【追い剥ぎと歌姫】
118……あの日、ウタは海岸で偶然拾ったんだ。大きなメキシカンハットと、そして───
「……おじさん、具合はもういいの?」
「デデデデ! ありがとよウタ! おかげで命を拾い放題だ!」
「……そう。じゃあ私はもう行くね。交易船が数日後に来るからそれに乗って行くといいよ」
「まあ待てウタ、あの話題の歌姫に会えたんだ。もっと話を聞かせてくれよ」
「……私、やらなきゃいけないことがあるから」
「───────妙な噂を聞いたんだ。ウタ、"赤髪のシャンクス"って海賊に娘がいるってなァ……!」
「っ……! どうしてそれを……あっ!」
「デデ……詳しく、聞かせてもらおうか……」
***
「……というわけなの」
「なるほデ。赤髪のエレジア襲撃には疑問が多かったが、そういうカラクリだったとはな」
「疑わないの? ウソを言ってるかもしれないのに」
「デデデデ……目を見ればウソかどうかくらいわかるさ。俺は狙撃手、目には自信がある!」
「……私はどうすればいいのかな。あれだけ多くの人の命を奪って、それでも私に助けを求める人達がいて……皆を助けなきゃいけないのに゛ぃっ痛ぁっ!」
「いいかウタ、この世には苦しんでる人間なんざゴマンといる。それをおめェおれの半分も生きてねェ小娘の分際で救えると思うなよ! アホが!」
「で、でも……」
「他人を救うのはまず自分が救われてからだ。例えばおれは海賊を狩って荒稼ぎしているが、それで助かったと感謝してくるやつもいる。まずは自分が幸せになって、余裕ができてから他人のことを考えろ! 失った物ばかり数えるな!!! お前にまだ残っているものは何だ!!!」
「……ルフィとシャンクスにあ゛い゛だい゛!!!」
「それなら……会いにいっちまえばいい。まずは麦わらからだな」
「……え?」
「デデデデ! 麦わらが世に放った十六点鐘の意味もおれは突き止めた! 3D2Yはそれぞれ日と年を指している、つまりあの日麦わらの一味が壊滅した日から二年後、あいつらは再び集結する! あの日シャボンディ諸島に七武海"バーソロミュー・くま"がいたこと、あいつの持つニキュニキュの実に対象を世界各地へ飛ばす能力があることもおれは突き止めた! 麦わらのルフィも!一味全員が無事だ!!」
「えっ、ちょっと待って、えっ?」
「十六点鐘が一年前……集結の日まで一年以上残されてるんだ、シャボンディ諸島まで行くのくらい容易い! この世はやるか! 本気でやるかの二択だ!! 本当に会いたいなら海に出て奪いに行くくらいの気概を見せろ! この海にゃそんなバカはごまんといるぞ!」
「私が……ルフィに会いに…………」
***
「デデデデ! ありがとよゴードン! おかげでいい歌姫を拾い放題だ!」
「……礼を言うのはこちらの方だ。ウタを立ち直らせてくれたこと、心より感謝する」
「大げさだなあゴードンは! ルフィに会って世界一周したらすぐ帰ってくるから、気長に待っててよ! 今までさ、色々あったけど……わたし……わだしっ、ずっと、ゴードンにひどいことばっかりで、ゴードンはずっと、わたしのことを助けてくれでだのにっ……」
「いいんだ、いいんだウタ……君が元気に育ってくれて本当に良かった」
「ごーどん……うわああああん!!」
***
「デデデ! ずいぶん泣いてたみたいだが……今更引き返そうってわけにも行かねえぞ」
「泣いてないよ! 孤高の賞金稼ぎは泣かないもん! それに……ゴードンは大丈夫。私なんかよりずっと……強い人だからね。きっとすぐ立ち直ってくれる───」
「……ごほん、写っているかな? 配信は初めてだから不備があったら申し訳ない。」
『誰?』『だれ?』『ウタは?』『誰だよこのオッサン』『生きてたの』
「私はゴードン、ウタの育ての親だ。ウタは……遠いところに旅立った。これからは彼女に代わり、私が皆を楽しませる。それではまずは一曲目……"運命"───」
『!?』『上手くて草』『これはこれで』『マジ推せる』『相変わらず上手い』
「───CP0より五老星へ報告。民衆の支持を集めていた歌姫ウタが突然の失踪、代わりにエレジア元国王であるゴードンが弾き語りを始めたようです。ウタのようなカルト的人気はありませんが心に染みる良さがあり……」
「下がっていいぞ」
***
「"深手の・アルビオン"、懸賞金9千200万B……スペシャルパンケーキ5000枚分。リップ・"サービス"・ドウティ、8千8百万B……ソウルキングのSSSチケット176枚分……」
「デデ……ウタ、殺気漏れてるぞ。もうちょっと抑えろ……」
「だって! こんな高額賞金首が勢ぞろいしてるのに手を出せないなんて……! もう一ヶ月近くこんな感じなんだけど!?」
「仕方ないだろう、騒ぎを起こすわけには行かない。間に合わなかったらと早めに着いたが……そろそろ始まったな」
『うおー!!"麦わらのルフィ"船長のおでましだァ!!!』
『────つまり!おれが"海賊王"になった日にはおめェらは海賊王のクルー! 命を賭けて戦え!!』
「デデ……ウタ、アイツをどう思う」
「あんなのがルフィなわけないじゃん! そりゃちょっと記憶の中で美化してたかなーって思わなくもないけどさすがにあれは間違えないよ!」
「半分正解、半分不正解だな……お、パシフィスタだ!」
ピピピピ……チュンッ!!
