遠い記憶…

遠い記憶…



 えーっと、これはどういう状況なんだろう?

 あまねちゃんが赤ちゃんを抱いて拓海くんと歩いてる……えーっと?


「拓海ってば、すっかりエルちゃんにデレデレなんだから」


 私の隣でゆいちゃんがため息をついた。エルちゃん?


「あ〜その…あまねちゃんが親戚の子を時々預かっててぇ〜、うーんと、拓海にもなんか懐いてて…えーっとぉ…」


 ゆいちゃんの説明はなんだか歯切れが悪かったけど、あんまり問い詰めないことにした。誰だって、話しづらいことの一つや二つや三つ四つくらいあるモノだし……私はちょっと多いかな、あはは……



 あまねちゃん、ゆいちゃん、こう呼ぶくらいにはすっかり親しくなった。ゆいちゃんも中学を卒業したら同じ高校に進学したいって言ってくれている。

 ゆいちゃんはとっても元気な子。初めて出会った時に見せていた、落ち込んだ様子が嘘みたい。食べることが大好きで、運動も大得意で、なにより太陽みたいな笑顔がとっても可愛くて、そばにいるとそれだけで一緒に元気になれそうな、そんな素敵な女の子だった。

 こんな子と幼い時から一緒に居たんだから、拓海くんが恋しちゃうのもしょうがないと思う。

 ううん、きっとそれは恋というにはもっと深くて、あったかくて、言葉にできない大切な想い、そんな気がする。

 私もそんな想いを抱いていたことがあるからわかるの。幼い頃の入院生活で、ずっとそばにいて支えてくれた人に抱いていた想い。


──蜂須賀先生…


 私の命の恩人で、家族みたいに大切な人。今から振り返ると、初恋だったのかもしれない。頼り甲斐があって、そばに居てくれると安心できて、安らげた。

 蜂須賀先生は今、奥様とお子様と一緒に海外の研究所で、人々のために活躍されている。私もいつかそんなふうに誰かのために働けたら良いな。


──お姉ちゃん、頑張って、泣かないで、ぼ、僕が……俺が、そばにいるから…っ!


 偶に、もう一人、私を支えてくれた子のことを思い出す。歳下の男の子。彼に何ができたわけじゃない。でも一番苦しい時に、ずっと手を握っていてくれた。

 あの頃は発作が日に何度も起きて、そのせいでいつも頭がぼんやりしてて、記憶も曖昧なんだけど……

 ….…その子が、いつも必死な顔して励ましてくれてたことだけは、覚えてる。


「そういえば拓海って、昔は自分のことを僕って言ってたんだんだよ〜」


と、ゆいちゃんのおしゃべりで思い出から引き戻された。


「そうなんだ。なんだか可愛いね」

「そうでしょ〜。でもさ、なんかある時から急に俺って言い出しちゃったんだよね〜」

「へぇ〜…」

「確か遊んでた時に転んで骨折したのがきっかけで入院した時だったかなぁ。……拓海ってば、一人で入院するの寂しくて怖くて、ピーピー泣いてたんだよ、可愛いよね〜」

「へぇ……そうなんだ……」


 どうしてだろう、最近、あの男の子のことを私はずっと気にかけている……


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