ニゲルシアワセ。

 ニゲルシアワセ。


 

 はじめに  

ちょっと天竜人に連れて行かれそうになったくらいであの男勝りな希望の歌姫が歌をいっさい歌えなくなるレベルでトラウマ抱えるか?っていう勝手な解釈ですが、激重共依存は大好物なので「マジ」で一回ウタに天竜人にトラウマ持っていただこうという心意気から出来上がりました。なので少し(これする必要あった?)みたいな描写が多々あると思われます。おそらく既に出来上がってたルートと違ったり設定ガバだったりすると思いますが、初書きなので多めに見てください。🙏


 これは所謂前日譚です。ルウタ要素少なめ+ちょっと胸糞悪いかもです。

深夜+テスト2週間前に作ってるんでマジで駄文だし続くかもわかんない。ただ、書かなきゃ勉強に手がつかないほど狂ってしまったんだ。。。

 一応自分流ルートが出来上がってて結末まであるんですけどその予定通り行けばハッピーエンドです。

 

 自分なりの軽い設定


 ルフィ:ウタさえいればいい。ずっと一緒にいたい。本編よりちょっと賢いと尚よし。自分が船からシャボンディ諸島に連れ出したせいで巻き込まれたので、今追われていることに少し罪悪感がある。ウタに対する感情はLOVEっていうよりLIKE Lv.Maxって感じ。例えばウタに「結婚して」って笑顔で言われたら貴方が幸せならってなるけど、自責の意味を込めてとかで同じ事を言っても幸せそうじゃないからNOっていう。でも嫉妬はする(嫉妬って気づいてない)。どんだけ数で攻め込まれても絶対にウタに戦わせない。汚れ役は一人で十分の考え。「大切な人が笑える正義」はそのまま。

 逆賊「麦わら」モンキー・D・ルフィ

懸賞金 3億5000万ベリー Dead or Alive


 ウタ:ルフィが生きてさえいればいい。そのためなら自己犠牲は厭わない。ウタウタの能力は基本的に使わずに海軍准将まで上がった。立場上ルフィの直属の元上司でも、ほとんどのルフィの書類を肩代わりしていたので基本デスクワークだった。こっちは普通にLOVE。結婚したい大好き。エレジアは別件で滅んだ設定。

 逆賊「歌姫」ウタ

懸賞金 2億5000万ベリー Only Alive

 

(個人的に二つ名の「逆賊」ってこの二人にしか歴代含めて使われてなかったら嬉しいな〜)

 海軍側:仕方ない、殺そう派閥6(赤犬派):特殊な実の能力者だし保護しよう派閥3.5(青雉派):身内とその周り(ガープ派)0.5くらい。で分かれてる。(敵が多い方が性癖なので)保護派閥の中にはルウタ同様伴侶を天竜人に奪われた人々もいる。


革命軍、その他有力海賊:革命軍、白ひげ海賊団、赤髪海賊団はルウタの保護に向かってる。七武海は傍観者寄り。


 世界的な視点:ちょい強めの海賊・賞金稼ぎからしたらカモ(元大佐+女性准将)なので金目当てで積極的に命を奪いにくる。海賊は名声の為。


 世界政府(五労星):3.5側の思考ではあるけど、「天竜人から逃げ出して生き延びた前例」があるとよくないし、ここまでの肩翼があれば実の回収は後々しようと思えばできるし別にいいのでできれば両方殺してほしい。けどチャルロスがまだウタを御所望なのでOnly Aliveにさせられた。


 よければ、お楽しみください。。。

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この風は 何処からきたのと

問いかけても空は 何も 言わない。

 

 逃亡生活が始まってしばらく経った。

夏島の孤島で偶然見つけた小さな洞窟の中で、私たちは雨を凌いでいた。私には特に目立った傷はないが、ルフィの方はもうボロボロだった。今までの海軍からの追手は全て逃げることに成功しているし、海賊には容赦はしない。私だって、戦闘面では六式と体術だけで海軍准将に昇り詰めた女だし、もっと頼ってくれてもいいと思う。そんなことを考えながら。目の前の焚き火のパチパチとした音にすら負けてしまうほど小さな声で、思い出の歌を歌っていた。隣にはただの私の歌を聴きながら眠りにつきかけている幼馴染の横顔があった。

