邂逅の果てに

邂逅の果てに



 日中だというのに陽光が一切差し込まないほどに鬱蒼とした森を男は往く。

 辺りには噎せ返りそうなまでに強烈な緑の匂いが漂い、動物が鳴いていると思しき声や風に木々が騒めく音が遠く響いている。


(あぁ……やっぱり駄目、なのだろうか)


 自然豊かと言えば聞こえはいいのだが、視界に広がる景色はどこまでも変わることなく緑一色でしかない。


 あまりにも代わり映えしない景色に男がいよいよ絶望を隠し切れなくなっていると、唐突に開けた場所に出た。


 誘われるように顔を上げれば、鮮やかな花々が眩しい色合いの池に咲き乱れている。

 その大きさは男が見上げるほどもあり、本当に花と言っていいのか躊躇ってしまいそうなほどだ。

 目にしているいまこの瞬間も蜜と思しき液体を滴らせているというのに、それくらいどこか作り物じみていた。


 そして咲き乱れるの花々、その一本の根元に見える大きな葉の上に彼女は淑やかに座っていた。


 現れた男の気配に気づいたのか、少女がゆっくりと振り返る。


 豊かな曲線を描く肢体を薄い布地で覆い、ほっそりとした足の先を池に浸している。

 穏やかな微笑を浮かべるその顔は華やかな色を帯びた髪で半分近くが覆われてしまっていた。


 鮮やかな花たちに彩られた彼女、シトリスの蟲惑魔は両手を掲げるように持ち上げると口を開いた。


「さぁ、いらっしゃい♡」


 男は誘われるようにふらふらと歩み出し、ねっとりとした池を越えてシトリスの元に辿り着く。

 そして粘り気を帯びた葉の上で躊躇うことなく膝をつくと、彼女の首筋に顔を埋めるようにして抱きついた。


 シトリスは愛おしそうに微笑みながら手を伸ばし、男の後頭部を包み込むように抱きしめてゆっくりと撫で始めた。


「よしよし、頑張ったわねぇ♡ いい子♡ いい子♡」


 撫でられながら甘く包み込むような声に褒められ、理性がグズグズに溶けていくのが分かった。


 それはどうしようもなく甘美で、決して抗うことのできない至上の誘惑。


(あぁ、あぁ……彼女が、シトリスの蟲惑魔……)


 彼は歓喜したように身体を震わせると、シトリスの胸元を覆う布地を解いてはだけさせた。

 人間の少女と変わらない、色の白いたわわに実ったおっぱいがたぷたぷんと揺れるようにしながらその姿を現す。


 男がおぉと驚くように息を漏らせば、シトリスは恥ずかしそうに頬を微かに紅潮させる。


「変、かしら?」


 彼が勢いよく首を左右に振れば、彼女は安堵したように口元を緩めながら微笑む。


「うふふっ、ありがとぉ♡ さぁ、好きにしていいのよぉ♡」


 シトリスの許しを得て、男はおっぱいの先端に見える鮮やかな色を帯びた突起を迷うことなく口に含んだ。


 彼がちゅぱちゅぱと音を立てながら吸い始めれば、少しデコボコしているような表面からじんわりと甘い液体が漏れ出てきて得も言われぬような多幸感が満たす。

 吸えば吸うほどに噴出するシトリスの母乳蜜は少しずつ勢いを増していき、男はシトリスのおっぱいを吸う行為に没頭していく。


 彼女は最早赤ちゃんになりつつある男の背をトントンと優しく叩きながら、その下腹部に目をやって驚いたように目を丸くした。


「まぁ、おち×ちんもこんなにおっきくしちゃって♡ 可愛い子、ママがシコシコしてあげるからお膝に頭を乗せましょうねぇ♡」


 男がシトリスに指摘されて下腹部を見れば、確かにズボンの布地越しを押し上げるように肉棒が屹立しながら我慢汁の染みを作っていた。


 しかし、不思議なことに男自身にはそんなに昂揚している実感はなかった。


(いや……、もう何も考えなくていい、いいんだ)


 彼女の言う通りにしていれば何一つ間違いなんてないんだから。


 男は言われるがまま寝そべり、シトリスのむっちりとした太ももに頭を乗せる。

 そして雛が親鳥を探し求めるように彼女を見上げ――、あることに気が付いた。


(えっ……!?)


