進展
「なぁ玲王、お前本当に大丈夫なのか?」
「え?何が?」
「いや、だって···皆の前であんな事·····とにかく、俺で良けりゃいつでも話聞くから」
「あはは!大丈夫だって!ありがとな!」
「うん······あ、おい、アレ」
「おっ、次の予約の旦那様じゃん。じゃあ俺行ってくるから!バイバイ!」
「··········おう」
「さっきのヤツ、誰だったんだろ」
サク、サクと緑色の草を踏みしめながら、玲王は先程、自分を気にかけてくれた童顔の青年を思い浮かべる。
しかし、見た事はあれど話した事は無く名前も知らない相手だった為、すぐに青年への興味は消え失せた。
それよりも、今回の"旦那様"はどうやって自分を孕ませてくれるんだろうと、その事に胸が踊る。
目の前を歩く濃紺の異星人は初めて見る。彼は一体どんな風に玲王を貫いてくれるのだろう。どれほど濃密な精を吐き出してくれるのだろう。
今回は箱庭では無く、旦那様の部屋に連れて行かれて種を植え付けられる様だ。
浮き足立って歩く玲王は、久々の鳥籠の外にワクワクと胸を高鳴らせた。
あと少しで檻の外
と、その時
「レオ」
背後から呼び止められ、玲王は足を止めて振り返る。
植えられた数多の木。その内の一本の下で、大柄で白色の青年が玲王をじっと見据えていた
(あ、よく俺の事見てるやつだ)
箱庭ではいつも一人きりで過ごしている玲王。そんな彼へ、かなりの頻度で向けられる強い視線の主。それがこの白色の青年だった
「どこいくの」
青年の問いに、玲王は首を傾げる
見れば分かるだろう。子を作りに行くのだ
そう返そうと思ったが、玲王は青年の瞳の中に、単純な疑問だけが浮かんでいる訳では無いことに気が付く。
不安、焦燥、不信感
一番色濃く浮かぶものは、心配
(今日はやけに知らない人から気遣われるなぁ)
彼らの心遣いに面食らいながら、玲王は、にぱっと笑顔を作った
「すぐ帰ってくるよ!」
明るくそう宣言すると、青年は「そう」とだけ言って、相変わらずじっと玲王を見つめ続ける。
旦那様が焦れたように玲王を急かすので、そこで玲王は白色の青年に背を向けた
恒星の光を吸収し、特別なエネルギーがなくても自然と発光する船内。その中を、旦那様の後ろに付いて、玲王はてくてくと歩いていた
初めての旦那様なので、いつもとは違う道を歩く。どうやら今回の旦那様の部屋は、普段から玲王を愛でている旦那様達の部屋とは離れた場所にある様だ。
目新しい風景に視線を彷徨わせて居ると、廊下の先に牢屋のような部屋がある事に気が付いた。
原始的な鉄格子を嵌められたその部屋は、外から中の様子が丸見えになるような構造をしている。
その部屋に近付くにつれ、玲王の耳に掠れた喘ぎ声が聴こえてくる。
部屋の前を通過した時、玲王は思わず足を止めた
鉄格子の部屋の中では、複数人の苗床が両手両足を縛られ、怪しい色の点滴を打たれながら、機械による調教を行われていたのだ
ぎゅいいい、ブーーーーン
と、重苦しい音が鳴り、そのたびに苗床達はか細く喘ぐ。
後孔には太い金属の棒が突っ込まれ、両の乳首には搾乳機を充てがわれている。絶えず母乳を吸い取られながら開発をされ続けるなど、どれ程身体に負担がかかるか。
凄惨であり、かつ背徳的なその光景に、玲王は見入ってしまう。
そんな玲王に、一人の苗床が気付いた
「ぅ···ぐ、ぁ······見てんじゃねぇ···玲王」
キッと睨まれてそう吐き捨てられ、「え」と小さく玲王は呟く。
箱庭の者たちはともかく、どうしてこんな所でこんな仕打ちを受けている苗床まで、玲王の名前を知っているのだろうか。
見たところ、この鉄格子の部屋の苗床は反抗的な目をした者が殆どだ。
箱庭の苗床とは違う彼らには、心が折れるまで徹底的にこの責め苦を味わわせるつもりなのだろう。
そんな彼らを哀れに思いながら、玲王は今まで疑問に思っていなかった事について、少しだけ考えてみる
(苗床って、どうして旦那様達とは姿形が違うんだろ······いや、それよりもどうして、他の苗床は俺の事知ってんのに、俺だけ皆の事、何も分かんないんだろう)
考えても答えは出ない
鉄格子の部屋から漂う汗と性の匂いに、玲王の思考は掻き消される。
ああ、自分も早く彼らの様にめちゃくちゃにされてしまいたい
新しい旦那様は、鉄格子に釘付けになっている玲王の手を荒々しく引っ張った。
もう二度も足止めされたので、苛ついているのだろう
(あーこれは、今日はちょっと痛いかも)
そんな事を呑気に考えながら、玲王は鉄格子の部屋を後にした