 ルフィが少し焦って気負っているのはおそらく、私でなくても気がつけるレベルだった。自分が戦わせてもらえない以上、ある程度学んだ応急処置しかできない自分が少し歯痒かった。

 赤髪海賊団に捨てられてから長い間で築いた友人との関係、身分(こっちはそこまで気にしないかも)、平和。それら全てを壊してでも、私一人を助けてくれた。それだけでも私は幸せ者なのに。守られてばっかじゃ割に合わない。助かった私がくよくよしている訳にはいかない。そう思っていた。最も近くにいた人間として、義姉として、…幼馴染として。

 ふと、横を見た。洞窟の壁に寄りかかって目を瞑っているルフィ。こんな廃れた世界なのに。あんな奴に手を出しただけでこの仕打ち。言ってしまえば正当防衛だ。それなのに。横顔は、驚くほど綺麗だった。輝いていた。私を助けてくれた、声をあげたら一瞬で窮地から救ってくれたヒーローのような存在になりつつあった。


「ねえ、ルフィ。」


 私は少し安心してしまい、今にも眠りにつきそうなルフィの肩に軽く頭を乗せる。


「なんだ…?」

いまにも眠りに落ちそうな声で、返事が返ってきた。


「私、今幸せだよ。ありがとう。」


「……そっか。」

 

衛生環境も栄養面も、海軍にいた頃とは比べ物にならないくらい劣悪で。それでも、この世界の神に等しい身分の「アレ」について行っていたら、連れて行かれていたら。なんて思っていた。


 __あの時、感謝を伝えられてよかった。でなければきっと、一生後悔していたから。




 ____あれから12時間後。ここは、マリージョア。







____10時間前

  私たちが隠れていた夏島が、どうやら直前に倒した海賊によって海軍にリークされたらしい。おそらく私より先に気がついて目が覚めて、満身創痍のまま洞窟を出て行こうとしてルフィを見て、嫌な予感がした。ちゃんと寝てなきゃダメだよ、なんて声をかけながら自分も追いかける形で洞窟を出ようとした時に、私も気がついた。中将クラスの人間が複数人以上乗っていることが、私でもわかった。もうだいぶ近くに来てしまっていた。でも今はそれどころじゃないくらい怖かった。ボロ雑巾なんて揶揄されることはよくあるが、それ以上にきっとボロボロになってしまっているこの背中を今、止めなければ。恐らく力尽きて死んでしまうと思った。ならいっそ。

 また捨てられる事を覚悟した。でも、今度は私が守る番だと決意も固めた。私は、気取られないように、ゆっくり必要な分だけ、息を吸い込んだ。


___それから2時間後

 どうやら赤犬派の軍艦に捕まってしまったらしい。私の扱いは酷いものだった。足を縄で縛られ、両手に手錠をつけられ、大半の人間が私の能力を無効にするための耳栓のようなものをつけていた。あの手配書をみるに、明らかに誰か私を欲しがっているんだ。あそこで交戦していたら、確実にルフィだけが死んでしまっていた。護送とはとても言えないような扱いを受けているが、特にやることもないので近くにいた海兵にここから先の行き先を聞いた。もちろん、口はだいぶ悪かった。


「今からお前は、チャルロス聖様のものになるためにマリージョアに行くことになる」

ざっくり言うとこうらしい。まあ、ある程度予想はできてたけど。だんだん眠くなってきてた。能力を使ったままその場を離れたことは今までなかったので、前例がなかった。ウタワールドでルフィは、私の作り出した海兵と戦っているが、自分がいるのがウタワールドだと気がつくのは時間の問題だろう。もしかしたら、もうすでに気づいているのかも知れない。まだダメ。今寝てしまったら、ウタワールドが切れてルフィが追いかけてきてしまう。まだだめだ。