「わっ、あぶねえっっ!!」
「ルフィ……!! 本物のルフィだあ〜〜!!! かっこいいよぉぉぉ!!」
「デデ……レーザーを避けたか、いよいよ本物だな」
「懸賞金3億ベリー、麦わらのルフィ……」
「ルフィの邪魔を───するなっ!“逆光槍”!!」
「ビビッ、ガガガ……!?!」
「デデデ……! パシフィスタを、一撃……! こっちもいよいよ本物だな!」
「あっ、あっ、ルフィが行っちゃう……!ど、どうしようジャン!? 追わないと、でも私のこと忘れてたら……でもでも……ジャン!?」
「拾った女はおれの“弾”……おれは狙撃手よ! "妓配王"! 受け取れ麦わらァ!!」
「きゃあああああああーーーー!!?!?」
「なんか飛んできたぞ。切るか?」
「ふっざけんなクソマリモ!レディはおれが受け止め……ぶぉっ、鼻血が……」
「よっ……と!」
「んっ……!?」
「ウタ……? お前、ウタだろ! 久しぶりだなァ~~~~!!!」
「っ……! ルフィ、ルフィ〜〜〜! う"わ"あ"あ"あ"あ"~~~~ん!! 私もいっしょにっ……海へ連れてって!!!」
「おうっ、いいぞ!」
「「いいのかよ!?」」
「デデ……エレジア出たときより泣いてんなァ……」
「おい"追い剥ぎ"! あのパシフィスタ破壊犯を逃がしやがってどういうつもりだァ!?」
「投げた女はおれの元部下……修理分はおれが払ってやるよ。それより先にこの海賊共の相手をしようぜ戦桃丸」
「ぐっ……いけっ、パシフィスタ! 麦わらは後回しだ!」
「デデデデ! “妓配王”!!」
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「これで海賊はあらかたとっ捕まえたが……麦わらは逃しちまったなァ」
「デデ……デデデデ! 油断したなウタ! ここまで育て上げたのも……お前がいずれ超高額賞金首となるのを見越してのこと! お前がフダ付きになった頃に麦わら共々仕留めてやる! デデデデ! デデ……デ……」
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「古代に封印されし魔王トットムジカ……おれはその安全な制御方法も突き止めた!」
「ちょっと、教えて!それ!」
「デデデ……お前の所持金じゃ足らないなぁ」
「ぐぅ〜!!宝払い、宝払いで!」
「ジャン!そのチキンは私のでしょ!」
「デデ!?フォークを投げるのはやめろ! イデデデ!!」
「……ジャン、私ずっと自分は独りなんだって思ってた。でも、こんな私にも三人もお父さんがいたんだなって。一人目はシャンクスで、二人目はゴードン……三人目は─── 」
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「なんだ、泣いてるのか? “追い剥ぎ”」
「デデデデ! これはただの汗だ! 孤高の賞金稼ぎは……涙など流さないからな!! デデデデ!!」
「なんだこいつ……それよりお前の部下が風穴開けたパシフィスタの修理代金払ってもらうからな。ついて来い」
「デデ……安いもんだ、パシフィスタの一台くらい……ウタが無事で良かった」
「安くないわ!」
「本当に……良かったなァ…………デデ……」