通常ユマクル(+ユマ死) 〜ユーマくんの年齢は?〜

通常ユマクル(+ユマ死) 〜ユーマくんの年齢は?〜


「そういえば、ユーマくんっていくつだっけ?」

 だしぬけに尋ねてきたクルミに、ユーマは瞠目した。前にも同じような質問をされたことを思い出しながらも、ユーマは答える。

「それが……自分でもわからないんだよね。子供じゃないとは思うんだけど……」

 ユーマは改めて己の記憶を探ったが、年齢どころか自身の生い立ちを思い出すこともできず、頬をかいた。“死神の書”の契約の代償に失われた記憶は、一片たりとも思い出せる気配がない。ユーマの記憶を奪った当人(当神?)といえば、クルミに向かって殴りかかる仕草をしながら、『このペタンコブス……オレ様ちゃんの質問をパクりやがって……』と怒りを含んだ声を出していた。ユーマはそれを横目でチラリと見て、相手にしないことにした。

 ユーマの返答を聞き、クルミが口を開く。

「そうなんだ……最初に会った時は、こんなに若い人が世界探偵機構の超探偵さんなんだって、驚いた覚えがあるけど……」

「だから、ボクはただの見習いだってば」

「もしかしてユーマくんって、わたしと結構歳が離れている可能性もあるのかな?」

「うーん……どうだろう……」

 クルミが提示してきた可能性について、ユーマは考える。彼女は女子高生だ。年齢は15歳から18歳だろう。もしボクと彼女の歳が離れている場合、ボクの年齢は20代後半から30代前半になるのだろうか。そうだとすると、大人として年相応の振る舞いができている気がしないな……。ユーマはそう考え、少し落ち込んだ。『事案だね、ご主人様』と囁く死神の声を、ユーマは努めて無視した。

「ねぇ、ユーマくん。試しに『クルミお姉ちゃん』って、言ってみてもらってもいいかな」

「……なにがどうしてそうなったの!?」

『いきなり何言ってんだこのアマ!?』

 ユーマが年上の自分について思案している間に、クルミの中で何かが起きたらしい。困惑するユーマに対し、クルミが弁明を始める。

「だってユーマくんって、若く見えるし、可愛いし、それに……男の子の平均身長からいくと、12歳くらいなんじゃないかと思って」

「かわ……12……」

「それで、ユーマくんに『お姉ちゃん』って呼ばれてしっくりきたら、それで合ってるんじゃないかと思って!」

 可愛いと言われても嬉しくないよとか、それってボクの背が低いってことだよねとか、色々と思うところはあったが、ユーマはあまりのショックに言葉が出なかった。探偵としては半人前であっても、ユーマには一人前の男性として扱われたい気持ちがあった。

『ご主人様が“お姉ちゃん”呼びしていいのは、オレ様ちゃんだけなんだから! ね!? ご主人様!?』

(………………)

『……ご主人様?』

 認めよう。確かにボクの背は低い。カナイ区の人々も、探偵のみんなも、ボクの周囲は背が高い人達でいっぱいだ。

 だがしかし。背が低い=子供というわけでは決してない。現に、ボクと同じくらいの背丈をしているデスヒコくんは成人男性である。バーに行ってるし。

 だからボクは子供じゃない。だからボクは、知り合いの女の子を、それも女子高生を相手に、『お姉ちゃん』呼びなんて絶対にしない……!

 ユーマはそう固く誓い、むっとした顔でクルミを見た。

「……クルミちゃん。ボクだって、男なんだよ?」

「……ユーマくん?」

「『可愛い』って言われても、あんまり喜べないし……それに、子供扱いは嫌だ」

「あ、あのっ、ユーマくん……? ちょっと顔が近いっていうか……」

 ユーマは自分の気持ちを伝えることに夢中になるあまり、無意識のうちにクルミに近寄っていた。

「だからクルミちゃん。ボクのことはひとりの男として見てほしいんだ」

「えっ!? それ、って……」

 真剣な顔をしたユーマの発言に、クルミは頬を紅潮させた。

(それって……恋愛対象として意識してほしいってことだよね!? てことは、つまり、ユーマくんはわたしのことを……)

 クルミはユーマの発言を誤解した。ユーマは自身の発言が誤解を招く言い回しになっていることには気づいていなかった。ただ一人(一神?)事態を正確に把握していた死に神ちゃんは、ご主人様を罵倒することよりも恋敵から引き離すことを優先すべきだと直感した。

『あー!! そういえばあのモジャモジャ頭から頼まれた買い出しの途中だったよね!? 今すぐ肉まん買って帰らないとあのモジャモジャ頭が餓死しちゃうよ!! そうなったらご主人様は晴れて殺人犯だね!!』

(なんでそんなこと言うの!? って、そういえばそうだった。早く帰らないと、ヤコウ所長にまた怒られちゃう……)

「ごめん、クルミちゃん。ボク用事があるのを思い出したから、またね」

「え? あ……うん、またね……」

 死に神ちゃんの思惑通り、ユーマはクルミと別れ、肉まんを買いに行った。残されたクルミはといえば、突如終了した会話にキョトンとしていた。

 それから少し経って、クルミはまた顔を赤らめていた。

(年下のユーマくんに『お姉ちゃん』呼びされるのも悪くないかもって思ったけど……年上のユーマくんにリードされるのも……悪くないかも……)

 自分より背の低い男の子。自分が憧れている探偵。自分を助けてくれたヒーロー。

 そんなユーマが見せる年齢という可能性に、クルミは胸をときめかせるのであった。

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