 しかし、男がそれを口にするよりも前にシトリスが身体を傾け、彼の口元におっぱいを差し出した。


 近づけられた果実から誘うように濃く甘い匂いが漂い、男の理性を猛烈に蝕んでいく。


 蕩けるように甘いシトリスの蜜、その味を知ってしまった獲物が誘惑に抗えるはずもない。


 再び理性を手放した男が赤ちゃんのようにおっぱいをちゅぱちゅぱと吸い始めるのを見て、シトリスは愛おしそうに微笑んだ。


「よしよし♡ いい子、いい子ねぇ♡」


 慈愛を湛えた彼女の声が男を蕩けさせ、彼は本能の赴くままにおっぱいを吸い続ける。


 一方のシトリスは男の下腹部に手を伸ばして肉棒を露わにすると、先端から溢れ出た我慢汁を手のひら全体で塗すようにしながら包み込むようにして握る。

 そのまま滑りに任せるようにしながら、血管を薄っすらと浮かびあがらせた男の肉棒を扱き始めた。


「しこしこ、シコシコ♡ こんなに雄々しく、おっきくできて偉かったわぁ♡ さぁ、ぴゅうぴゅううっていっぱい射精して気持ちよくなってしまいましょうねぇ♡」


 シトリスが扱く度に痺れるような刺激が全身を駆け抜け、男は思わず身体をびくびくっと震わせる。

 それでも甘えるようにおっぱいを吸い続ける彼を愛おしそうに見ながら、シトリスは扱く手つきを少しずつ速めていく。


「大丈夫、大丈夫よぉ♡ 何も考えず、気持ちよくなってちょうだいねぇ♡」


 緩急をつけた鮮やかな手つきによって引き出された快楽が摂取し続けている母乳蜜と混ざり合うように、男の体内で猛烈に膨れあがる。


 瞼の裏に見えるのはこれまでの生涯で一度も感じ得なかった、圧倒的なまでの絶頂。

 その訪れを間近に感じ、男はシトリスのおっぱいを引っ張るように力強く吸って彼女に興奮を訴える。


「あぁ、あぁ……もうイきそうなのねぇ♡ うふふっ、いい子♡ いい子♡ ママが一緒だから大丈夫よぉ♡ でも、もうそろそろ……かしら?♡ びくびくってなって……、ほぉら!♡ ぴゅうぴゅうう♡♡ ぴゅうううう、ぴゅううううう♡♡」


 シトリスの手では最早握れないほどまでに大きく膨らんでいた男の肉棒が弾け、精液が勢いよく吐き出される。


 それと同時に男の意識もバチンと音を立てるように途切れ、シトリスの膝枕から解放された全身がゆっくりと葉に絡め取られるようにしながら沈んでいくのが分かった。


 天にも昇ってしまうほどの気持ちよさなのに、肉体は沈んでいくという矛盾。


 その何とも言えないアンバランスさに苦笑しながらもどうしても最期に伝えなければならないことを思い出し、男はゆっくりと手を伸ばす。

 眩しい色の液体に塗れた手がシトリスの顔に触れ、その頬を伝う滴を拭く。


 白磁のような彼女の肌に薄っすらと残る軌跡を見ながら、男は穏やかな微笑を浮かべた。


「……シト、リス。ワガママかもしれないけど、最期に一ついい……かな?」


「なぁに?」


 それが最期の言葉と知りながら、シトリスは愛おしそうな笑みを崩さない。


 いや、彼女はそんな表情しか浮かべられないのだ。

 シトリスの蟲惑魔とは、あるいはその疑似餌でしかない彼女とはどこまでいっても相容れない生物でしかないのだから。


「僕はその……君の左目がないなんて、知らなかった。そんなの、図鑑には載ってなかったから。だから、もし君が気に入ったらでいいから、僕の目をその欠落埋めるのに使って、欲しい。

 それ以外は、全部……君の好きにしてくれていい、から。

 だから……、お願い」


「どうして?」


「だって……、ずっと好きだった女の子が涙を流したままなんて……そんなの、悲しいじゃないか」


 最早力が入らなくなった腕がゆっくりと彼女の頬を離れ、男はその身体を分泌液の池に沈めていく。


 あらゆることに絶望した彼は死に場所を求め、この森にやって来た。

 幼き日に図鑑で見て一目惚れしたシトリスの蟲惑魔をせめて最期に一目見たいと思いながら。


 もちろん広大な森で彼女と出会えるかどうかは運でしかなく、野垂れ死ぬ可能性だって大いにあった。

 その可能性の方が圧倒的に高かったと言っても決して過言ではないだろう。


 でも、男は最期の最期で一世一代の大博打に勝ったのだ。


 しかし、そんなことさえいまの男にはどうでもいいことだった。


(――あぁ、ちゃんと……言えてよかった)


 シトリスの蟲惑魔がどのように答えたのかは男の耳には最早届かない。


 それでも彼は確かな満足感をその胸に抱きなら、分泌液の池にゆっくりと沈んでいった。

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