が存在し、そこからもう一人のトラファルガー・ローが、一体どんな偶然かこちらの世界にやって来た
そちらの世界ではドレスローザでの戦いを制したのはドフラミンゴであり、更にドレスローザは地図から消滅、国民も当時島にいた海賊や海軍、そして同盟を結んでいた二つの海賊団は壊滅した
と、いう事になった
実際はトラファルガー・ローのみが生かされ、ドフラミンゴの寵愛と言う名の歪んだ執着に囚われた
拷問、凌辱。あらゆる手を尽くして望む形に変えられたトラファルガー・ローはもはやかつての面影もない程に磨り潰された
そんな中で偶然手にした古代兵器の一種、世界線を越える力を持つ機械『ヘルメス』によってドフラミンゴの下を逃げ出した
偶然か、はたまた何かの運命か。こちらの世界に来た”ロー”が現れたのはかつて同盟を結んだ海賊団の船だった
突如船内に落下してくる形で現れた死に体の男に最初皆正体に気付かなかった
敵襲かと剣士とコックと船大工が身構え、はたまたかつて旅した空島からの遭難者かと航海士と狙撃手と船医が慌て、もしくは何かの密偵かと考古学者と音楽家と操舵手が推察する
しかしただ一人、麦わらの一味の船長ただ一人はそのどれでもない事に気が付いた
「あれ?トラ男?お前トラ男じゃねェか!?」
抜けているようで抜けていない、何も考えていないようで人一倍考える。更に野生の勘の鋭い船長の一言に、今度は別の理由で大騒ぎになる船内
同盟は解消しているのに何故来たのか、その怪我は一体何なのか、そもそも自分の海賊団はどうしたのか
本来ならば”ロー”の方がこの世界について聞きたい事が幾つもあったが、聞く暇を一切与えず、まずは治療と船医が医務室に担ぎ込み、ワノ国を出航してから何か大事件が起きたのかと皆新聞を片っ端から読み返し、いっそハートの海賊団に連絡を取った方が早いと結論付けて手紙を寄越せば、返ってきたのは「どういう事だ」と一言と通話の為に寄越された電伝虫の番号
通話で互いの状況を説明し会えば、今度は彼は何者かと議論になる
埒が明かぬと針路を変えて合流すれば、漸く”ロー”は聞きたい事を知りたい事を周りに質問出来た
そうして”ロー”はこの世界がどんな世界なのか、麦わらの一味とハートの海賊団は突如現れたこの男が何者かを理解した
”ロー”の療養の為、古代兵器の一種を調べる為に再度同盟を結んだ両海賊団は、一時目的地を変更し、いろいろな島を巡って文献を漁っている
と、それがここまでの話
今”ロー”は何をしているのかというと、麦わらの一味の海賊船『サウザンド・サニー号』の甲板でゆらゆらと上体を動かし、ほのかに赤くなっている顔で柔らかな笑顔を浮かべ、少し呂律の回っていない言葉を発しながら船医チョッパーと会話している
簡単に言えば酔っぱらっている
まだ日の出ている時間ではあるが酒盛りをしていたゾロと、つまみの料理目当てで一緒にいたルフィ。そんな様子を遠巻きに見ていた”ロー”をルフィが腕を物理的に伸ばして引き寄せて輪に入れ、その際にゾロが一杯どうかと飲ませた結果、ほんの少しで酔いが回ってしまい、立ち上がっても盛大に転んでしまうような状態になってしまった
そして冒頭に至る
「テメェ等何重傷者に酒なんか飲ませてんだ!!普通に考えりゃ分かるだろ!!」
「だってよ、あいつも一緒に飲みたそうな顔してたからよー」
「んなの麦わら屋の独断だろうが!!」
説教するローと不満そうにしているルフィ、ゾロの近くで、甲板の芝生の上でチョッパーと会話を楽しむ”ロー”は、そんな三人を見て柔らかく笑っていた
「たのしそぉ、おれもいこぉかな」
「駄目だって!今のお前すぐ転ぶだろ!?」