 だいたい1時間くらい経ったかな、だいぶ遠くまで来た。じゃあきっともう大丈夫だ。ウタワールドのルフィはとっくに中将クラスの海兵型(?)音符戦士を5人ほど倒して私に能力の解除を要求してきていた。


「お前!ドレイになっちまうんだぞ!早く!」

「ウタがいない世界なんていらないんだよ!!」

 ルフィは友達としても、仮に恋人にしてもだいぶ嬉しい事を言ってくれている。でもきっと大丈夫。これでルフィを救えるなら。

 それでも。怖かったし体は震えていた。それを隠すように、あわよくばこの会話を覚えてくれていて、なんて淡い期待を込めて一言だけ囁くように、言った。

「私を、助けて。」


 そしていつの間にか、私は眠りについていた。


____そして今から約2時間前

船内が騒がしくなってきたあたりで、私も目が覚めた。やはりどうやら全ての元凶であるチャルロス聖の元へ運ばれるらしい。連れてこられた過程で髪の毛はぐちゃぐちゃに、お気に入りの髪型はもう原型をとどめていなかった。足にキツく巻かれた縄は、連行の際に邪魔なので取られて、代わりに首にドレイ用の首輪をつけられた。だんだん慣れてきたところだったのに。生憎私は歌を買われたも同然なので、少し掛け合ったらリードのような紐を繋ぐ場所を首輪ではなく手錠に変えてもらえることになった。

 船を下ろされて、多くの別の奴隷たちと同じく列に並んで同じ方向に進んでいった。ついた先は。


「ようこそ、元「歌姫」ウタ。」


 ___ここが


「チャルロス聖様がお前を御所望だ。」



 この歌は どこへ辿り着くの

 見つけたいよ 自分だけの 答えを


船から聖地の中心部に行くまでに、二桁はゆうに超える数の奴隷を見た。そしてその全てが、先ほどのルフィよりもボロボロだったように見えた。

 ふと、少し嫌な予感がしたので、咄嗟に頭をすくめる形で視点を下げた。予想は的中だった。それも最悪の形で。

道端に、一人見慣れた顔の人間を見つけた。確か…なんだったけな、忘れたけど海賊だ。3000万ベリーくらいの。懸賞金リストの名前を全て把握しているわけではないので正確にまではわからないが。そんな名前を上げるような(確かもっとガタイの良かったはずの)男が、目の前で天竜人に頭を擦り付けながら命を乞いている姿が見えた。

その直後に、天竜人がその男が鉛の実弾を眉間に直接食らい、声にならない声をあげて血を流しながら地面に突っ伏しているところも。同時にこちら側にも事件が起きた。跳弾が私の元々顔があった場所に一直線に飛んできていた。嫌な予感があたっていなかったら、私は死んでいた。さらに運の悪いことに、その直線上におそらくチャルロスに買われたであろう320cmくらいの大柄の男の脇腹に弾丸が当たってしまった。彼もまたボロ雑巾のような格好だったので、そのまま倒れてしまった。

 私は青手が海賊とは言え流石に気分が悪くなった。極めつけは

「こいつ、使えないえ。金の無駄だったえ」

「それより父上、わきち射的うまくなったえ」

という声。そして横には先ほど弾丸を食らって倒れてしまった大柄の男。チャルロスを乗せたドレイももちろん気づいているはずだが。引きずったまま、おそらく彼の寝床についた。私は喉を買われたし、大体のここにいる者はそれをわかっているので、私は喉ではなく足に錘をつけたまま、厩戸のような場所に放り込まれた。

 ここに来るときに、一つだけ決めていたことがある。私が捕まっても、ルフィは懸賞金のかかったお尋ね者に変わりはない。でもおそらくほとぼりが覚めたら全て丸く収まるだろう。海軍本部のこちら側の人たちはきっとそうしてくれる。」だからせめて、ルフィが幸せを掴むまでは涙を流さずに生きよう。そう決めていた。


 コンクリートでできた倉庫のような、家畜を飼育するときに使うような建物の中に、私も放り込まれた。偶然数の関係で私は区切りの中に一人だったが、周りは皆男で流石に怖かった。だが皆食糧もロクに与えられず飢えたまま重労働をさせている。…おそらく、買い手の趣味だ。君が悪い。まだ外は明るかったが、左足につけられた錘の可動域が大体半径1m分程しかないのでろくに動けもしない。大人しく軽く横になることにした。


