逆天の岩戸伝説

逆天の岩戸伝説


「アイー…ごめんよー?まさかアイが楽しみにしていたアイスとは思わなかったんだ

あとデリカシーのないこと言ってごめん!!アイはずっと可愛いからー!」

通算何回目だろうか。父が寝室に立て篭もる拗ねた母に謝罪を請い願う場面を見るのは。

「ただいまー

お兄ちゃん、ママとパパ、また?多分くだらないことだと思うけど何あったの?」

「おかえり。父さんがうっかり母さんが自分用に取っていた(記名済み)ダッツ限定品(ほぼ販売終了品)食べた挙句

『いや、ほら?太らなくて済むから良い…と思えない?』な悪手を選択した」 

「うわー…そこは素直に謝ろうよ…あれかな?子どもの時から一緒にいるから相手の起爆ポイントを誤って踏むのかな?」

確かにルビーが言うように、基本仲良い2人だが、付き合いが長い分遠慮の無さが悪い方に出てこんな感じにアイが拗ねる。むくれ顔が正直可愛いと妹、父と意見が一致している。だが、

たまに逆パターンの時は常に薄目笑顔になるヒカルが圧をかけている時もある。

こちらは気味が悪いと不評だ。

今回は母さんの怒り度は少々高そうだ。ドア越しからの返事が無いし。まあどうせ1時間もしたらむくれ顔で父さんに甘えるだろうけど。

「アイ…わかった。アイス、探してくるから待ってて。

…とルビーおかえり。学校の友達と仲良く出来たかい?」

「うん、ただいま。またやっちゃったの?なんで普段はフェミニストの化身、女誑しなのにたまーに選択肢間違えるの?」

「ははは…女たらしはやめてね。

アイとは本当に付き合いが長いから気心知れた友人な面もあるから遂、ね…ちょっとアイス買ってくるよ。」

「父さん、あてはあるのか?俺が知りうる限り近くのスーパーとコンビニは全滅じゃなかった?」

イソイソと部屋着のファミリーロゴTシャツを脱いで着替え出した父を呼び止める。

時期的に最終受注は終わり、在庫限り品の筈。徒労に終わる可能性が高く、安全を考えるとあまり出歩かない方が良い。

「二店舗だけね。個人商店と個人経営のコンビニがウチから1km圏内にあるんだ。そこの品揃えを信じて行ってくるよ」

「巴比倫弐屋とアイマートのこと?確かにあそこならあるかも…でも巴比倫弐屋は店主さん気難しいよ?子どもに優しいけど」

ルビーが言う巴比倫弐屋は妙な個人商店だが骨董品や世界中のお菓子や食べ物が購入出来る地味な穴場で、俺たちも小学生時代はお世話になった。店主の男は尊大な物言いだが、地域の安全や勉強も見てくれる御仁だ。

…兄妹揃って初めて行った時に『面白い魂と器だな』と言われたのは心底怖かったが。

ちなみにアイマートは中学時代、同級生の井ノ上の親戚が経営している個人経営のコンビニ。このご時世も生き残り、素晴らしい品揃えを誇る。たまに買いに行くと井ノ上がいるのでたまに他愛の無い近況報告をする。

「まあ、ただのお客さんとして行くだけだし大丈夫だよ多分。じゃあ、行ってくるよ」

「「あ、うん、行ってらっしゃーい…」」

勢いよく行ってしまったので見送るしかなかった。

☆☆

「ママ、パパ行ったよ?」

「俺もルビーも流れは知ってるし、今回は素直に謝らなかった父さんが悪いと思ってるよ」

「そうだよね⁉︎ヒカルがいくらなんでも余計な一言だし、素直に謝らないのが良く無いよね⁈」

「あ、出て来た」

勢いよく出て来た我らが母はプンプンと擬音が似合う感じにむくれていた。可愛い。

「「可愛い」」

「え、ええ⁈いきなりどうしたの…?褒めてくれるの嬉しいけど…」

しまった。心の声をルビーと共に出力してしまっていた。

「いやー…ママは相変わらず可愛いなぁ、て」

「アイドルやめて女優として綺麗な姿を見ているけど可愛いらしさ変わらないよ母さん」

「ええー…予想してない返しにお母さん困っちゃう…」

意図していなかったが母さんの怒りを削ぐことに成功したようだ。

「ヒカルも酷いんだよ?私が楽しみにして、名前まで書いておいたやつ食べて素直に謝ってくれたら良かったのに…苦しい言い訳なんかしてさ…」

「パパも反省してたし許してあげなよ。アイス探しに行くぐらいには反省していたし」

「父さん、友達が少なかったから母さんが唯一の親友でもあるから甘えたんだと思う。ただ取り繕う必要が無い関係じゃないから選択肢間違えたんだよ」

僕たちの説得を受けてイジイジモードに入っていく。父さんがいたら多分無言でポカポカたたく母さんの姿が見れたと思う。

「…まあ帰って来た第一声で許してあげるかどうか決めるね」

「そうしてあげて。多分、今ごろ気難しい店主さんに絡まれたり、お兄ちゃんの友達のコンビニに行ってるから」

☆☆

20分後

「た、ただいまー…疲れた…」

玄関から父さんが帰って来た音が聞こえる。

「!ヒカル帰ってきた!ルビー、アクア、私は部屋に戻るからよろしく!!」

「え、うん」

「素直に待てば良いのに…」

基本喧嘩中は母さんは父さんが呼びかけないと出てこない、なスタイルを貫き続けている。素直に出て来て抱き付くか、または…

「いやー、アイマートで廃棄前だった最後の1ケース譲ってもらってさ。ツいてたよ。ついでに例の個人商店に行くと店主さんが居てあれもこれもと色々日用品とか用意してくれていたから買ってきたんだ。

