選ばれず裏切られ

選ばれず裏切られ



ジョイワー前提のイムワー

リリィとイム様は姉妹というトンデモ設定

ワーテルは女設定でイム様も女設定

なので"百合"

つまりジョイボーイは百合に挟まる男ポジになってるから注意







「本当にお姉様はワーテルのこと好きよね〜」

「んぐふっ!!!」

目の前でニヤニヤしながら意地悪く笑う妹につい噎せてしまう

急いで口を拭って妹に詰め寄る

「な、な、な、なんでわかったリリィ!!!」

「だってお姉様わかり易すぎなんだもの。ワーテルが鈍感だったからバレてないだけよ?」

そう言って呆れたように頬杖をついて溜息をつく妹に恥ずかしくなり一気に顔に血が集まる

ボンッと音が聞こえそうな程顔を赤くして顔を覆う

ワーテルとは隣国の王女のことだ

ムーは同性であり、他の王国の王女に恋をしてしまった

国同士の交友を深めるために行われた王族のパーティ

そこで初めてワーテルと出会った

彼女はとても美しく、それでいて凛々しいその瞳にどうしようもなく惹かれてしまった

─────────────────

「……つまらん」

その日はまるで張り付くような不愉快な暑い日だった

お世辞ばかりの大人の汚い心の読み合いに飽き飽きし、そうそうに抜け出した

適当にブラブラしたらリリィと一緒にいようと言う考えでパーティ会場を歩き回る

そこで私は"運命"に出会った

「ふふ……」

「!!」

そこには美しい花アーチに囲まれ動物たちと戯れる美の化身がいた

動物たちを撫でてやるその艶やかしい長く白い指は慈悲に塗れている

薄く微笑むその唇はまるで薔薇のように鮮やかな赤色

まるで恋する乙女のように薄く色付くピンクの頬

まるでこの世の美を全て凝縮したようなかんばせには慈愛の笑みが浮かんでいた

心の臓がバクバクと煩い

体中が熱くて熱くて……息ができない

バギッ「あっ……」

「?」

無意識のうちに彼女に近づいていたらしく地面に落ちていた枝を踏みつけ折ってしまった

動物たちはその音に驚いて散り散りになる

だが彼女が気がかりなのか草陰からこちらをジットと見つめてきた

彼女は驚愕からかパチパチと目を瞬かせ、ふふっと口元に手を持っていき上品に笑った

そんな姿にもどうにもときめいてしまい顔を赤くして俯いてしまう

「ふふふ……あっ!ごめんさない!初対面なのに笑っちゃって……」

「い、いや!私こそ楽しそうなところを邪魔してしまい申し訳ない!!!」

彼女に悲しそうな顔をさせたくなくて慌てて言葉を返すと思ったより声が大きく、早口になってしまった

私の馬鹿!これだと彼女が怯えてしまうだろう!!!

ああ……彼女に嫌われたらどうしようと初対面のはずなのに彼女に嫌われることがどうしても恐ろしかった

こんな感情を抱くのは生まれて初めての経験だ

どういうことなのか自分でも分からずに柄にもなくあたふたしてしまう

だが彼女はこんな私を怯えるわけでも軽蔑するわけでもなく笑って手を差し伸べた

「そんなに慌てなくてもいいのよ?私の名前はワーテル!あなたの名前は?」

「い、イムと申す……」

彼女に……ワーテルに名を伝えるとワーテルは心底嬉しそうに笑い、私に向け手を差し出す

「イム様!私とお友達になりましょう!!」

私は無意識のうちに、その手を握っていた

──────────────────

これがワーテルとの馴れ初めだ

そこから私と彼女は親密な関係を築いていき、お互いの国に頻繁に訪れていた

そうしてワーテルとリリィは私が羨むぐらい仲が良くなり3人で遊ぶことも多々あった

……私としてはワーテルと2人きりになりたいんだが

そして今回は久しぶりにワーテルと2人きりで会うことになった

あまりの浮き具合にリリィからジメーとした目線を送られたが気にしてる場合じゃない

おかしな服装じゃないか?髪型は不自然じゃないか?

