輪廻転生

輪廻転生


初めて貴女に会ったとき、私は動けなかった。

感じるものは光、風、雨。

貴女の発する心地よい、空気の振動。

私はただ、振動に合わせて体を揺らすだけ。

凍てつく寒さで、体が朽ちるまで。


貴女に再会したとき、私は体を持っていた。

手足持ち、自在に動く体を持っていた。

複眼越しに、小さな脳が貴女の笑顔を映し出す。

脳裏に焼き付く、万華鏡めいた光景。

飲み込まれ、その身が糧に変わるまで。


貴女に再会したとき、私は翼を持っていた。

大空を自由に飛べる、翼を持っていた。

昼間しか役に立たない、その目で貴女を認識する。

貴女の声に呼応する。意味を持たない歌声で。

喉笛を、食い破られるその日まで。


貴女に再会したとき、私は四肢を持っていた。

翼は無くとも、力強い四肢を持っていた。

霞んだ視界に写る、貴女の手。

貴女の温もりに呼応する。小さな四肢で。

鉄の獣に跳ね飛ばされ、四肢が折れ曲がるその時まで。


貴女は初めて、私に名前をくれた。

貴女は初めて、私に触れてくれた。

死にゆく私を看てくれた。

私の骸を、土に還してくれた。


私は海にいる。狭く暗い、穏やかな暖かい海にいる。

心地よいベッドにしがみつき、そのときを待っている。

暗い海から上がるもまた暗闇。私は泣き叫ぶ。貴女の声と貴女じゃない声。

無秩序なファンファーレに迎えられ、貴女に再会する。

暗闇の中、貴女の腕に抱かれて。

光を取り戻し、意味無い歌声でも、小さな四肢でもなく。

初めて貴女に触れて、問いかける「ママ」と。

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