ついでにアイスも置いてくれてたから買って来た感じ。あの人、なんで必要なものを準備してくれているのかな?」

ふしぎー

とか笑いながら洗剤、卵、肉、南洋の果物、野菜、バターケーキetcと机に並べ始める。

「アイに呼びかけてくるから冷蔵庫に野菜室、パーシャルルーム、浴室となおして来てもらって良い?」

「良いけど、父さん。手に持った袋のやつは?こちらでなおすけど」

「あー…これは、うん。寝室に置いておくアメニティ類だから。うん。気にしないで」

急に目が泳ぎ出したから分かってしまう。我が家の夜の大運動会用のアメニティ類だろう。2人とも若いから、仕方ない。

今日は音楽かけて寝よう。ルビーにも伝えておく。

「じゃあ行ってくる。 

アイー、アイス買ってきたよー?僕が悪かったから一緒に食べようよ。2ケースあるから食べ放題だよ

…いや、最初に言うべき言葉はそれじゃないな。

アイ、本当にごめん。間違えて食べたのは悪気はなかったんだ。だけど少しどんな反応するかな?と軽い気持ちで意地悪してあんなこと言ってしまったんだ。ごめんよ…アイ。君は僕の一番星だから何があっても愛してる。許して欲しい、アイ」

父さんがしおらしく謝罪を述べている。

そんな様子を柱の影からこっそり覗く俺たち兄妹。

「ほー…これはママがパパに抱きついてハッピーエンドかな?」

「いや、多分これは…」

ガチャリと音が開き母さんが顔を出す。

そして

「アイ…ごめんよ。デリカシーの無い夫で。調子良いかもだけど、一緒にアイスを食b」

「私はヒカルを食べたいかな」

「え?うわっ」

父さんは部屋に引き摺り込まれて行った。

「…多分、父さんが部屋に引き摺り込まれて運動会が始まるパターンだな」

WINNER 星野アイ

明日はツヤツヤした母さんが出てくるぞ。

「ね、基本パパ負けてない?喧嘩の後て私達に弟か妹出来ないの不思議なくらいじゃん。」

何がとは言わないけどたまにガタガタドアが揺れているから、分かる。

「…意外に気をつけてるからな2人とも。まだ公表していないからうっかり3人目とかなると大変だろうし」

本当に俺たち兄妹自体を妊娠してしまったのは勢いと雰囲気に流されたのだろう。

若かかったから。あの2人。

「そっかぁ〜どんな宝石ネームになるかとか楽しみだったりするんだよねー私。

エメラルドとかサファイアとかダイアモンドとか!」

「ポケ○ンかよ

しかし、アイスが入った袋回収しに行くの嫌だな…

ルビー、イヤホン貸して。耳に入れて取って来るから」

無事アイスを回収した俺たちはコレクションしている、アイのライブ映像を観て推し活することにした。

聞こえて来そうな音を聞こえないようにしよう、とか推しの情事を知らないフリしたいから、とかでは無い、ということにして欲しい。

余談だが次の日の朝は母さんは父さんにベタベタ引っ付き、少し疲れた顔の父さんは母さんを抱きしめて一緒にソファーに座っていた。

「「相変わらずだなー…2人とも」」

夫婦喧嘩は犬も食わない。だが惚気過ぎるのもまたカロリーオーバーで胸焼けして食べないだろう。改めてそう思った。

「ヒカル♡」「アイ♡」


超絶余談

「ほう、上手く仲直りしたのだな。貴様の両親は」

「ええ、色々ありがとうございました。アイスとか日用品とか…よく揃えてくれましたね」

久しぶりに巴比倫弐屋へ行くと店主が店の前で猫に餌をやっていた。首輪が付いているので飼い出したようだ。

「我の千里眼に見えぬものは無い。ほれ、持っていけ。おまえが探していた京極夏彦の文庫本だ。Amazonとやらに注文する手間が省けたであろう?」

「確かに欲しかった本です…凄いですね、やっぱり」

心底驚きながら感激しているのだが、フンと鼻を鳴らして不敵に笑う店主。

「…アクアマリン、貴様が次に受ける仕事はお前の今後に大きく関わるだろう。出会いを大切にな。

さて、話すべきことは話した。我は子ども食堂設立するための手続きがある。疾く失せよ

貴様は旧友に礼を言いに行くが良い」

店主は言いたいことを言うと店の奥に引っ込んで行った…

「…次の仕事?鏑木pが言っていたやつ、か?あの人なんでも知ってるんだな…」

俺たちが転生なんてよくわからないことの経験者なのも加味するとあの店主が何かしらの超常的な力を持っていてもおかしくない。

…また来てみよう。何かあるかもしれないし。

帰りに井ノ上のコンビニに行くと相変わらず旧友がいたので取り止めの無い話と近くに出来たラーメン屋は彼の叔母の友人がオーナーをしている、とかそんなくだらない話をして帰った。

あいつの家、基本メガネなんだよな。裸眼は刑事しているという叔父だけらしいし。


巴比倫弐屋…世界中から集めた店主肝入りの骨董品屋だが世界中のお菓子や食材など様々なものがある雑貨屋。店主は何故か訪れる客に何が必要かわかっているかのように品物を用意してくれる不思議な店。口は悪いが子ども好きなため学童保育や見回り安全、子ども食堂設立に向けて頑張っている。

店主…何ガメッシュ?いいえ、関 義瑠さんです。ただの不思議な能力がある一般人でそっくりさんです。

アイマート…個人経営のコンビニ。地味に30年以上地域に親しまれている。痒いところに手が届く、そんなコンビニ。

従業員は基本全員身内。あとメガネ。

モデルはデジモン02に出て来る同名のコンビニ。


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