そんなことを気にしながらワーテルの部屋に招かれた

「……お、お邪魔する」

「いらっしゃいイムちゃん!!!」

ワーテルの部屋はフローラルな匂いがして落ち着けない

そもそも意中の相手の部屋に招かれて緊張しない人間がいるはずない

ワーテルが嬉しそうに紅茶を差し出してくるので飲んでみたものの……

(味がしない……)

「ねぇイムちゃん」

「なっ!なんだ!?」

いきなり声をかけられびっくりしてしまい声が裏返る

「ははは!も〜イムちゃん今日カチカチだよ?よく遊んでるんだからそんなに緊張しなくてもいいのに!」

そう言って笑うワーテルが可愛らしすぎて胸がキュンと音を立てた

……落ち着け。ワーテルに愛想をつかれたら死ぬ自信がある

「ゴホン!そ、それでなんだ?ワーテル」

「あっそうだった、私ね?イムちゃんの呼び方変えてみたいの」

「呼び方を?」

「うん!なんかイムちゃんって他人行儀みたいな感じがしてモヤモヤしちゃって……」

そうワーテルは悩ましげに頬に手を当ててため息をついた

悩むワーテルと最高に愛らしい……じゃない

愛しい人が呼び方を変えたいならどんな呼び方でも構わない

ただただ私ともっと近くなりたいと言うワーテルが愛おしくて愛おしくてたまらなかった

「うーん……あっ!"ムーちゃん"なんてどう!?」

「む、ムーちゃん……?」

「そう!イムからムーちゃん!可愛いでしょ?」

「ああ。流石ワーテルだ。天使か?」

「て、てんし?」

しまった本音が……!

だがそんな風に困惑するワーテルも美しい

いやワーテルはいつも美しいだろ何を言っている

「とにかくムーちゃんが気に入ってくれて良かったわ!」

「ああ。ありがとうワーテル。ムーは嬉しいぞ」

「あれ?今ムーって……」

「……その、気に入ったから、一人称をムーにしてみたんだが……」

つい出来心で自分のことを"ムー"と言ってみた

ワーテルは目を見開いて驚いたように手を口元に置く

……流石に、これは気持ち悪かったか

「その……悪い。ほんの出来心だったんだ。……気持ち悪かったか?」

「ううん!そんなに気に入ってくれるなんてすごい嬉しい!!それに気持ち悪くなんてないよ!!!すっごく可愛い!」

そう言ってはにかむワーテルに更に呑まれていく





そんなある日、悪魔の実という果実が見つかった

それを見つけたのはワーテルの国だ

その果実は一口齧るだけでこの世のものとは思えない力を身につけることが出来る

それを手に入れたワーテルの国はドンドン力をつけていき、一気に世界の頂点へ上り詰めた

だがワーテルの国の国王はその力を悪用することなく、その莫大な富と力を使って世界中の不自由な人間たちを己の国に引き入れた

そうして国民たちは増えていき名実共にワーテルの国は"世界で一番大きい王国"となる

そんなワーテルの国を悪く思う国はもちろんあった

だがワーテルの国の莫大な富と力と名声に手を出せずに闇は地の底で眠りについた

「じゃーん!どう!?リリィ!ムーちゃん!!」

「わぁ!!!凄いわワーテル!」

「これは……」

ワーテルは悪魔の実を食べていたらしく"能力者"とやらになっていた

本人もよくわかっていないそうだがワーテルが食べた悪魔の実は"オペオペの実"と言うらしい

ワーテルが手を翳すと青白いドーム状のサークルが現れる

「そこから〜……そりゃ!」

「きゃっ!?……うっわぁ!!!凄い凄い!!」

「なるほど……これが悪魔の実の力なのか……」

縦横無尽に飛び回るぬいぐるみや人形にリリィははしゃぎ倒していたが、ムーは初めて見る悪魔の実の力にどこか違和感を感じていた

「……っ!」

「!?ワーテル!!!」

「え!?どうしたの!?」

だが次の瞬間ワーテルの体が大きく揺れ青白いサークルが消え失せた

倒れそうになるワーテルをギリギリ受け止めベッドに寝かせる

「どうしたんだワーテル!いきなり倒れて……」

「ワーテル……」

泣きそうになるリリィに弱々しくも笑ったワーテルが頭を撫でる

「ごめんごめん……この力、体力使うらしくてさ……ちょっと疲れただけ……直ぐに良くなるよ」

そう笑うワーテルに対しムーは悪魔の実のどこか歪ものを感じ取り、もう二度とワーテルに力を使わせないことを決意した








───────────────────

「D?」

「そう!D!」

いつものようにワーテルとの逢引をしていたある日

思い出したかのようにワーテルは"D"の話をしていた

「このDはね?"夜明け"って意味があるの!」

「夜明け……」

「ジョイボーイと一緒に世界を夜明けに導くための!」

ジョイボーイ

その名には聞き覚えがある

最近世を騒がせている海賊の名のはず

ゴムのように伸びる体に奴隷を解放していくことから世間からは解放の戦士と呼ばれていた男だ

そのため奴隷で生計を立てている国からは目の敵にされている

そんな男とワーテルになんの関係が……?