立ち上がろうとした”ロー”をチョッパーは慌てて止めると、自分も混ざりたかったと不満そうに頬を片方膨らませた。その言動が幼く、傍で見ていたハートの海賊団クルーであり、旗揚げの時から共に航海している二人と一匹が騒ぐ
「「酔ってるローさん可愛いんですけど!!」」
「ローさん!ローさん!」
ベポに呼ばれて顔を上げれば、両手を広げてこちらへ来るように促され、”ロー”はパァと顔を綻ばせて抱きついた
「ん、んふふ…あっらけェな」
「ローさんも温かいね。ローさんいつでも抱きついて良いからね」
「んっ」
「おいずりィぞベポ!!」
「そうだそうだそこ変われ!!」
「調子に乗ってスミマセン……」
「「打たれ弱ッ!!」」
相も変わらず騒がしい二人と一匹のやり取りに”ロー”は楽しそうに笑いながら、慰めるようにベポの頭を撫でた。それが嬉しくてベポは優しく”ロー”を抱きしめた
「ほらトラ男、一回部屋で休もうな?」
「んぅ、ベポらちもいっしょぉ?」
一旦医務室へ連れて行こうとチョッパーが背中をポンポンと叩いてそう促すと、”ロー”は皆を連れて行きたがる。しかし流石に全員で入るには医務室は狭く、せめて誰か1人に絞ってくれと言えばかぶりを振って片腕で必死にベポにしがみ付いた
「ローさん俺達と離れたくないみたいだな」
「もうここがラフテルなんじゃね?」
と、ペンギンとシャチが可笑しな事を言い出した
埒が明かないとチョッパーはこちらの世界のローに助けを求めると、説教を中断して”ロー”に近付いて来た
「おい、さっさと医務室に行け。それで寝てろ」
「ベポらちも、いっしょがいぃ」
「全員は無理だ、1人選べ」
「やらぁ!もぉはなれらくない…いっしょがいいッ!」
必死に抱きつき、遂には泣き出してしまった”ロー”に困り果てて頭を搔くロー
そんな騒ぎを聞いてナミが現れると、泣いている”ロー”に気が付いてすぐさま駆け寄り、”ロー”を抱きしめて頭を撫でた
「ちょっと何、どうしたのよ!?」
「うぁ、ナミや…みんないじめう…おれ、やらっていってうのに……」
「あんた達何してるのよ!!こんな幼気な子を泣かせて!!」
「ナミ屋、そいつは俺だし、何なら俺より年上なのを忘れてねェか…?」
別世界のとはいえ同一人物だ。そんな自分が泣いてあやされているのを見せられるのは流石に止めてほしい
事情を説明すればナミは”ロー”の頭を撫でながらも何とか納得してもらえないかと説得を試みるが、向こうの世界で溜め続けていた感情が酒のせいで抑える事が出来ないらしく、何をどれだけ言っても嫌だの一点張りだった
「やっぱここラフテルだよな」
「流石ペンギン意見が合う」
「お前等はさっきから何ふざけてんだ」
「「ふざけてません大真面目です!!」」
「尚の事何言ってんだ!!」
やいのやいのと騒ぐ皆に助け舟を出したのは、その様子を眺めながらつまみを食べ続けていたルフィだった
「良いじゃねェか一緒にいさせてやれば」
唐突な発言に一斉に静まる
「ゾロ」
「おう」
名前を呼ぶ以上の会話は一切無く、それでもルフィの意図を察したらしいゾロは持っていたジョッキを置いて立ち上がり、一旦船内に入って行った
少しして戻ってきたゾロは何と医務室のベッドを1つ担いでいた
皆呆気に取られているのを気にも留めず、ゾロは”ロー”のすぐそばにベッドを置いた
「ほらよ」
「ここで寝りゃ一緒に居られるな!」
にししと笑って腕を伸ばし、”ロー”の頭をポンポンと叩く
いや、そもそも室内でゆっくり休ませたいとローやチョッパーが言うよりも早く、”ロー”は満面の笑みを浮かべてルフィを見る
「むいわらや、ありあと!」
「おう!」
