違和感のある膝
『欲しいもの?急にどうしたのオベロン』
『あれ、僕の記憶が正しければ今日は君の誕生日だったはずだったんだけど違ったかい?』
『ううん、そうだよ!覚えててくれたんだね!ありがとうオベロン!』
『どういたしまして。それで何か欲しい物はあるかい?』
『オベロンの膝枕!』
『……そんなのでいいのかい?』
『あたしがいいって言ってるんだからいいの!』
『……はは、きみは本当に甘えん坊だなぁ。いいよ、ほらおいで』
オベロンはそう言うとぽんぽんと膝に手を叩き、それを合図にウタは笑顔でオベロンに膝に飛び込んだ
『えへへ、あたしやっぱりオベロンの膝枕大好きだなぁ。すっごくふわふわしてて気持ちいいんだもん』
『お気に召したようで何よりだよ。それと今日はゴードンが張り切って君の誕生日ケーキを作ってるよ。味は……まあ、この日の為に練習してたから大丈夫だと思うけど。多分ね』
『た、多分なんだ。でも……えへへ、嬉しいな。オベロンもゴードンもあたしの誕生日を祝ってくれて』
『なに、僕もゴードンも当然のことをしたまでだよ』
『それでも嬉しいの。ありがとね、オベロン。あたしの誕生日を祝ってくれて』
『どういたしまして、小さなお姫様』
『お、お姫様はずるいよオベロン!それにあたし、もうそんな風に言われて嬉しがる年齢じゃないもん!』
『おや、じゃあその激しくぴこぴこと動いている可愛らしい髪はなにかな?』
『こ、これは……うぅ、オベロンのいじわる!ふんだ!』
『ははは!ごめんよ、少しいじわるし過ぎてしまったようだね。それで、どうやったら許してくれるかな?』
『……撫でてくれたら許してあげる』
『おやすいごようさ』
『♪〜〜』
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「……はっ、とんでもない悪夢だな」
無限に続く暗闇の中、懐かしい日の夢を見て目を覚ましたオベロンはぽつりと呟いた。
「誕生日おめでとう、ウタ」
無駄に覚えてしまった日が今日だと気づき、口にする。
自分があの子の前で祝福する日はもう二度と訪れることはない。
大きくなっても自分の膝を求めて飛び込んできたあの子を鬱陶しいと感じた事はなかった。
いつまで経ってもあの子が飛び込んでこない膝に違和感を覚えながら「馬鹿馬鹿しい」と吐き捨て、オベロンは再び目を閉じた。