適当ss

適当ss





アレ見たとき、ビックリしすぎて腰抜かすかと思ったよ。まぁ、あんな状態で腰抜かしてる暇なんてなかったからなんとかなったけど。


だっていつ見てもニコニコへらへらしてるヤツが自分のこと抱きしめて縮こまってガタガタ震えてるんだ。ハァハァって呼吸もありえないぐらいに早くなってて、こっちはその音を聞くだけで怖くなってくんだよ。過呼吸起こして怖がってるガキの接し方なんて知らねぇし。


近所のガキ大将として。大家族の長男として。それなりにガキの扱いには慣れてるつもりだったけどよ、面倒見てたヤツらは生意気で図々しいチビ共ばっかでこんな風になったことなんてなかった。こんな小さな体で弱々しくこの世の全てに怯える生き物なんて見たことがなかったんだ。


背中を優しく撫でて穏やかな声で話しかけて安心させろ…とか、冷静になった今じゃそれなりに思いつくもんだが。いや、あいつの背中を触るのは良くねぇかもな…。焦げて汚れて破れた服の向こうに見えたクッキリ残るデケェ傷跡。そいつを撫でられた時の感触なんてオレには想像もつかない。痛ぇのか擽ったいのか。それとも触られている感覚すら分からないのか。


「おまえ、背中…それ、どうした?」


無意識のうちに口から垂れた言葉が耳から脳に入ってきて、しまったと後悔した。聞くべきじゃなかった。いつもは脳で文章をつくってから吐くはずなのに、まるで脊髄から直接溢れてきたかのようだった。


「…ち、小さい頃…海賊、に…ッ!」


自分の髪の毛を引っ掴んで顔を隠しすすり泣く少年は酷く小さく見えた。呼吸は相変わらずぐちゃぐちゃで無理矢理出したであろう声はブルブル震えている。


「お"、とう"さん"ッも"っ!!ぁ、か、かいぞくに…!!ッ、う…やだぁあ"あ〜…」


ヒョウ太の握りしめた拳の中からプチプチと髪が抜ける音がした。悲痛な声をあげる子供に酷く心が痛む。生まれた頃からゆるゆるのオレの涙腺は耐えられなかった。無意識のうちとはいえ無神経に人の弱いところをつついたオレに泣く資格なんてないだろうが、それでもこのまだまだちっこいガキの傷を埋めてやれないかと足りねぇ頭を久しぶりに使った。


「ヒョウ太」


なるべく穏やかに。

なるべく柔らかく。

なるべく暖かく。


生まれて初めて声帯を震わせるように、ゆっくりと慎重にその名を呼んだ。ヒョウ太はゆるゆると怯えながら顔を上げてオレの顔を見た。いや、正確には『オレの顔』は見ていなかった。星と月以外の光源が一切ない夜だ。中肉中背のド平凡なオレのシルエットが別の誰かのものに見えてもなんらおかしくない。


「おとうさん…」


ぼんやりとした様子で両手を力無く持ち上げてオレの方へ伸ばしてきた。しゃがんで体を寄せてやると首の後ろに腕を回されぎゅっ!としがみつくように強く抱き締められた。おとうさん、おとうさん、と鼻をすすりながらオレの肩に目を押しつけるヒョウ太がかわいそうで、同時に愛おしくて仕方がない。


大丈夫だぞ、怖くない、ここにいるからな、安心しろ…


風邪をひいて魘されていた時、親父がかけてくれた言葉を真似て背中をゆっくりと撫でてやる。ヒョウ太がオレの事を父と呼ぶならばオレはヒョウ太の父となろう。どんなことをする羽目になってもいい。眠れなかったら寝かしつけてやる。寂しかったら抱きしめてやる。腹が減ったら一緒に飯を食いに行こう。


