途中まで

途中まで



「海賊狩りのゾロ。お前から――――――」


くまはゾロに狙いを定めようとし、


「待てよ、"暴君"」


ルフィが制止をかけた。


「この一味の最高戦力はおれだ。そして今一番動けるのもおれだ。手負いを叩くのはおれの後でもいいんじゃねェか?」


「ルフィ……」


ゾロは柄にもなく助かったと思った。ルフィの言う通りその体は限界に近い。

気を抜けば即意識を手放してしまいそうだ。


「何よりおれはお前らにとって裏切り者みてェなもんだ。おれを潰さねェでおいて、お前はともかく上は納得するか?」


「……ふむ、違いないな"蒼翼"」


くまはゾロから関心を外しルフィに向き直る。

ゆっくりと両の掌を開き。

大きく振るい大気を弾き飛ばす。最小限の動きで避け、ルフィが駆ける。それが戦いの合図だった。


一気に距離を詰め跳躍、くまの眼前に迫り腕を振りかぶる。

迎撃しようと振るったくまの右手が触れる寸前、ルフィは更に宙を蹴って頭上に回り込んだ。

先の動作はフェイントだ。くまの振りだした右手が虚しく空を切る。


「"ゴムゴムの――――――」


天高く右腕を伸ばし――――――


「JET銃弾"!!」


先手を入れたのはルフィだった。振り下ろした強烈な一撃が脳天にクリーンヒットする。

甲高く鈍い轟音が響き渡り、くまは少しだけ身じろいだ。


「うおおおおお!!先手取ったァ!!」


「流石は天才と称された元海兵!!」


周囲から歓声が上がる。しかし一撃を入れた当のルフィは、


「……?」


戸惑っていた。

先の一発が効いた素振りが見えないこともそうだが、なによりも。


「今の感覚――――――?」


拳に人体を殴打したとは思えない異様な感触が伝わってきたからだ。

武装色による黒化とは違う。まるで超強度の金属でも叩いたかのような硬質な手応えにほんの少し心を乱す――――――そしてその隙を見逃すバーソロミュー・くまではない。


「油断したな」


ボッ!!


「ぐおッ!!」


打ち下ろすように掌底を繰り出す。

直撃を喰らい、堪らず肺の中身を全て吐き出すルフィ。済んでのところで武装色硬化が間に合い致命打にはならなかったが、そのまま地面に打ち付けられた。


「……にゃろ!!」


それでも即座に反撃に移れるのは流石と言うべきか。

飛び上がり後ろ回し蹴りを繰り出すが……。


ぷにっ。


肉球に阻まれ、体ごと弾かれる。

ルフィは空中で体勢を建て直し、距離をおいて着地した。

くまもまた、衝撃を完全に弾ききれず後ろずさる。


「フゥーーーーーー……」


大きく息を吐き出すルフィとくま。

ほんの数瞬の睨み合い。しかしその静寂はすぐに破られる。

くまの動きを見聞色で読んだルフィは即座に構え……結果として両者は同時に技を放った。


「"つっぱり圧力砲"ッ!!」


「"護武(ゴム)黄蓮・鷹銃乱打"ッ!!」


ドパパパパパパパパパパパパパアン!!!!!!!


無数の空気の砲弾と、ゴムの伸長性を以て放たれる指銃の嵐が激突する。

幾多の方向から迫り来る空気塊の群れ。その一つ一つにルフィは正確に「穴を開けていき」、やがて全てが弾け飛んだ。


「すげェ……!!」


果たしてそれは誰の呟きであったか。

別次元の強者同士の戦い。他者が割って入れる物ではない。

何より自分達は消耗が激しい。万全ならいざ知らず今の様では弾除け、デコイにもならない。


「くっそお……!!」


それがウタはもどかしい。

共に海に出て以降、ルフィには幾度となく助けられてきた。

己に求められる役割が戦闘ではないとはいえ、おんぶに抱っこされっぱなしというのは申し訳無さと情けなさが募る。

しかして今戦えばルフィの足を引っ張るのも事実。

故に、歯痒い思いで目の前の戦いを見守るしかできない――――――ウタのみならず、他のクルー全員が。


両者は睨みあったまま動かない。

周囲を重苦しい空気が覆い尽くす。

誰しもが2人の一挙手一投足を見逃すまいと目を見開く中。


「……手癖の悪さは相変わらずか。息災のようで何よりだ、ルフィ」


「おれにだけバカみてェな殺気浴びせておいてその言い草はひでェよ……くまのおっちゃんも元気そうだな」


「「「「「……え?」」」」」


くまが手袋をはめ、ルフィもまた構えを解く。

緊迫した空気は、他ならぬ当事者2人によって霧散した。

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