「ジョイボーイはね?元々は私の国の住人なの。ジョイボーイはとっても優しくてこの世で1番自由な人……」

「だから私たちはジョイボーイについて行くことにした。世界を、夜明けへ導くために」

そう言っていつもと違う笑い方をするワーテルに何故だかとても苛立った

だって……そんなワーテルの表情はムーに見せたことのない"とびきり美しい"笑みだったから







「ワーテル」

「……」

「ワーテル?ワーテル!!!」

「ひゃあ!?」

今日もワーテルの国へやってきた

だが城にはワーテルの姿が見当たらず、お付きの者にワーテルは海に向かったと聞いた

そこには様々な者たちが船に荷物を積み込んでおり、何やら出航の準備をしているらしい

まぁ興味もないのでサラッと見た程度だが

ようやくワーテルを見つけたもののボーッとどこかを眺めており、ムーが呼んでも気が付く様子がなかった

大きく声を出してようやくワーテルはムーの存在に気がついた

「あ、あれ?ムーちゃん?どうしたの?こんなとこに……」

「遊びに来たのにワーテルがいなかったから探しに来た」

「そうなの?ごめんねぇ。どうしても見送ってあげたくて……」

「……見送る?」

そう言ってワーテルはまるで恋する乙女のような表情をして顔を逸らした

ズキリと胸が痛む

嫌な予感がして堪らない

一体何が……

「ワーテル!!」

知らない男の声がよく耳に響いた

声の主にゆっくり、ゆっくり目を向ける

そこには麦わら帽子を被った男がいた

ああ。この顔はよく知っている

こいつが、こいつが"ジョイボーイ"

「ジョイボーイ!!!」

パァと花が咲くように可憐に笑ったワーテルがジョイボーイに飛びつくように抱きついた

ドロリと何かドス黒いモノが胸に広がる

そんなワーテルの表情なんて見たことが無い

こんな、今までで一番綺麗だと思う表情なんて

ワーテルのこの表情を引き出しているのが目の前にいる憎らしい程眩しい笑顔の男だと信じたくない

妬ましい

この男が妬ましくて忌々しくて憎らしくて堪らない

「わざわざ見送りに来てくれたのか?」

「ええ!勿論よ!!次帰ってくるのは遅いんでしょう?出来る限り一緒にいたくて……」

「わ、ワーテル〜〜〜!!!ありがとうなぁ〜!!すっげぇ嬉しい〜〜!!!」

「も〜!恥ずかしいからやめてちょうだいよ〜」

「……ワーテル」

我慢できずにワーテルに声をかける

ワーテルは少し恥ずかしそうに目を泳がせたが、直ぐにこちらと目を合わせて微笑んだ

「ん?ワーテル。もしかしてコイツがいつも言ってるイムって奴か?」

「そう!紹介するねジョイボーイ!この子はイム!私の一番のお友達よ!」

"友達"

この一言がムーの心を締め付ける

いつまでもムーは友達の域から出ることができない

あくまでワーテルをここまで思い慕っているのはムーだけ

一方通行な恋心

それが虚しくて仕方がなかった

「初めましてだな!おれの名前は"モンキー・D・ジョイボーイ"!これからよろしくな!イム!」

「……D、だと?」

まさか、この男もDだと言うのか?

……いや、当然と言えば当然なのかもしれない

それでも愛しいワーテルがこの男のものだと言われているような気分になり眉を顰める

「そうだ!Dは仲間の証。これからもっと増えていく」

「……随分と自信があるようだな。何か根拠でもあるのか?」

コイツは気に入らない

ワーテルのことだけじゃない

本能がコイツを受け入れることが出来なかった

「根拠?そんなもの必要ねぇよ。これは絶対だ。運命は、おれたちに向いている」

そう言った男の瞳を今も尚、忘れることはない


「……行っちゃったね」

そう言って笑うワーテルはとても寂しそうだった

既に日は沈み始めており夕焼けが優しくムーたちを照らす

「……ワーテルは海賊になるのか?」

「えぇ!?ならないよ!」

「本当か?」

そう言うとワーテルは少し顔を俯かせポツリと言葉を零した

「……私は"行けない"」

「行けない?」

「そう。本当はジョイボーイと一緒に海に出てみたい。でも、私はこの国を愛してるから」

「……」

顔を上げたワーテルの顔にはもう"寂しい"と言う感情は何一つなかった

あるのは"愛"と"情熱"