ベポに支えられてベッドに乗るとこてんと横になり。傍に自分のクルーがいる事が嬉しくてくふくふと笑った
大人しくなるならこれでも良いかとローが大きく溜め息を吐いた
日差しが眩しくないようにパラソルを差し、水を少し多めに飲み、ブルックが音楽を奏でると”ロー”はふやふやと柔らかく笑った
「ここに来たの俺等だけで良かったかもな」
「だな、確実にローさんへの愛しさで死ぬクルーの山が出来る」
「そうだね、まだ俺達キャプテンと付き合い長いから大丈夫」
「だからお前等はさっきから何ふざけた事ばっか言ってんだ」
「「至極真面目です!!」」
「アイアイ!!」
「うるせェ!!」
「スミマセン……」
「「打たれ弱ッ!!」」
「ったく……」
今日も両海賊団は元気である
おまけ
日も沈み、互いの船に戻って夕飯を取り、それぞれ不寝番を残して皆が眠った頃、もう酒の抜けた”ロー”は自室で羞恥心に悶えていた。酔っていたとはいえあんなのはどう考えても子供が駄々をこねるのと全く一緒だ。向こうの航海士には宥められるし、もう一人の自分の前で醜態を晒した。穴があったら入りたいと枕に顔を埋めて呻き声を上げて暴れていた
落ち着いたと思えば恥ずかしさがぶり返し、また落ち着いたと思えば再び暴れを繰り返し、少し外の空気を吸いに行こうと杖を手に外へ出た
甲板に出ればヒンヤリと冷たい風が羞恥で熱くなった顔を程よく冷やした
柵に凭れ掛かって大きく溜め息を吐いた
(恥ずかしい…兎に角恥ずかしい……明日どんな顔してあいつ等に会えば良いんだ……)
グッと唇を噛み締めて恥ずかしさを耐える
気持ちが落ち着くまで夜風に当たっていようと空を見上げた。漆黒の空に無数の星々と笑っているような三日月
サニー号の方を見ると船首の愛らしいライオンの上にルフィの姿が見えた。今日はあいつが不寝番なのかとぼんやり考えていると視線を感じたのかそれとも見聞色か”ロー”に気付いて手を振ってくる
かと思った次の瞬間”ロー”に腕を伸ばして引っ張り、サニー号の甲板まで引き上げてきた
突然の事で何が起きているのか分からず、ただされるがまま引っ張られた”ロー”は心臓が跳ねた
「よ!」
「む、麦わら屋!な、なん…」
「悪ィ悪ィ、暇だったから話し相手になってくれって言ったんだけど聞こえてねェから引っ張っちまった」
もっと別の方法、それこそルフィの方がポーラータング号に来るのだって良かっただろうと言えば「それもそうだな!」と笑いながら言ってきた
まぁ何にせよ来てしまった、というより連れてこられてしまったのだから話相手になろうと船首に座るルフィの後ろに腰掛けた
「そういやーお前すげー酔っぱらってたな!」
「う゛ッ!!」
折角少し忘れかけていた事を蒸し返されて呻き声が出る
”ロー”達が船に戻った後の麦わらの一味の話題はもっぱら酔った”ロー”の事だったと笑いながら言われれば、”ロー”は再び顔を真っ赤にして唇を噛んだ
「にしても、トラ男って酒飲めなかったっけか?ドレスローザとかワノ国の宴の時は飲んでたと思ったんだけどな」
「っあ…あ、えっと…向こうで、全然飲まなかった、のと……」
体が弱くなったから
小さな小さな声で言ったそれはすぐ傍にいたルフィ以外には波の音にかき消されて聞こえない程弱々しい言葉だった
「……そっか」
「や、その…悪い……」
余計な事を言ったかもしれない、今そんな事を態々言う必要は無かったとハッとしてすぐに謝罪すればルフィは首を傾げた
「何でお前が謝んだ?」
「え?えっと、その……空気悪くしたかなって」
「んなの別に気にする事ねーだろ、友達なんだから」
「ともだち……」
どうしてそう言ってくれるのだろうか