 その日の夜、私はチャルロスの部屋に呼ばれた。左足につけられた錘(おそらく海楼石でできた)を引きずったまま部屋の前に着いた時、私は察した。___烙印だ。

この体はルフィの物なのに。顔も体も。声も未来も。私はもしかしたら「奴隷」と言うものを舐めていたのかも知れない。一生会えないのかもしれない。解放なんてされずにさっきの海賊みたいに誰の記憶にも残らずに死ぬのかも知れない。ある程度わかっていても。つい、涙が出そうになった。先ほどの誓いがなければおそらく無様に泣いていただろう。部屋に入る際には海楼石の錘を外すので、ここならウタウタが使える。咄嗟に心を切り替えて能力を使い、烙印をウタウタの世界で受けることにした。一度受けて仕舞えば、後は背中を隠していけばバレる物でもないと読んだのだ。

ウタウタの世界でも痛いものは痛い。体を焼かれた後に声なんて出ないのが普通。どう切り抜けるか考えていた時、チャルロスがもう戻っていいと言った。おそらくとても機嫌がよかったのだろう。私は錘をつけたふりをして、なるべく早く部屋を出た。


 今日は運が良かった。着ている服はかろうじて応体全体を覆い隠せる物だったのが幸いだった。絶対に傷なんてつけさせるものか。逃げ出して、ルフィの元に帰ってやるんだ。

 そう、決めた。


___三日がたった。

 ここにきてから気がついたことなんだけど、私の見聞色が覚醒していたっぽい。ウタウタと相性が良かったのか、周りの「声」が直接聞けるようになった。これでわかったことが幾つかある。一つ目は、この家の奴隷のなかで私を含めて女の人は14人と言うこと。私以外は皆「妻」と言う名の奴隷のようだ。男の人は結構いるっぽくて、入れ替わりが激しい。つまり、すぐ殺すってこと。そして、大体二日に一回のペースで呼ばれる?ぽい。男の人たちが外で何を手伝わされているのかまではわからなかったけど、とてもじゃないけど楽なことではないのはわかった。

二つ目は、「チャルロスは別に何もおかしいことをしていない」と言うこと。つまり、海軍の力を使って欲しい奴隷を捕まえさせて、無理やり自分のものにしようとしていたことは、天竜人からしたら当たり前のことだったんだ。じゃあルフィがボロボロになってたのは…

 三つ目は、隣の隣に住んでいる天竜人が、普通の世界のニュースや新聞を奴隷に読ませているというなんともシュールな奴隷の使い方をしている上に、その奴隷が大きい声で読まされているので情報は入ってくると言うこと。きっと、ルフィは生きている。


____マリージョアに来て七日目。

  バレてしまった。あくまで私の能力はその場しのぎであって、催眠や洗脳の類のものではないので当たり前と言えば当たり前だ。だがどうして、すぐに捨てるなずなのに体に傷をつけるのか。おそらく、この辺りから私は少しずつおかしくなってしまったんだと思う。抵抗しようとして、天竜人に噛み付いてしまった。しかも物理的に。

 一瞬で体を抑えられ、背中が露わになる。鉄が焼ける音と同時に、天竜人の独特の服装からくる独特の音が聞こえてきた。こっちにきてるんだ。嫌だ。これを入れられたら、私は堂々とルフィの隣に立てなくなる。2度と。私はまた、ウタウタを使おうとしたが黒服にバレてしまった。憎しみ、痛み、悲しみなど負の感情がこれでもかと言うほど詰まった叫び声が思わず口から漏れ出てしまった。


「い゛っあや゛だっ゛」


 最も大きかったのは、「彼の隣に堂々といられなくなる恐怖」だった。逃げようとするも海楼石の錘を当てられて体から力が抜けていく。背中にある違和感が走った。次に感じたのは、痛み。そして、無力感。声にならない叫び声が、私の中を駆け抜けて消えていった。そして私の意識はそのまま消えていった。