「それに、離れ離れになっても私とジョイボーイは何時までも繋がってる。だから寂しくないの」

そう言って海に向け微笑むワーテルの横顔はこの世のものとは思えない程美しかった

……その笑みを自分に向けられていないことが、辛くて仕方なかった




─────────────────

忌々しいジョイボーイが出航してから早数ヶ月

今日も今日とてワーテルの元へ通う

今回は城下町の近くにある山にいるらしい

すぐさまワーテルがいる場所まで行く

そこには何かを無心に作っているワーテルの姿が

「……何をしてる?」

「きゃあ!?って、ムーちゃん!?」

背後から声をかけると余程集中していたのか非常に驚いたように目を見開いて振り向いた

(可愛い……)「で、何をしてたんだ?」

「……麦わら帽子を、作ってたの」

「麦わら帽子?」

そんなことを言うワーテルを不思議に思い手元を覗き込むと、そこには巨大な麦わら帽子があった

あまりの大きさに驚愕しつい固まる

ワーテルは恥ずかしかったのか手をアワアワと忙しなく動かして言い訳をしようとしたが何も思いつかなかったのか「あー……」とついに耳まで顔を真っ赤にして顔を覆った

「……これはなんだ?ワーテル」

「そ、その……ジョイボーイが恋しくなって……ジョイボーイが麦わら帽子被ってたから……」

「……」

やはりあの男か

……ムーがいるのに何故あの男に縋る

またドロドロと真っ黒いモノが心を犯していく

「……こんな大きさの麦わら帽子など誰も被ることが出来ないだろう」

「あっ!」

「……今気づいたのか」

ワーテルは被る相手がいないことに今更気づいたようで残念そうに肩を落とした

少し可哀想だが、これは破棄するしか……

「じゃあさ、ムーちゃんにそれあげる!」

「は!?」

ズイと顔を近づけられてぶわっと顔が熱くなる

近い……!近すぎる……!!!

鼻までつくんじゃないかと思う程に顔が近く少しでも動いたらキス出来てしまう

流石に想い人に顔をいきなり近づけられるのは心臓に悪い……!!!

「ムーちゃんなら悪いように扱わないでしょ?私からのプレゼント!」

そう言って可憐な花のように笑うワーテルを無下にすることなど出来ない

結局、あの男を象徴するような物を受け取ってしまった

だがこれはあくまでワーテルが作ったものだ

捨てるなど出来るものか

保管するときリリィが哀れなものを見るような目線でムーを見てきたが知るものか

ワーテルのことが最優先だ







今日はワーテルの国はやけに騒がしかった

何でもジョイボーイが帰ってきたと

……あの男が帰ってきただけと言うのに

どこか嫌な予感がしたためワーテルがいる場所に急いで行く

そこでムーは地獄に叩き落とされた

「……ん」

「わー、てる……?」

そこにはジョイボーイとワーテルが口付けを交わしていた

2人はムーに気づいてないらしく唇を離したあともジッと目を見詰めていた

ジョイボーイの手はワーテルの腰と後頭部に回されており、ワーテルはその麗しい細腕をジョイボーイの胸に添えていた

頬笑みを浮かべるその表情は、まさに美の神

ワーテルを見るジョイボーイの瞳は甘く蕩けており、一目でワーテルを愛しているのだと分かった

ワーテルもジョイボーイと同じような表情をしていて誰がどう見ても"相思相愛"

「ワーテル……愛してる」

「うん……私も、愛しているわ。ジョイボーイ」

そう言ってもう一度口付けを交わす2人を見ていられなくなり逃げるようにその場を離れた

なんで、どうしてと言う文字が頭に駆け巡る

目の前が歪んで前が見えない

言葉に表すことが出来ない激情が頭を占めていく

気がついたら城の自室に篭っていた

途中、リリィが何かを言ってきた気がするが思い出すことが出来ない

そんなことよりもこの絶望が辛くて、苦しくて、死にたくて

今までずっと想っていた

恋しくて愛おしくて仕方なくて身が焼かれるような恋だった

なのに何故あんなぽっと出のあの男に奪われなければならない

ムーの、ムーだけのワーテルだったのに

妬ましい憎らしい忌々しい卑しい海賊風情が!!!!!