確かにトラファルガー・ローという人間に対してルフィは仲間だ友達だと言ってきていたが、それはあくまでこの世界のローに向けられた言葉だ。だって向こうの世界のルフィはあの日、自分のせいで、自分が覇気の回復を待つルフィを見付けられなかったから、だから死んでしまったのに、それも全部話したのに
どうしてそんな自分に何の気兼ねもなく友達だと言い切れるのだろうか
「麦わら屋…」
「ん?」
「その、何で……」
「トラ男は良い奴だから」
「友達って言ってくれ……え?」
自分が聞くよりも早くルフィが返答した事に驚いて固まった
「助けてくれたし、偶に変なとこで意地張るけど、やっぱ良い奴だからな」
「で、でもそれはこっちの…」
「お前も同じだろ?」
「いや、全然…全然同じなんかじゃ……」
恩人の本懐を果たせたロー
本懐を果たせず囚われた”ロー”
己の意思で自由に生きるロー
選ぶ事すら忘れた”ロー”
強く凛々しく前を向くロー
弱く震えて下を向く”ロー”
同じじゃない、一緒にするなんてこっちのローに失礼だ
押し黙ってしまった”ロー”にルフィはいつも通りの笑顔で応えた
「同じだろ。変な所で負けず嫌いで」
「うっ」
「パン嫌いだろー?それに梅干し食うとこーんな顔するし!」
と、”ロー”が梅干しを食べた時に酸っぱさで反射的にしてしまう顔を真似すれば、”ロー”は恥ずかしくて慌てて止めた
不服そうな顔をする”ロー”をルフィは笑った
「それによ、お前もトラ男も仲間の事すっげー大事にしてるだろ?だから良い奴だなーって思うんだ!」
「あ…」
そうだ、そうだった
そこだけは、それだけは胸を張って同じと言える
良い奴
かつて同盟を組んで、そして自分のせいで死なせてしまった相手。別世界のとはいえ同じ人物にそう言われて、嬉しいと同時に胸が痛くなる
自分もこちらの世界のローのように強かったのなら、ルフィは死にはしなかった筈なのに。彼の一味も自分の仲間も全員生きていた筈なのに。そんな考えが頭の中を巡って涙が滲む
胸を抑える”ロー”の肩をルフィは遠慮なく叩いた
「そんな顔すんなよ!俺泣き虫は嫌いだ!」
「きらっ!?」
あっけらかんと、問答無用で、笑顔で嫌いと言い切るルフィに一種の尊敬に近い念を抱いた”ロー”だった
その後はドレスローザ以降のルフィ達の旅の話を聞いた。サンジが”ロー”の好きな「海の戦士ソラ」に登場する悪役ジェルマと聞いた時には目を輝かせ、ビッグマムのお茶会を台無しにした時の事や、そこで戦った相手の事を話せばハラハラと聞き入った
ワノ国でローが錦えもん達侍をまるで死んだ様に言ってルフィを驚かせた話や、鬼ヶ島でカイドウ、ビッグマムとの戦いの際にルフィ、ロー、キッドの三人で最初に攻撃を避けたら格下と変な張り合いをして、全員無事に攻撃をくらった話を聞いた時は何しているんだと声を出して笑った
苦戦して、一度死んだかと思えば生きていて、そうして最後カイドウを倒した後は皆でそれは大きな宴をした
「楽しかったなー!モモだろ?錦えもんだろ?他にもワノ国の奴等と、トラ男のとことギザ男のとこの仲間も皆で宴したんだ。すっげーでっけェ宴だったんだ!」
にししと笑う笑顔が太陽のように眩しくて、”ロー”は少しだけ目を細めて笑った
「良いな、俺も一緒にやりたかった……」
もう居ない仲間達と一緒に
ぽつりと呟いてハッとした。そんな事言うつもりはなかったのに、気付いたら口をついて出ていた
馬鹿野郎、自分にそんな事を言う資格は無いだろう、参加する資格だって無い
慌てて繕おうとすればルフィは”ロー”の頭を乱暴に撫でた
「やろう!」
「え?」
