逃走中 青い監獄SP

逃走中 青い監獄SP

千切 前日譚


 ネオエゴイストリーグが終了して少し経った頃、実家に帰っていた俺の元に一通の手紙が届いた。


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千切豹馬様


TV番組「逃走中」特別企画に招待いたします。


下記日程にて実施いたしますので、ぜひご参加ください。


勝者への景品は「好きなサッカー選手に24時間稽古をつけてもらえる権利」!!


対象者:新U20日本代表選手23名

集合日時:◯◯

集合場所:翼畑空港1Fターミナルロビー北側


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 へー、楽しそう。勝ったらプロに稽古つけてもらえるなんて最高じゃん!足のこととかも相談できるかもな。でも24時間は流石に体力保たねぇだろ、なんて苦笑する。てか好きな選手って誰でも選べるのか?現役の日本人選手だけ?全体的に情報少なすぎだろ……。あー、なんかブルーロックの招待状思い出すな。あれもかなり怪しかったし。まあ詳しくは現地で説明されんだろな。……よし。家族に内容を伝えるため、ソファから立ち上がった。


 そして当日。あの手紙と同封されていた航空券で無事翼畑空港に到着し、集合場所を目指して歩く。違うとこ行っちゃったらどうしよ、なんて考えているとアスリート集団が目に飛び込んできた。存在感ありすぎて助かるわ。めっちゃ写真撮られてるし。しばらくぶりに顔を合わせるライバルたちと談笑していると、黒スーツにサングラスの男が近づいてきた。ハンターだァ。

「新U20日本代表の皆様、お集まりいただきありがとうございます。たった今23名全員のご到着を確認いたしました。これから目的地へ向かうため、バスに乗り換えていただきます。ご案内いたしますので、ご一緒にお越しください。」

 ハンターって喋らない設定じゃないのかよ。そもそもこういうのってスタッフ的なのが案内するもんじゃないのか?人材不足なのかな。

 ぞろぞろとハンターに続くアスリート集団。俺らめっちゃ目立ってるけど本当に大丈夫か!?下手したら企画内容バレるだろ。お約束なのか?詳しくないからわかんないけど。外に出て、真っ黒なバスに乗り込む。バスも逃走中仕様なのか。すげえな。バスの中はオレンジの明かりが付いているが、座席や壁は黒い。潔と蜂楽が座った席の後ろ、國神の隣に座る。席は広く、一般人より体格の良い俺たちが座ってもまだ余裕がある。つかでかすぎじゃね?まあ狭いよりいっか。通路を挟んだ反対側には玲王と凪が座っている。車内が黒いから髪が白い凪は目立つな。ふとそこで違和感を覚えた。

「よー玲王。あのさ、こういう車って中からも外見えないもんなの?」

 知識のありそうな玲王に聞いてみる。玲王がこっちに気づいた。

「おー、千切久しぶり。んー?」

 玲王が凪を押しのけて窓に顔を近づける。

「……うーん、ほんとだ見えねーな。こういうのって暗い方から明るい方が見えるはずなんだけど。今は絶対外のが明るいはずだし。……つーかフロントガラスと運転席のサイドガラスも黒く見えんだけど、道路交通法違反じゃね?」

「え、そうなん?じゃあなんでこのバス……」

 こんな堂々と使われてんだよ、と。言いかけたところでバスが動いた。なんか、浮く感じ?タイヤに空気が入ったのか?てかもう全員乗り込んだのか。ドア閉まったの気づかなかったな。バスが前方に進み始めた。……静かだな。揺れないし、エンジン音もしない。一定の速度で進み続けている。信号にも、全然、引っかからない……。なんだか不穏な空気が流れていて、誰も何も、喋らなかった。


 数十分が経った頃、バスが止まった。車体が下方向へ動く感じがしてから、ドアが開く。外から明るい光が差し込んだ。

「皆様、お疲れ様でございました。目的地に到着いたしました。ご昼食の用意が整っておりますので、こちらにお越しください」

 外から声がする。これ以上乗っていたくなくて、足早にバスから降りる。目の前には真っ黒な大きな建物があった。回りは高い真っ黒な壁に囲まれている。へー、こんな施設があったんだ。普段は何に使われてんだろ。なんか、ブルーロックに来たときのこと思い出すな。外で待っていたハンターの後ろに着いていく。建物の中に入る。内部も真っ黒、なんてことはなくてよかった。てかこの壁……。通路を進む。曲がる。また進む。そしてこの角を曲がると……やっぱり食堂だ。促され、席に着く。なんか椅子でかいな。

「皆様すでにお気づきでしょう。この建物の材質、構造はブルーロックを模しております。そしてこの建物こそが皆様をご招待した企画『逃走中 青い監獄SP』の会場となります。これからご昼食、その後服を着替えていただき、数十分間の休憩をとってからゲームスタートとなります。お荷物はこちらでお預かりいたしますのでお席の下の籠へお入れください」

 言われた通りにバッグを籠へ入れる……前にスマホを確認した。着信はない。なんかたまに不安になっちゃうんだよなー。電源ボタンを押してスリープモードにする。……直前に。画面左上に見慣れない表示を見た、気がした。「圏外」と。気のせいか……?スマホをバッグにしまって、籠の中に入れる。

 美味しそうな香りがしてきた。目の前に次々と料理が並べられていく。ハンターって給仕もできんのな。次々と並べられていく。これ、量多すぎじゃね……?うーん、申し訳ないけど食べきれなかったら残すか。「いただきます」と両手を合わせた。フォークとナイフもでかいんだけど……。


 食事が終わって、着替え場所に案内される。トレーニングルームか。ってわざわざ器具も用意したのかよ。細かいな。どこからこんな金が出てきてるんだろ。建物も結構立派だし。……あとやっぱり明らかにサイズがでかい。建物も、その中身も全部。1.5倍くらいか?バスの時も思ったけど、逃走中の設備は2メートル超えのやつが設計してんのかな、なんてぼーっとしているとハンターに着替えと端末を手渡された。え、あのボディスーツじゃん。そこまで再現しなくてもいいだろ……。これたぶん全国放送だし。恥ず……。しかしウジウジしてても仕方がないので割り切って着替える。


ピンポンパンポーン♪


 ちょうど着替え終わった時、アナウンスが鳴り響いた。いつの間にかさっきのハンターはいなくなっている。


「ただいまから30分後、ゲームを開始いたします。エリアは当施設内全てとなります。ゲーム開始時のプレイヤーの位置はエリア内であれば問いません。時間になりましたら5つの棟に囲まれた中央スペースよりハンターを5体解放いたします。制限時間の初期設定は90分。終了時にハンターに捕獲されていないプレイヤー全員が勝者となります。ゲーム中は複数のイベントが発生いたしますのでお楽しみにお待ちください。このゲームの詳細な情報は先ほどお配りした端末に入っております。任意でご確認ください。それでは健闘をお祈り申し上げます」


 へー。制限時間はサッカーの試合時間と同じか。でも初期設定ってことは変動するのか。端末に詳しく載ってるっていうけど、面倒だから後で確認すればいいや。端末をボディスーツのポケットにしまう。よし、やるからには勝つ。準備運動のため、俺はトレーニングフィールドに向かった。






ピンポンパンポーン♪


「ゲーム開始。ハンター5体解放」




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