……ああ。そうかワーテルは騙されているんだ

そうだきっとそうに違いない

可哀想なワーテル……

大丈夫だワーテル。必ずムーが救ってやろう

愛しい我の女神……

「ハハ……アッハハハハ!!!ハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!」

必ず、必ずムーがあの男からワーテルを奪い返してやる!!!!!







──────────────────

あれから暫く経ち"D"を名乗る人間が増加していった

ムーからワーテルを奪った憎らしい男は次々と奴隷解放していき、どこから手に入れたのか分からない世界を滅ぼしかねん兵器をワーテルの国に届けてきた

それだけでは飽き足らず航海の果てに見つけた悪魔の実を王族へと献上していたらしく、ワーテルの国の住人は殆ど能力者となった

そのあまりに強大な力に恐れを為した隣国たちが次々に戦争を仕掛け始める

だがワーテルの国は尽く戦争をしかけてきた国を殲滅していく

ある国は巨大な海王類が大量に雪崩込み滅亡

またある国は巨大な戦艦が放ったたった1発のレーザーにより国ごと消滅

兵力を減らそうとも一人一人が能力者の兵隊だ

敵うはずもない

ついに世界は手を結び、ワーテルの国を滅ぼすことに決めた

20の大国が同盟を組み一斉にワーテルの国に攻め込んだ

宣戦布告も無しの唐突な襲撃に対応しきれずにワーテルの国は蹂躙されていった

ワーテルの国は他の国との戦争中故に兵士たちは殆ど出払っており簡単に攻め落とせる、そう思った矢先に

「わりぃ!ちょっと遅れた!でもおれが来たからもう大丈夫だ!!!」

たった1人の男の登場に戦況はひっくり返された

その男は全身を真白に染め、まるで神のように蹂躙していく

その男に付随する"D"と名乗る人間たちに返り討ちにされる

一気に戦隊は壊滅され撤退

その男はジョイボーイと名乗りこう言い放った

「おれの名前はモンキー・D・ジョイボーイ!!!よく覚えておけ!!おれたち"Dの一族"は世界を夜明けへと導く!!!」



それから何度もワーテルの国に戦争を仕掛けるが逆に奴らに返り討ちにされ、寧ろこちらの兵力が削られていく

そもそもワーテルの国にはあの男のみではなく世界を滅ぼしかねない兵器を所有しているのだから勝ちようがない

そんなある時、1人がこんなことを言い出した

「ならば、こちらも能力者を産み出せばいい」

そうして悪魔の実の情報を掻き集め、宿主が死んだ悪魔の実は再びこの世に再生すると

そこから死に物狂いで悪魔の実を探し出し有能な兵士に食わせ始めた

皮肉にも能力者を大量に狩っていたから腐るほど悪魔の実は見つかった

これには20の王たちは能力者を大量に所有していたあの国の落ち度だと嗤っていた

そうして兵力を大幅に増長させた連合軍によってワーテルの国は壊滅状態に追いやられた

辺りは焼け野原で地獄が広がっていた

止まらない悲鳴、止まらない血飛沫、止まらない兵士、止まらない断末魔

能力を鍛え上げた屈強な兵士に、大して鍛えていない民間人など火を見るよりも明らかだ

そんな地獄を20の大国の王として戦争に参加していたムーの耳にある言葉が入った

"この国の王族は殺す"と

サーっと顔の血が消え青ざめる

当初の計画では王族は生け捕りにするという算段だったはずだ

なのに何故……!

王たちが城に攻め入ろうとしてるのが見え全速力でワーテルの元へ向かう

幸いにも良く訪れていた城だ

まるで自分の城のように知り尽くしている

誰よりも早く、彼女の元へ

「ワーテル!!!!」

「……ムーちゃん」

そこには手を組んで美しい純白のドレスに身を包んだワーテルがいた

まるで花嫁衣裳を身に纏っているように見え、そんな状況でもないのに見惚れてしまう

この場所だけ下界切り離されたように時が止まった気がした

「ムーちゃん、来てくれたんだね」

そう言って微笑んでるワーテルに大股で近寄る

そうしてワーテルの肩を強く掴んで目を強制的に合わせる

「逃げるんだワーテル!!!ここにいたら殺されるぞ!!!」

「ムーちゃん……」

汗が酷い

息もできない程噎せ返るほどの血の匂いがここまでやってくる

ワーテルとこの国の現状を理解しているだろう

なのになんで逃げなかった!!!!