「そっちの俺が出来なかった事、俺がやる!そっちのミンゴぶっ飛ばして、それで宴をしよう!俺達とトラ男んとこと、あとお前で皆で宴をしよう!!」
「…何で、何でそこまで……」
「友達だから!」
ニカッと笑うその表情があまりにも眩しすぎて、その言葉があまりにも温かくて、”ロー”は気付いたら涙を流していた
「何で泣くんだよー、俺泣き虫嫌いだ!」
「ご、ごめ…嬉しくて、勝手に……」
「あそうだ決めた!トラ太だ!トラ太にしよう!」
「……へ?」
あまりにも何の脈絡もない話に気の抜けた声が出る
「だからお前の名前だよ!トラ男はトラ男で、お前はトラ太!いやァずっと何て呼ぼうか考えてたんだ!」
そこで思い返してみれば、ルフィが”ロー”の事をトラ男と呼んだのはこの世界に来てから本当に最初の方。まだ自分が別世界の人間だと皆が分かっていなかった間だけだった
ずっと同じ人間なのにと悩んでいた
だけど今のルフィの言葉で漸く同じだけれど違う人生を歩んだ存在だと、自分の事を少しだけ許してあげられそうな気がした
それでも自分が弱いからこそ何もかもを失った事は揺るがない。自分のクルーや向こうの麦わらの一味からは恨まれているかもしれない。その気持は揺るがないのに、何故か向こうのルフィには今、たった今「怒ってねェよ」とそう言われた気がした
「む、ぎ…」
「麦わら屋!!」
怒りに満ちた声と共に水色のサークルが広がると、サニー号の甲板にローが現れた
「トラ男!何やってんだ?」
「そいつが居ねェとクルーに言われて探しに来たんだ。そしたら船首にお前等の姿が見えた。そいつはまだ互いの船を移動出来るだけの体力は無ェから必然的に麦わら屋が連れ出したんだろ!」
「ま、待て、待ってくれ。部屋を出たのは俺の意思で…」
「なら麦わら屋の船に居るのは?」
「えっと、それは……」
「話し相手になってくれって俺が連れてきた!」
「麦わら屋ァ!!」
ルフィの連れて行き方なんてどう考えても抱えて飛ぶか、掴んで引っ張るかの二択だ。どちらにしろ重傷者である”ロー”には負担以外の何物でもないとローが怒鳴れば、ルフィはカラカラ笑いながら謝った
兎に角お前は船へ戻れとローは能力を使って強制的に”ロー”を部屋へ飛ばした
部屋に戻された”ロー”はルフィに言われた事を脳内で反芻した
「そっちの俺が出来なかった事、俺がやる!そっちのミンゴぶっ飛ばして、それで宴をしよう!俺達もトラ男んとこと、あとお前で皆で宴をしよう!!」
良いのだろうかと心苦しくなったが、そんな事を言ってしまえば、きっとルフィは「俺がやるって言ってんだ」と怒るだろう
申し訳なくて、だけどどうしようもなく嬉しくて涙が溢れた
この世界は温かい
向こうの世界じゃいつも悲しくて辛くて泣いていたのに、こちらに来てから嬉しくて泣いてばかりだ
その事実が嬉しくて更に泣いた
漸く涙が止まった頃、”ロー”は穏やかな気持で眠りについた
「お前はもう少し怪我人の扱いをだな」
「にしし、悪ィ悪ィ」
反省の色等全く見せずに笑うルフィに呆れて溜息を吐けば、ルフィは前方、真っ暗な水平線を見つめた
「トラ男」
「…何だ」
「俺、トラ太の事助けてやりてェ」
「トラ太…あァあいつか」
また変なあだ名と付けてと文句を言えば、お互い様だろとルフィは言う。事実なのもあってローは何も言わなかった
「向こうのミンゴはぶっ飛ばす。それでトラ太を自由にしてやる」
真剣な声色でローにそう伝えれば、小さく一言「あァ」とだけ答えた
今宵は快晴、空は笑う
太陽神を身に宿す青年の言葉は力強く
答える月の似合う青年の眼差しは力強く
目指すは仇討ち、弔い合戦
世界を越える神の名を持つその機械を求めて、二つの船は夜闇を進む