邂逅
⚠️解釈違いの可能性あり、一部こちらの判断した設定(幼馴染概念、メガネイクイなど)や馬を出します。
「父さんに会ってみたい?」
イクイは彼女…スターズオンアースが言ったことを聞き返した。
「うん!これからイクイ経由でお世話になるかもしれないし。」
「そんな結婚の挨拶みたいな…というか昔会ったことなかったっけ?」
「確かにパパ経由で会った事はあるわ。でも結構昔の事だし殆ど覚えてないから。」
たしかに幼き日のイクイとアースは父親が同期ということもあり、父親を通して交流があった。しかし幼いこともあり、具体的な顔つきなどは覚えていなかった。
「まあ突然意味もなく暴れるような性格じゃないし…大丈夫か。とりあえず連絡してみるね………あ、もしもし父さん?うん、ご飯はちゃんと食べてるから。そういえば会いたいって子がいて…そうアースが会いたいって…ってサウンズさんじゃないから!ダブルティアラの方!僕の同期の!…うんじゃあまた。」
「どうだったの?」
「いつでも来いって。なんでも大歓迎なんだそうで…」
「なんかあったの?」
「まあね…」
……
「イクイのお父さんってどんな方なの?」
目的地…イクイの父親の元へ向かっている最中、アースはふと気になったので、聞いてみることにした。
「なんというか優しくて、勤勉で、それでみんなのリーダーで、って感じ。ちょっと昔気質なところがあるけどね。あとは…これは僕がメガネをかけ始めた時なんだけど…」
「私が選んだメガネよね、それ。何?イクイが選ばないような物だったから『彼女でもできたか?』ってでも言われたの?」
「いや…『目大丈夫か⁉︎』とか『コンタクトレンズの方がいいんじゃないか』とか心配されたよ…なんかこう…ちょっとズレてるんだよね…」
「いいじゃない。優しい方なんだね。」
「うん…」
彼…イクイにとっては偉大な父親であるのは間違いない。偉大過ぎてイクイが一時期プレッシャーを受けていたほどである。それこそ壊れそうなくらいに。アースが言えた口ではないのだが、父親が偉大だとその分苦労するのだろう。
……
「着いたよアース。僕の実家…ってわけじゃないけど、今の父さんの家。」
着いた先は純和風の家…というより屋敷であった。なんとなくプレッシャーを放っており、アースは少し怖さを感じた。この感覚は怪我明けで臨んだトリプルティアラのかかる秋華賞の時のような緊張感であった。
「イクイくん…」
「大丈夫だよアース、安心して。父さん呼んでくるから。」
ピンポーン
「父さん来たよ」
「おうイクイか。準備は終わっているから入ってきてくれ。」
「じゃあ入るよ」
「お…お邪魔します…」
「おお君がアースさんか。」
出てきたイクイの父親…キタサンブラックは既に現役を引退しターフを去って久しいにも関わらず、未だに現役の時と見劣りしない筋肉、ガッチリとした体格、元からの長身とハンサム顔も相まって凄みを感じる。現役時代「リアル黒王号」と呼ばれていた事も納得の体格であった。しかしアースが懐いていたイメージの中で一つだけ乖離している部分があった。アースは体格や趣味からキタサンブラックを「ジャパニーズマフィアのボス」のような人物と思っていた。しかし…
「君がアースさんか。うちの息子が世話になっているなあ。父親として嬉しいよ」
出てきたのは昔気質な善人…それこそ時代劇とかに登場するような尊敬できる人物であった。
「こ…こんにちはおおおおお義父さん!」
「はっはっは。もう私が『お義父さん』と呼ばれるとはな光陰矢の如しとはよく言ったものだ。アースさん、愚息をよろしくお願いします。」
「ちょっ…アースさん⁈…気が早いよ!父さんもさあ!まだ!まだ先だから!そもそもアースはまだ現役!」
「はっはっは。そうかそうか」
イクイは咄嗟に否定して見せた。しかしまあ気があったまでは否定しなかったのでお察しではあるが。そもそも「そんな結婚の挨拶みたいな…」と言った時点で彼の外堀はとっくに埋められていたのかもしれない。
……
居間に通され、そこで改めてキタサンと面と向かいあった。
「ところでお嬢さん…アースさんでいいかな?アースさんの親御さんはどちら様かい?何、いつかうちの愚息とそういう事になったら挨拶したいと思ってね。」
いきなりの問いかけに多少戸惑ったが、アースは返答した。
「えっと…父はドゥラメンテです。」
「ほお…ん?ドゥラメンテ?ドゥラメンテってあのドゥラメンテかい⁈」
「はい、父をご存知だと思いますが…」
「父さん…何年か前にドゥラメンテさんに会った時に彼女はいましたよ…」
「何⁈ではあの時の嬢ちゃんか!すっかり大きくなって…」
「ありがとうございます。」
「しっかし運命的なものがあるのかねえ…うちの息子が…まさかねえ…
ところで今日は泊まっていくのかい?別に構わんよ!」
「父さん…ちょっと…」
「いいじゃないイクイ!お言葉に甘えて泊まっていこうよ。」
「アース…君まだ現役って事忘れてない?なんかあったら僕が先生に怒られるからさあ…」
アースと父親の言葉にイクイはたじろいだ。そもそもこの短時間で両者が妙に仲が良くなっている、そうイクイは感じた。
(取られるってのは父さんの性格からないだろうけど…こう仲が良いと…嫌な予感がする…ただでさえジオやベルーガやティアラ組に美浦の後輩たちに気ぶられているのにこれに父さんまで…)
「イクイくん…何か考えてる…」
「メガネを押さえとるな…カッコつけているのかねえ?」
「あっそういえば彼のメガネって私が選んだんですよ。」
「なるほどねえ…どうりでイクイがこだわるわけだい。惚れられてるねえ…」
「父さんちょっと!」
「父さんなあ、おまえが幸せそうで何よりだよ…あとアースさんを泣かせるなよ」
「はい…」
……
「お義父さんから愛されているんだね。イクイ…」
「父さんの事お義父さんって呼ぶのよしてくれよアース…美浦の後輩たちにバレたら何言われるか…」
「そういえばそのお義父さんは?」
「たぶん…クラウンさんとかに自慢しに行っているか…自主トレか…」
「私たちに気遣って出かけたのかもね。」
「喜んでいいのかどうか…」
……
キタサンは“戦友”の元を訪ねていた。いや、キタサンにとってはライバルや宿敵であったが、彼が結局勝てなかった相手と言った方が正しいか。
「よお、久しぶりだなあ。」
キタサンは“宿敵”にフランクに話しかけた。
「今日はお前さんに土産話があるぞ。前はなんて言ったっけ…イクイが…俺の息子が引退するんだ。でも悪い事ばかりじゃあない。お前さんの娘と仲が良いんだ。お前さんから見たら『婿殿』になるかもしれんぞ?」
「結局俺はお前さんに勝てなかったな…でもここまで勝ち逃げはねえんじゃないか?…今度はクラウンとリアステたちも連れて来るぞ。じゃあな、“ドゥラメンテ”。」
また来る、と言って立ち去ろうとしたとき、
「娘をよろしく頼む。キタサンブラック。」
そんな声が聞こえた気がした。
終わり