「ワーテル、ムーと一緒に逃げよう。大丈夫……これでも発言権はある。ムーが進言すればきっと……」

そうだ

きっとムーがどうにかしたらワーテルは助かる

そうしたらワーテルは殺されないはずだ

よく思わない人間もいるだろうけどムーがずっと傍で守っていけば……

「……ダメだよ。ムーちゃん」

でも、ワーテルは頷いてはくれなかった

肩を掴んでいたムーの手をそっと下ろし、その可憐な指でムーの両手を包んだ

「私はこの国の王女として国と共に命運を生きる」

「……それに、ジョイボーイもここに残って戦ってくれてるもの!私だけ逃げる訳にもいかないわ」

ワーテルの意思が変わらないのは痛い程わかった

王族として真っ当でそれでいて立派な心意気であることも

それでも……それでも……!

ワーテルに生きてて欲しい!!!!

「ダメだワーテル!!!!!」

「ムーちゃん!?」

ワーテルの細く柔らかい華奢の体を己の体に閉じ込める

ワーテルは驚いたように目を見開いて困惑したようにムーを見ていた

「ダメだ……ダメだワーテル……!!頼むからムーと一緒に逃げてくれ……!お前を失いたくはない!!!」

「なんで……?どうしてそこまで……」

「ワーテルを愛してるからだ!!!」

「!」

今まで隠してきた想いが溢れてきた

一緒に生きていたい、幸せになりたい

愛しているから

「……そうなんだぁ。ごめんね、こんなになるまで気づいてあげられなくて……」

ワーテルが抱きしめるムーの背に腕を回してくる

ワーテルを抱きしめる腕につい力が入る

痛いはずなのに苦しいはずなのにワーテルは何も言わずにムーの抱擁を受け入れてくれた

それが嬉しくて、それでいて悲しかった

「でもごめんね。私にはこの国が、ジョイボーイがいるから。貴方の気持ちには答えられない」

「とっても嬉しい。ありがとう……こんな私を愛してくれて」

ワーテル、愛しいワーテル

見ておくれよ

ムーもお前と同じ悪魔の実を食べたんだ

答えてくれぬというのなら、お前を攫ってでも連れ帰る

ズズズズと己の姿が異形へと変貌していく

そんなムーにワーテルは驚くでも恐れるわけでもなく、ただ受け入れた

「大好きよ。"イム"」

初めて呼ばれた真名

ワーテルはムーの頬に手を当てて醜い異形に変わったムーに口付けを交わした

微笑むワーテルの目尻には透明な涙が輝いていた

「待ってくれ!!!ワーテル!!!」

青白いサークルが広がり腕の中のワーテルが消えた





「ジョイボーイ」

「わ、てる……ごめ…ん……まもり、きれなかった……」

「ううん……いい、いいのジョイボーイ……ここまで護ってくれてありがとう……」

純白のドレスを身に纏う女神に見える美しい女が血に倒れ赤に染る愛しい男を腕に抱きしめる

男の血で女のドレスが深紅に染まってゆく

涙を浮かべながら戦士を抱きしめ微笑む王女はまるで絵画を切り取って現実に現したような神秘的な空間だった

だがその周りにはおびただしい数の死体が転がっていた

「ああ……やっぱり、きれ…いだな……」

そう言って男は美しい女の頬に血にまみれ汚れた手を添える

美しい女は白い肌が血で汚れることを垣間見ずに手に手を重ねた

「あ、いしてる……」

「私も、愛しているわ……ジョイボーイ」

2人は、最期の口付けを交わした







ワーテル……!ワーテル!!!

「!?やめろ!」

そこにはあの男の亡骸を抱え泣き崩れるワーテルに銃口を向ける兵士の姿があった

殺させはしないと全力でワーテルの元へ向かう

だが、もう全てが遅かった

バンっとけたましい爆音が響き、銃から放たれた弾丸がワーテルの薄い腹を貫いた

「う"ぐっ……」

ワーテルは口から血を吐き亡骸を抱えながらも懸命に目をキツく閉じて痛みをこらえていた

いい、いいんだ痛いと泣き喚いても

我慢しなくていいんだ……!ワーテル!!!