_______目が覚めると日が昇っていた。そして、腰の辺りに大きな違和感があるのを感じていた。



 その日からはまさに地獄だった。チャルロスに噛み付いたり部屋で暴れたりしたことを踏まえて、私に「教育」と言う名の拷問をすることにしたらしい。何が目的なのか。

 その答えは、意外にもするりと滑り出てきた。

「もしあの女が死んだら剥製にでもして、故郷にでも送るだえ〜」

この天竜人様に逆らう様な人間には、家族や友人共々苦しめてやる、だそうだ。笑える。生憎私にはルフィしかいないし。


 「教育」は歌が必要ないと言われた時に行われ、おかげでまともな睡眠をとることもできなかった。


 ある日、私にとっても、世界にとっても大きなニュースが私の耳に飛び込んできた。もちろん、受け取り方は逆だった。「逆賊・麦わら」の身柄が確保され、インペルダウンに送られることが決まったそうだ。それ以外なんて言ってるかわからなかったけど。少しだけ安心した反面、絶望の淵にまた立たされた。まだ生きてたんだって思えた。それでも私は心から、私があの時取った選択は間違ってなかったんだって思った。私が歌さえ歌っていなければ、まだ一緒にいられたのかなぁ。そんなことを考えていた。


______天竜人のオルゴールになって、大体15日目とかそこら

 ろくに水分も与えられなければ、歌わない日は護衛のストレス発散のサンドバッグになっている。幸い、夜のに呼ばれたことはないが、もう喉はボロボロになりかけている。いつ体を求められるか、いつ喉が壊れてしまうかわからない。先日のニュースから自分の心が消えかけているのを感じた。あんなニュース信じてない。ルフィなら助けてくれると、本気で思っていた。でも忘れてしまったのかな、怪我しちゃったのかな。不幸なことが起こってなかったらいいな。


_____奴隷になって大体一ヶ月。

 二日に一回ずつのペースで、チャルロスの部屋で歌う・地下の部屋で殴られるを繰り返していた。ルフィのためだけの歌声を音楽の「お」の字もわからないようなやつに聴かせなければならなかったのも、単純明快な暴力も。体も心も完全に折れかけていた。ご飯もまともに食べられていなかったけど、意外にも子供の頃のガープさんに森に放り込まれた時の方がまだマシだったので、そっちは耐えられた。これでもおそらく、他の奴隷に比べて私はマシな方だったと思う。肉体労働がない代わりの暴力だが、他の奴隷は関係なく殴られているし、重労働もしている。私はまだマシ。私はまだマシ。


 その日の夜は、数日ぶりに月が雲で隠れていた。こんな体になって、もう上手く眠ることもできない。だからよく月を見ていた。さすが聖地、扱いがいいだけあって住んでる場所も景色だけは綺麗だった。腐った“神”しかいないせいで、外の世界がよっぽど綺麗に見えた。


 その日は何かの記念日らしく、私はチャルロスの奴隷として自慢されるためにどこかへ連れて行かれることになった。碌でもない場所に決まっていたし、予想は綺麗に当たった。無駄に天井の高い建物の中には、巨人族に見間違えるほど大きな人間もいた。こんな穢れた場所の空気で、綺麗な歌なんて歌えるわけがない。だけど、もしここでうまく歌えば気づいてくれるかもしれない。なんて、少しでも考えてしまうような自分がもう嫌になってきていた。

 唐突にケージのような場所に入れられ、歌を歌えと言われた。こんな時ですら自分が見下ろされるのが嫌らしく、少し窪んだ檻のようなステージだった。

 歌い手と観客というよりは、動物園の見せ物のような格好で、二曲ほど歌わされた。もちろん海楼石でできた手錠をつけたままだったので、当たり前だが普段の10%もうまく歌えない。もう一ヶ月も全力で歌えていない。これじゃ気づいてもらえない。奴らは芸術がなんたるかを理解していないから全然気にもしていなかったけど。


