迷子になった話
小4の夏休み、家族で夢の国に出掛けることになった。
凑は乗り物にもキャラクターにも興味はわかないが、非日常を写真に収める機会は当然逃すなどという選択肢はない。
「行く」
母にそう告げると、母は嬉しそうに笑った。
長男が行く、と言えば下の子は当然のように行くと言うので、凑が首を縦に振れば兄弟の満場一致となるのだ。
一も二もなくサッカー漬けの次男と、サッカー以外のイベントを過ごしたいそんな母心をなんとなく汲むのも長男である。
乗り物に乗ったり、キャラクターと戯れたり、ポップコーンを頬張る弟たちを、それを見守る両親を写真に収め達成感に満ちていた。
俄雨が降り、止んで次に行こうと、お兄さんぶりたい冴が凛と手を繋いで歩く、両親がそれを見守りながらついていき、凑はその後ろを写真を撮りながらついていく。
滑らないように、足元を見て歩く弟たち。
そんな弟たちを見ている両親。
みんな下を向いている中、凑だけは気がついてしまった。
お城に虹がかかっていることに。
「見て、虹」と声をかけるより、写真撮らないと、が優先されてしまい、凑は夢中でシャッターを切っていた。
写真の事となるといろんなものがすっぽ抜けてしまう、それは凑の長所でもあり、それを上回る短所だった。
この構図が良いか、こっちの方が良いかと虹が消えるまでシャッターを切り続け、気がつくと一人置いていかれていた。
「あー、やばい」
これはやってしまった。確実に怒られる。
「カメラ、取り上げられるかな…」
それは嫌だなぁと思う。
とにかく、家族と合流すべく凑は動いた。
「すみませーん、家族とはぐれました」
スタッフに声をかける、それでなんとかなることを、凑はしっているので慌てず行動した。
その頃、
「に゛~ち゛ゃん゛どーごー」
「わーん」
兄がいないことに気がついて大泣きしている弟たちを、大丈夫すぐ見つかるからと宥める両親。
「に゛ーぢゃん゛ま゛い゛ごに゛な゛っぢゃっだー」
「に゛ーに゛、ででっでー、もーいーよーもーいーよー」
阿鼻叫喚、凛は最近覚えたかくれんぼのもういいよを繰り返す、そしたら兄が探しに出てくると思っているようで、しきりに唱える。
「大丈夫、お兄ちゃんと会わせてくれるところがあるからね」
「ぼん゛ど?」
「ほんと」
ぐずぐずと鼻をならしながら、冴は母に手を引かれ、凛は父にだっこされながら、迷子センターに向かった。
案の定凑は迷子センターにいた。
「に゛~ぢゃぁぁーーーーー」
凑を見つけるなり、冴の涙腺は再び決壊。
母の手を離し泣きながら兄のもとへ駆け寄る。
「どごい゛っでだの゛ー」
泣きじゃくる冴の頭を撫でながら
「あー、お城の写真撮ってた」
「おじろ?」
「虹が出てて綺麗だった」
ぎゅっともうどこにも行かせないと抱きつく冴に
「冴?お母さんちょっとお兄ちゃんとお話しするから、お父さんと凛の面倒、見ててくれるかな?」
「にーちゃんもういなくならない?」
「いなくならない、大丈夫」
「わかった」
父親のところまで冴が行ったのを確認して母は凑に向き直ると
「凑?」
真剣な顔でお説教が始まった。
「立ち止まって写真が撮りたいなら声をかけること、ちゃんとみんな待つから」
これを約束し、カメラは取り上げられることはなかった。
なかったが、片手を冴に塞がれてカメラを構えることができなくなっていた。
「凛と、にーちゃんが迷子になら無いように、おれが手を繋いでるからね」
冴を真ん中に仲良くパレードの場所を目指すのだった。