「ハァ……ハァ……」

「いい気味だな。ワーテル王女」

気がつけばムー以外の19の王がワーテルを見下ろしていた

ワーテルは息を切らしながらも不敵に笑い力の入らないであろう体を立ち上がらせた

「こ、れでかったと……おもわないことね……!!」

「……なんだと?」

周りにいた王たちは眉を顰め戯言だと吐き捨てる

それでもワーテルの瞳は死にはしなかった

「"D"……は!また必ず、現れる!!!」

「夜明けを知らぬ世界を!!!照らすために!!!!」

どこまでも眩しい美しい彼女

その瞳は死の淵に立たされようとも決して闇に染ることはなかった

「戯言を!!!とっととくたばれ!亡霊が!!!!」

その言葉に激昂した1人の王に撃たれ、ワーテルは絶命した









────────────────────

……あの戦争から数ヶ月

ワーテルの亡骸を何とか回収して新たに住むことになった聖地マリージョアに埋めた

ムーはワーテルを失った悲しみから立ち直ることが出来ずにいた

そう言えばリリィの姿が見当たらない

一体何が……

「イ、イム様!!!リリィ様が……!!!」

「……は?」




───リリィが裏切った

その言葉を聞いた時、世界が闇に染った

あの日、あの時全てを葬った歴史を決して破壊することの出来ぬ石に刻み、世界中にばらまいたと

信じられなかった、信じたくなどなかった

愛しい人を奪われ、妹には裏切られた

ムーは……どうしたらいいんだ

教えてくれよ……ワーテル……






あれから数百年

ワーテルの食べたオペオペの実は人を不老にすることが出来ると分かった

こんな世界生きる価値もない

それでもワーテルのことを忘れたくなかったからムーは世界の神になることにした

そんな変わりのない汚く醜い世界に変化が訪れた

「"D"が、また現れた?」

"D"を名乗る人間が出てきた

ワーテルの言っていたことは本当だったのか……?

『"D"はまた必ず現れる!!!』

……違う

アイツらはDなどなんかじゃない

本当の"D"はワーテルのような強い人間だ

お前たちのような偽物ではない!!!!!

「"D"を皆殺しにしろ!!!!!」

誰一人として"D"は名乗らせぬ

"D"は低俗なお前らが気軽に名乗っていい矮小な名じゃない!!!

"D"を名乗っていいのはこの世でワーテルただ1人だ!!!!!

そうして"D"を名乗る人間は急速に消えていった







だがそこからまた数百年たった時にまた"D"は現れた

しかしその"D"は己の意味を知らぬただの意志がない抜け殻だ

また皆殺しにしても良かったが、何となく生かしてみることにした

いつもように世界の観測をしていた時に、見つけた1つの手配書

「"ゴール・D・ロジャー"……」

ラフテルに辿り着き世界の真相を知った人間

ならばコイツは排除すべき危険因子

これに感化された"D"がいたらただことでは無い

情報をばら撒かれる前に排除しなくてはならない

ああ、それとコイツの"D"は揉み消しておくか

"D"に興味を持たれてしまうと不都合だ

「……ワーテル」

何故だかお前がとても恋しいよ……





……ドンキホーテ・ドフラミンゴが地に堕ちた

神が、"D"に

「"モンキー・D・ルフィ"……だと」

モンキー・D……モンキー、D!!!

何の因果か、運命か

あの憎たらしい、ムーの全てを奪った男の名を引き継いでニカの能力者だと!?

ただでさえ"マーシャル"の対応やリリィの子孫かもしれない人間の対処で忙しいと言うのに!!!!!

二度と見たくも聞きたくもない物を見たくなどない!!!

ああ……!憎い!!!あの男の全てが憎い!!!!

消えろ、消えろ!!!!ムーの前から消えろ!!!!

気がついたら黒ひげと麦わらのルフィの手配書がナイフで滅多打ちになっていた

少し、冷静さを欠いていた

恐らく麦わらのルフィの"モンキー"はあの男の直系の子孫ではないだろう

あってもあの男の弟か兄の子孫だろう

何をそこまで警戒する必要がある

そう考えていても、胸騒ぎが収まらずに例の"麦わら帽子"の前まで来ていた

「ワーテル……お前の子孫も、いたりするのか?」

そんなあるはずもない幻想を抱いて冷凍保存して壊れることがないようにしたワーテルとの宝物をなぞった

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