違和感
最初の違和感は、U-20代表戦の時だった。
試合開始前、敵チームにいた冴は何故かこちらをじっと見ていた。相手のチームを観察しているとも取れなくはなかったけれど、どうしてか違うような気がした。
冴は凛を見た後に、俺を見た。弟である凛を見るのは理解できたけれど、もしかしたら名前すら覚えていない俺にも視線を送ったことには引っ掛かるものがあった。
その様子を見ていた俺と目が合った後、冴は何でもないことのように目を反らした。
違和感を覚えたのはこのことだけじゃない。
ぽやぽやしている普段と比べて、試合中になると人が変わることで有名な糸師冴だけれども。
U-20代表戦の時はそれが顕著だった。
まるで、試合中の冴は凛みたいだった。
普段の姿が仮面かと思う程、試合中の冴はクールでクレバーな印象だった。精密に計算されつくしたプレー。普段のふわふわとしていて穏やかな印象とは似てもにつかないようなそれが、フィールド上を美しく壊したのを見た。
あまりにも、繋がらない。
あの時、俺の目には試合中の冴と、普段の冴が相違して見えた。
何かが引っ掛かる感覚。いや、あれは既視感だ。
“俺は、冴のプレーを過去に目の前で見たことがある”
極めつけは、試合中に冴が発したあの言葉だった。
『案外 “青い監獄”の心臓はお前だったか 潔世一』
“潔世一”……?
あの時、冴は俺のことをフルネームで呼んだ。
試合中からあまり人の名前をまともに呼んでいないような印象を冴に感じていたから、“11番”でも良かった筈なのに。
名前で呼んだ。当時の俺と冴にそんな接点はなかったのに、あえてフルネームで呼んだ。
そう、感じた。どこか奇妙な何かを感じた。
感じると同時に、頭痛がした。“潔世一”と呼んだ冴の声が頭の中で反芻する。
そして痛みに耐えていた一瞬に、忘れていた過去の記憶が通りすがった。
小さい頃の俺が、サッカーボールを持って前を行く背中に話しかけていた。
『■■おにいちゃん!』
奇妙な違和感と記憶は、U-20代表と同点に持ち込んだことと、試合中の熱気に呑まれて考えることを一旦放棄してしまったが。
だけれど、後になって考えてみれば。
おかしかったんだ。