輪廻眼

輪廻眼


「マスター、また目ん玉変わったか?」


ストームボーダー食堂、いつも皆がワイワイと騒いでいるそこで、対面に座ったモードレッドがそんなことを言った


「あー、そうなんだよね。気づいたら、こうなっててさ。多分、巌窟王が何かしたんだと思う」


廃棄孔で伯爵に心臓を刺され、ハサンによって巌窟王の宝具が使われた後、立香の瞳は赤と黒の万華鏡写輪眼から輪が多く重なった薄い紫の瞳、輪廻眼に変わっていた

巌窟王がアシュラの転生体だったわけではない。彼がハサンに宝具を譲渡するのと一緒に、旅の最中で見つけ出したアシュラの魔力が入った小さな器を渡していたのだ


「色々できるんだけど、正直、あまり使う気にはならなくて。特に外道とか。皆を縛るとかちょっと嫌すぎる」


神威の方が便利だし、必要なら使うけど、そうじゃなければなー、と立香はぼやく

強大な力を手にしてもいつも通りな彼の姿に、モードレッドは、こいつはどんなになっても変わらねえよな、と信頼を厚くする


「いや、問題はそこじゃないだろ……お前、万華鏡写輪眼だけでも封印指定ものなのに、そこから更に発展形に至るとか、全身厄ネタの塊になるつもりか……!?」

「あ、カドック。おはよー」

「呑気だなぁお前はぁ!」


そこにトレイを持ったカドックが割って入ってきた

魔眼にはランクというものがある。低ランク、ノウブルカラー、宝石、黄金など、色々あるが、今回の場合は——


「起こる現象を考えたら、どう判定しても宝石以上だぞそれ……! 億や兆なんて桁じゃない……! もはや、値段がつかない代物だ……!」

「そんな凄いものなんだ、へー」

「凄いなんてランクじゃないんだよバカ!」


自分の瞬時の肉体改造、大量の動物の召喚、記憶や知識の吸収。そして、完全なる死者蘇生という魔法ですら不可能なことを実現できる、世界のルールから逸脱した魔眼

カドックの言う通り、もはや価値が高過ぎて値段が付けられないレベルである。というか、何となら釣り合うのか


「でも、俺にとってはあんまり価値ないんだよなぁ。巌窟王がくれたようだから大事にはするけど、使う必要がないなら全く使わないと思う」

「お前、本当に魔道にも力にも興味ないんだな……」


だというのに、立香はもう完全に魔眼の力から興味が失せていた

巌窟王との思い出の品だから愛着を持っている状態である


「孔明もライネスも新所長も全員が頭抱えてたぞ……お前、ホントどうするつもりなんだよ……」

「帰ってパン屋開く」

「少しは魔眼に縛られろ!」


立香の呑気な発言に、カドックが頭を抱える

もうお前、そういう立場じゃないんだよ……! と頭を悩ませるカドックに、先程まで漫才を眺めていたモードレッドが口を挟んだ


「ま、どうなるかは知らねえけど、どうにかはなるだろ。最悪、アヴァロンとかサーヴァントユニバースとかにこいつを連れて行けばいい。そこらへんの伝手は結構あるだろ、ここ」

「普通ない筈なんだよなぁ、そういう伝手は!」


改めてカルデアという環境の異常さに、カドックの頭が激しく痛む

彼の知識と常識ではもう理解できない領域にまで話が飛んで行っているのを彼は静かに理解し、諦めと共に溜め息を吐いた


「はぁ……もういい。僕からはもう何も言わない。ただ、今のお前は人類の代表どころかそれ以上の価値があることは理解しておいてくれ」

「えぇ……(困惑)」


そんな凄い存在じゃないです、と言わんばかりに立香の顔が嫌そうに歪む

それにカドックは青筋を立て、しかしすぐに諦めて踵を返して歩き出した


「一緒に食べないのー?」

「食 べ な い !」


背中からかけられる声に苛立ち混じりの返答をし、カドックはツカツカと歩いていく

それを眺めながら立香は、もうちょっと気楽に生きればいいのに、なんて思った

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