逆にイケメンが強調された

逆にイケメンが強調された


 ロナルドといえばいつもかぶっている一つ目のカボチャが一番の特徴だが、たまにそれ以外のものをかぶっていることがある。よくあるのはその辺りにあるバケツ。カボチャが壊れたときの代用品の一つ。紙袋だったこともある。三角コーンをかぶって抜けなくなり、泣いていたこともあった。わざわざ吸対のダンピールがやってきて、物陰に連れて行って抜くのを手伝っていたのを覚えている。

 それから、夏場になるとスイカ頭になっていることがある。一つ目が描いてあるのは変わらずだ。プールに行ったとき、ちゃんと水着を着ているのにスイカ頭なのはシュールだった。吸血鬼が出てもスイカは死守していた。

 今年はさらに変化が増えた。夏祭りのパトロールで、なんと狐の面を着用してきたのだ。浴衣は「ドラ公に着せられた」とのことで、それにいつものカボチャをかぶろうとしたら苦言を呈され、ならばとスイカを選んだらこれにしろと手渡されたのが狐の面だったらしい。屋台にはしゃぐドラルクも浴衣姿で、その頭に乗るアルマジロのジョンも浴衣でメロンパンのようになっていた。深い赤の縦縞の浴衣をまとう長身、その上に乗る狐面。まるで絵から抜け出たようで、祭りの客がちらちら見ていた。

 ショットはそのときに、ロナルドは銀色の髪を持っているのだと知った。所々跳ねる癖のある、輝くような銀髪だった。プールのときに脇や脛の毛を確認すれば体毛の色はわかったかもしれないが、別に可愛い女の子でもないから注目しないし。後で合流した仲間と「あいつ銀髪だったんだ……」と話題になった。

 ロナルドは、初対面の時からカボチャ頭だった。外しているのは見たことがない。何か食べるときは隙間から。風呂や着替えは人前ではしない。覆面が壊れたら、戦闘中でもない限りすぐその場からいなくなる。ロナルドとは長い付き合いになるが、ショットは素顔を知らない。知っているのはギルドでも古株のマスターやヴァモネ、もしかしたらシーニャ、覆面が割れた瞬間を見たというサテツくらいだろう。

 ロナルドの素顔は謎に包まれている。高校の同級生が関わっているからだろうか、週バンも彼の素顔に迫る特集を組むことはない。巷では絶世の美男子だとか、逆に見たらうなされるほど醜いとか、顔に大きな傷があるとか、根拠のない噂が飛び交っている。

 しかしショットは、ロナルドが実はイケメンなのではないかと疑っていた。ジョン曰く「ヌヌヌヌヌン、ヌヌヌヌッヌイイ」。覆面なのに熱烈キッスは「イケメンのスメル」と言って迫りくる。さらにあの夏祭りの日、顔を隠しているのに隠しきれないイケメンオーラを覚えたのだ。うまく言えないが、なんかこう、マスク姿でもその芸能人のことを特定できるような感じで。

「おや、ショットさん、いらっしゃい」

 そしてこの日、ギルドを訪れたショットは自分の予想が外れていないと確信した。

「やあ、ムゲチさん」

「やめろその呼び方。どうしたんだよ、その格好」

 最初、カウンターの椅子に見知らぬ男が座っていると思った。白いワイシャツに黒いベストとスラックスというクラシカルな衣装。肘までの短いマント。つばの広い帽子から、欧米の女性の喪服のように、黒いベールが垂れ下がっている。他の地域から来た退治人かと思ったが、帽子からいつか見た銀色の髪が覗いている上、すっかり見慣れた吸血鬼がアルマジロを連れて隣にいる。

「よう、ショット」

「ああそれ、前に雑誌の企画で着たやつか。見たことあると思ったら」

「そうだよ。ベールじゃいつもの服には合わないと思ってね」

 そういうドラルクも真っ赤なコートと胸元にフリルのついた黒いワイシャツ、白いパンツという、いつもと大きく異なる格好をしていた。細部は異なるが、普段ロナルドが着ている衣装によく似ている。

 ドラルクもロナルドも以前オータム書店の企画で身に着けた、互いのモチーフを交換した衣装だった。一日それでパトロールをしていたから覚えている。だがあのときのロナルドは相変わらずのカボチャ頭で、帽子もこんなベールはなかったはずだが。

「で、どうしたんだよ、その格好は。また雑誌の企画か?」

「……急にドラ公が着ろって言ってきたんだよ。これならいつものカボチャより視界が広いし、物も食べやすいからって」

「この若造、水飲むときもいちいち物陰に行くじゃないか。さっと飲むにはいいかなって。ストロー持ってくるのも面倒だし。ちゃんと顔は隠れているだろう?」

 なんだかんだ言いながらドラルクは相棒を心配しているのかもしれない。水分補給は大事だ。ロナルドも、信頼関係のない相手にカボチャ以外を提案されて受け入れることはなかっただろう。良いことだ。

 だが、顔を隠すという点においてベールはあまりよろしくなかった。色濃いベールがたっぷり使われているので、確かに細かいところはよくわからない。しかし、黒い色とはいえベールは薄手の布だ。輪郭や顔のパーツが透けてしまっている。細かい部分が確認できなくても、その美しさはわかった。大きな目、高い鼻、形の良い唇。それに、布越しにも瞳の澄んだ青色は隠しきれていない。

「……どうだ?」

「うん、いいんじゃねえ?」

 しかしショットは友情に篤い男でもあったので、本人に向かって「やっぱりイケメンじゃねーか!!」と叫ぶことはしなかった。それはそれとして、にっぴきが帰ったあとにクリームソーダをやけ飲みする。

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