転生昼ドラ√序盤

転生昼ドラ√序盤


 ヘルメッポさんは一体僕とどうなりたいのだろうか。

 折角平和な世界に生まれ変われたのに、彼は僕に対して異常なほどに過保護だった。理由は分かってる。前世では随分と心配をかけてしまったし、ルフィさんたちと秘密裏に共闘してまで捕縛したあの人と僕の関係をどれだけ弁明しても、それはただのストックホルム症候群で、お前は被害者で心も身体も休息が必要なのだと言い含められてしまえば僕はそれを拒めなかった。

 あの人のクルーが僕を四皇のオンナだと噂を流していることに怒ってくれたヘルメッポさんは、噂だけでなく実際にシクシクの実の能力で女にされて、子供まで産んだ僕を支えてくれた。あの人の子供だからと生まれたばかりでなんの罪もない筈なのに、海軍に奪われかけた小さなぬくもりを守ってくれたのもヘルメッポさんだった。僕のメンタルケアや子育てのサポートという意図があったにしても、結婚までしてくれたのは友達だから、だけでは済まない気がする。でも、僕だってヘルメッポさんが同じ目に遭ったら出来得る限りの事はしただろう。結婚だって、子供が出来たのだと伝えてとても喜んでくれたあの人となら、と考えなかったと言えば嘘になる。お互いの立場がそれを許さない事だってちゃんと分かってた。

 ――でも、夢を見るのは自由だから。

 結局産まれた子供に本当の父親の事は話さずに生涯を終えた。弟が欲しいのだといつの日だったか強請られた時、子供にも伝わるようにそれは難しいのだと伝えてくれたのはヘルメッポさんで――。

 結局彼は僕との結婚生活で夫婦としての役割を求めてくることはなく、共に子育てをする戦友として絆を深めただけだった。

 男なのだから溜まるだろうと、一度誘った事があるけれど、彼は怒ることもなく、ただ悲しそうな顔で僕を抱きしめてくれていた。

 だから、ヘルメッポさんにとって僕は友達以上にはならないのだとそう思っていた筈なのに……。

 生まれ変わって、保育園で再会して「一生かけて守る」と互いの両親の前で宣言してしまった。いや、分かる。心配なのはとても分かる。僕だって今度はヘルメッポさんを支えたいなって思っていたのだから。けれどそれから彼は小さな怪我すら許せないとばかりに真綿で包むように僕を手元に置きたがった。

 今生こそ、彼は普通の結婚を望めた筈なのに、恋人だって好きに作れた筈だ。それなのに、僕らを恋人やら夫婦やらとからかい半分で囃し立てる人間は年齢を重ねるごとに増えていって、その度にヘルメッポさんはそれを肯定して……、嗚呼また彼の人生の自由を奪ってしまったのだと改めて罪を突き付けられた気がした。

 お腹の奥がぎゅうっと熱くなる。濡れた下着をトイレで拭う度に前世であの人、ティーチたちに与えられた“幸せ”が恋しくって仕方がない。同じ部屋ですら寝てくれないヘルメッポさんの長い指が僕のお腹を掻き回す想像をしては、彼は友人なのだと自分自身に言い聞かせた。

 例え、周りに同棲中の恋人同士として見られていても、幼馴染カップルだと羨ましがられても、学生のうちにデキ婚なんて真似はしないと僕の両親に頭を下げて同居の許可を取った彼を見た母に「逃しちゃだめよ」と言われても、僕たちはただの友達なのだから。

 おやすみのキスは前世の傷跡と同じ場所に。

 偶に男のひとに見られたとき、抱きしめてくれる腕がたくましくて、そのまま僕の体を気に入ってくれないかな、――なんて浅ましい願いが何度も何度も芽を出しては摘まれていく。

 周りからは独占欲が強くて過保護な彼氏とそれに慣れてしまった危機感の薄い彼女として見られているのに、彼は僕の体に見向きもしない。彼が見てるのは前世の傷だらけの僕だけで、ヘルメッポさんに心配をかけ続けた僕がその先を求めてはいけないのに……期待ばかりが何度も生まれては消えていく。

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