遠く、焦がれて

遠く、焦がれて


【注意書き】
エースとダイス産オリキャラのBLCP要素あり・死ネタ
元ネタスレ名:【ダイス・閲覧注意】エースに恋をさせるスレ
オリキャラ名:マシュロ(55)
ダイスの結果お付き合いは出来てもオリキャラが先に逝く形の死別エンドになってしまった二人
めちゃくちゃこの二人がぶっ刺さったので自分イメージ(スレでの未確定要素を補完)で書いたマシュロおじさんの最期のシーンをここで供養させてくれ
スレでは未確定だけど自分の中ではエース×マシュロの押しかけ年下彼氏なイメージ

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ひとつなぎの大秘宝を求め海を渡る海賊たち、その数多の海賊船の一つに所属する海賊マシュロは、酷い胸騒ぎを覚えて足早に甲板へと昇っていた。

「くそっ、こんな時に……!」

その極致へと迫るほどに研鑽されたマシュロの見聞色は広く遠く、あるいはは深く他者の心の声を感じるだけでなく、自身に迫りくる危機を未来視で予見することも可能だった。

(あいつの"声"の位置はかなり遠い……。しかも、この先起こる航路の異変を乗り越えなきゃ先にテメエがお陀仏だ)

「船長! 緊急事態だ時間がねえ! 操舵室は死にたくなきゃ面舵最大で切り続けろ! 進行方向の眼前に嵐と同時に出現する大渦が"視"えやがった!」

船長室と操舵室へ繋がる伝声管に同時に叫ぶとマシュロは緊急事態を船内に知らせるベルを鳴らす。

しかし急激な舵切りに傾ぐ船と緊急ベルの音に飛び出してきたクルーたちが出揃った時には既に、雷雲と共に現れた底の見えない真っ黒な大渦が船を飲み込まんと大口を開けていたのだった。

『駄目だ、舵を持ってかれる……!』

伝声管から漏れ聞こえる操舵室からの声は絶望を滲ませていて、荒波に逆らおうと舵輪を軋ませる音がより悲壮感を増していく。

海流だけでなく風向きも渦の中心へと吸い込まれるかのように向かっていて、帆を張っても外へ向かうどころかより一層深みへと引きずられてしまうのを握った舵輪からありありと感じてしまっていたのだ。

そうしてクルーたちの奮闘を嘲笑うかのように渦巻く海流は船を奥へ奥へと飲み込んでいく。

「自然系能力者の奇襲のほうがまだマシだったな……! 一人二人の覇気じゃどうにもならねえ」

武装色の覇気を持つ者たちで海流を弾いてみるものの、僅かな揺らぎを見せるだけで大渦の勢いは微塵も衰える様子はなかった。

(運が良けりゃ、海流の勢いに弾かれて息のあるうちに打ち上げられるやつは居るかもしれんが……おれにはそれを"視"ることはできねえ、か)

自分はここで「終わる」のだと途切れた未来視で察したマシュロは胸元にそっと手を当てる。

大渦と暴風が生み出す轟音の中でも、首に下げた鎖の金属音がやけにクリアに耳へと届いた。

小さな真鍮のロケットの中に写真なんて入ってはいない。

指先で適当に千切られた白い紙きれだけがそこにある。

「……一人で無茶するなって叱りに行ってやりたかったんだが」

ちりちりと嫌な熱を篭らせるそれを服の上から握り締めれば思い描いた青年の"声"が遥か遠くからでも微かに感じ取れた。

怒りに、苦痛に、それに……強い覚悟

対峙する悪意と愉悦の"声"と幾度となくぶつかり傷つきながらも折れないそれを眩しくも労しく思いながら、マシュロは眼前に迫る暗く深い闇を湛えた渦の奥底へと自身の身体が投げ出されるのを感じ目を閉じた。

脳裏に浮かんでは消える記憶の断片に、ああ走馬灯というのは本当にあるもんなんだと苦笑する。


――出会いは最悪だったはずなのに、訳も分からず懐かれて、はぐらかして……一度は離れたはずなのにそれでもおれを追ってきたお前に「絆されたんだ」と嘯いて。

――年の差だとか、互いの居場所だとか、"自由"な海賊をやってる癖に自分勝手なしがらみを抱えたまま最期まできちまった。


「ちゃんと真っ向から言ってやれなくてすまなかったな、エース」



――おれは、お前を愛しているよ



時を同じくして、バナロ島では島を壊滅させるほどの壮大な一騎打ちの決着がつこうとしていた。

せめぎ合う強大な二つの能力の衝突が周囲の海域までをも震わせる。

最後に立っていたのは闇を身に宿した男。


地に落ちたオレンジ色の帽子に付いている装飾の裏から、そのほとんどが焼け落ちた小さな紙片がはらりと零れ落ちる。

そしてそのまま震える空気の残滓に掻き消えるように燃え尽きていったことを、その島にいた誰も……その帽子の持ち主さえも、気づくことはなかった。

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