過去SS
拠点の扉を開ける頃には全員が無言だった。酸素を奪い合うように激しく息をして、ゲーマドライバーもその辺に放り投げる。
「……この、副作用は……正宗!」
「アハッ、うふふ、うん、これはダメだね……!」
ゲーマドライバーの副作用の一つ、精神汚染。常に噴火寸前の苛立ちを流し込まれる恭太郎と、喜楽に支配され疲労や痛みさえ感じない正宗の相性は、一言で表せば最悪だ。怒りに任せた恭太郎の平手が飛んでも、正宗は打たれた場所を気にするそぶりさえ見せない。
「灰馬くんは? 気分、どう?」
「……シルデナフィルを服用してもこうはならない」
「そっか。前のは幻覚と幻聴だっけ? やっと直したのに今回は発情? ほんっと、うまくいかないなあ!」
正宗がケタケタと笑って、恭太郎に睨まれた。
灰馬くん、つまり私だが、これでも妻子ある身だ。今はゲーマドライバーの最も重大かつ継続的な副作用、肉体の若返りによって気づいてもらえないけれど、愛する家族がいるのだ。仲間に比べてかろうじて正気を保てているのは、妻と息子への想いがあるから……と勝手に思っている。
だから、機会的同性愛に近いとはいえ、恭太郎と正宗のように関係を持つつもりはなかった。なかったのだが……この熱を今すぐ発散しなければ狂い死ぬかもしれない。それほど昂っている。性具の類は当然ながら無い。
寝室のドアが乱暴に開けられた。恭太郎はまだ笑い続ける正宗を引きずっていく。あれは二、三時間かかるな。というか寝室は共同なんだから、ヤリ部屋にしないでほしい。
「……どうする、清長」
隅でうずくまり気配を殺していた清長は、ちらっと私を見てまた俯く。彼は精神汚染の結果、感情を失いつつある。発情は肉体への作用だから起こっているはずだ。
「あなたの大好きな正宗は、先約を入れられてしまいましたよ」
自分も熱に侵されているらしい。嫌味っぽく言ったのはほとんど無意識だった。清長は真っ暗な目にこれまた黒い炎を滾らせて、私の胸ぐらを掴む。
「……まだ、あるんだな、感情。よかったじゃないか」
肩に噛みつかれ、鋭い痛みが走る。そういえば清長には噛み癖がある。なぜ知ってるかと言えば、恭太郎や清長にこっぴどく抱かれた後の正宗を手当しているからだ。
とにかく襲われたんだから仕方ない。私が力を抜くと、清長は悲しそうに目を伏せた。