 マイクを下ろし、引きずられるような形で数ヶ月ぶりのステージを後にした。そこから先は地下室のような場所でひたすら醜い話が地上から聞こえてきただけ。あとは帰るだけだった。


 直感が告げていた。今日は何かが違った。


 帰りは珍しく乗り物に乗らされることになった。乗り心地は最悪でも、足を劣悪な地面から守ることができたのはよかった。一人真っ暗な馬車の荷台のような乗り物の中、既におかしくなってきていた。今日も目の前で、数人の奴隷の命が散っていくのが見えた。彼らは何も悪くない。ただ、そこに立っていただけで撃たれたヤツもいた。ふと正面を見た。幻覚まで見えてきてしまったようだ。髪の毛が黒色と青色、元気だった私そっくりの姿をしたナニカが見えた。


「あなたは“また”捨てられたんだよ。」

「あなたはもう、助からないんだよ。」

 

わかっている。これは幻覚だ。それでも五月蝿いものは五月蝿かった。消えて、と心の中で唱えるように邪念を払おうとしても、それをする体力すら、もう残っていなかった。

 それでも幻影は喋り続ける。


「ルフィ、今まで”は”優しかったね?でももう来ないんだよ。」

「もう諦めたらどう?」


 わかってるはず。そんなはずがない。私はまた馬車(もしかしたら馬じゃないかも)に揺られている私の心も同様に、揺れていた。今まで信じていたものは、全て嘘だったんじゃないか。本当に私のことを見捨ててしまったのかも知れない。一ヶ月だ。邪念が生まれていつの間にか定着するには十分すぎる時間が経っていた。


「あなたはもう、ひとりぼっち」

「五月蝿い!!」

どこから出たかもわからない声が、自分の喉から飛び出した。幻影は霧散し、後には自分に対する疑念だけが残った。そして、ルフィに対しても。これから先、私はどうなってしまうんだろう。絶対に流さないと決めていた大粒の雫が、眼からこぼれ落ちそうになったその時だった。


 馬車が、傾いた。大きく揺れた。馬車が襲われたのだ。わざわざ人通りの少ない道を選んでいたのは、音でわかった。月明かりで影芝居のように護衛たちが吹き飛んでいく姿が見える。

しゅるしゅる、ぱちんという、不思議で聞き馴染みのある音が聞こえた。

 こんな邪念が出てきた矢先、こんなことがあっていいはずが無い。錘のせいで上手く動けないので、布の隙間から空を見上げるような形で外を見た。


夜なのに、太陽がそこにはいた。私を見つけて、嬉しそうな顔で。


子供の頃、私が山賊に攫われて売り飛ばされそうになった時も、結局はじめに見つけてくれたのはルフィだった。ぼこぼこにしたのはシャンクスたちだったけど。

ルフィは、何か私に話しかけている様だったが、自分の眼から流れてくる涙をどうにか止めるのに必死で、あまり聞き取れなかった。すぐにでもその胸に飛び込んでしまいたかった。でも、私にはその資格がないことも理解していた。きっと今も良心でここまできてくれた。それが自殺行為と変わらないことをわかった上でだ。そんな人間を、私は先ほどまで疑ってしまっていた。それだけでも躊躇したのに、もう私の背中には天竜人の「モノ」の証が入ってしまっている。体がそれを理解してか、固まってしまっていた。遠くの方から声がする。きっと追手がやってきているんだ。動かなきゃ。動かなきゃ…でも…!なんて思ったその途端、私の体が宙に浮いた。

 いつの間にか、錘は外れていた。馬車の中にはまだ、黒い私がいた。

そんなことは気にもせずルフィは、なんの躊躇いもなく穢れてしまった私を担ぎ、どこまでも伸びる腕の片方をを私の体だけに巻き付け、もう片方で近くの木を掴みそのままジャンプで追ってから逃げてしまった。逃げられてしまった。


 一ヶ月という短く長い期間でできてしまった心の壁を、いとも簡単に壊して、楽々私を救ってしまった。そこでようやく、とても優しく懐かしい匂いに包み込まれていたことに気がついた。ああ、もういっそ、この優しい胸の中で死んでしまえれば、私はシアワセなのに。


 







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