「もう大丈夫だ、帰ろうぜ」


雑用係としてあちこち走り回っている少年はまだ14歳。


最後におねしょをしたときのオレと同い年だ。親父がゲラゲラ笑いながらも隠蔽を手伝ってくれた。


自分で貯めた小遣いだけでおふくろに誕生日プレゼントを買ったときの俺と同い年だ。おふくろはケラケラ笑いながら泣いてオレの背中をバンバン叩いた。


初恋の相手に告白して惨敗したときのオレと同い年だ。よくつるんでいた悪友たちが落ち込むオレを馬鹿にしながらも飯を奢ってくれた。


家の手伝いが多すぎて、チビ共の面倒を見るのが辛くなって、生まれて初めての家出をしたオレと同い年だ。ちょっと嫌なことが重なっただけなのにもう二度と笑えなくなるんじゃないかと思うぐらいに落ち込んで目の前に映るもの全てに当たり散らした。


思い返せば、14歳のオレは青くて脆くて馬鹿だった。大雑把で朗らかな親父と、気の強いおふくろと、ノリの良いダチと、可愛い妹と弟たちに囲まれてたから良かったものの、もし一人ぼっちだったなら今頃どうなっていたか分からない。


ヒョウ太は…。


一人ぼっちなんだろう。

可愛がってくれる職人たちも家族とは呼べない。

帰る場所も行くあてもない。


かわいそうにな。

でもこれからは寂しいとか不安だとか、

そんな感情を抱く暇なんてねぇよ。


背中の暖かな重みがずり落ちてきたのでをもう一度背負い直した。


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もちろん全部演技。


なんかの記念写真に自分とカクとカリファが写ってるの見て「カクはともかく俺とカリファが船大工…?」「タンクトップサスペンダーシルクハット…?」「なんで今はここにいないんだ…?」などなど色々疑問が出てきたので近くにいたパウリーに聞いてみたらめちゃくちゃしんどそうな顔をされたし、モブ職人に聞いたら「俺らも分からねぇんだ…」って辛そうな顔されたのでなんか深い事情があったことを察する。


自分がロブ・ルッチであることを言った方がいいのか、ロブ・ルッチの弟か何かを騙った方が良いのか、それとも正体を気づかれないように隠した方が良いのか…。こっちのロブ・ルッチがどうしてここにいたのか、どうしてここを去ったのかによってどこまで話すべきでどこを隠すべきなのかが全く変わってくるのでチョロそうなモブから情報を引き出すことにした。


後日、お父さん(笑)と酒場に行ってベロンベロンに酔い潰してロブ・ルッチについて聞き出す。タンクトップサスペンダーシルクハットな上にハットリ腹話術してたって話聞いてスペースレオパルドになればいいんだ。絶対かわいいから。カクもルッチもカリファもアクアラグナの日に里帰りをしてから一向に帰ってこない、職長たちがオレらに黙ってるだけで多分死んじゃったんだろうな…って話聞いて(俺らが高潮ごときで死ぬか…?)って内心首捻ってそうね。


数ヶ月後、自分と同じようにこっちの世界に来たジャブラに、モブ職人お父さんが持ってるロブ・ルッチの情報が思ったよりも薄かった、とか、パウリーやアイスバーグあたりをお父さんにした方がよかったなとか愚痴る。ジャブラが「じゃあ俺がそのどっちかをお前と同じ方法でお父さんにする」みたいなこと言ってきて「お前には愛嬌無いから無理だな」とか一蹴するのも見たい。


「愛嬌云々に関してはお前も大概だ狼牙!」

「えぇ〜〜っ!?僕結構いろんな人から可愛がられてると思うんだけどなァ…」

「気色悪い!!!俺の前でヒョウ太になるんじゃねぇ!!!」


とか仲良く喧嘩しな。ヒョウ太を気持ち悪いって言ってくれて、自分のことをルッチって呼んでくれて、いつもと同じように喧嘩してくれるジャブラにコッソリ癒されててくれ。

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