転生パロ

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転生パロ

年齢操作あり


 幼少期はそれなりに幸せだった。

 優しい父と母、裕福ではないが平穏で自由な生活。手伝いをしたら褒められイタズラをしたら怒られる、夜眠れないと父さんと母さんの部屋に泣きべそかきながら入れば優しい腕に抱かれて二人の間で眠りにつく。異国の血を継いでいること以外はどこにでもいるような子供だったと自分では思う。

 全ての転機はある雨の日……一人でお留守番をしていたおれは買い物に行ったきり中々戻らない両親に怖くなって、家中の電気を付けながら面白くもないニュースをぼうっと見ていた。いつもならご飯を食べ終わって父さんとお風呂に入っているような時間にようやく車が近づいてくる音がして、おれはいても立ってもいられずに玄関に走ったことをよく覚えている。

 ……でも扉の先にいたのは両親ではなかった。


大雨でスリップしたトラックに巻き込まれて即死


 警察の人が言った言葉をその時のおれは全ては理解できなかったけれど、もう二人に会えないことだけはなんとなく分かった。

 この国に頼れる親戚のいないおれはすぐに養護施設というところでお世話になることとなった。おれのように身寄りがなかったり親から虐待されたりした子供が数十人集まった施設は、お世辞にも住みやすいとは言えなかった。心が荒んだ奴らが徒党を組み、弱い者に暴力を振るって、常に誰かが泣いているような日常。職員は事勿れ主義なのか事務的な対応をするだけで、身を守るには力をつけるか力のある側に遜るしかない社会の悪い部分の縮図みたいなところだ。幸い両親譲りで施設の誰よりも体格のいいおれは標的にされることはなく、おれにおべっかを使ってくる奴らも適当にあしらっていたら徐々に構わなくなってきた。

 一人でいるのは気楽だ。もしかしたらおれの前世は世間から忘れられた森の奥でひっそりと暮らす仙人みたいな男だったのかもしれない。何か大事なものが欠けているような違和感を抱えながら、学校と施設を往復するだけの繰り返しの毎日を送っていた。


「うわーん、ぐずっ、ぐずっ」

「っこの!!ペーたんをいじめるなって何度言ったらわかるんでありんすか!!」


 その日もおれは人が少ない庭の隅でのんびりと空を見上げていた。にわかに騒がしくなった方に目線だけを動かせば、入ったばかりの新入りがガキ大将の胸ぐらを掴んでいる。弟の方はやや気弱でいじめっ子達の恰好の獲物だったが姉の方は血気盛んらしく、弟にちょっかいを出されて自分より頭一つ分大きい相手に殴りかかっていた。


「……え?」


「やったな暴力女!みんなやっちまえ!正当防衛だ」

「かかって来いよオラァ!!」

「姉貴、やめろって!勝てっこないだろ?!」

「やめろだとぉ?!ぺーたんは黙ってて!ぺーたんは私が守り切るでありんす!!!!」


 耳馴染みのあるやり取りを聞いて立ち上がる。頭の中に白昼夢のような光景が次々に浮かんでは消えていく。たくさんの武装した海賊達、火を吹く青龍、踊るグラサンのダルマ男、半身をマンモスから生やして大鎌を振るう金髪の男、そしてーーー


 おれが正気を取り戻した時には5人ものそこそこ体格のいい男達に囲まれて、まともに殴られる少女が目の前にいた。その後ろで弟も取り巻きに蹴りを入れられて蹲っている。5歳は歳の離れた姉弟に対してリンチが始まってを察して思わず走り寄った。


「やめろ!!」

「あ?なんでお前が出てくんの?」

「こいつらから喧嘩売ってきたんだぞ」

「やめろと言って理解できないなら、力づくで黙らせる!」

「なんでキレてんだよ……もう行こうぜ」


 この世界では喧嘩すらしたこともないから握りしめた拳はただのハッタリだったが、興が冷めたいじめっ子達はおれと姉弟を睨んでから去っていった。興奮と恐怖で乱れた息を整えてから二人に向き直る。

 と、同時に流れ出すのは先ほどの続き。夢のようで本当にあった記憶…彼らはそう、おれの部下だった。


「二人とも大丈夫か?」

「た、助けてくれてありがとう」

「ペーたん怪我はないでありんすか?」

「大丈夫だ。それより姉貴、この人への礼が先だろ」

「…まあ、助かったでありんす。ペーたんが殴られる前に来てくれたらもっと感謝したのに!」

「おい!!」

「……二人とも相変わらずだな。うるティ、ページワン」


 名前を呼べば二人がおれを信じられないような目で見る。前世の記憶を取り戻した反動で言ってしまったが、よくよく考えれば前世で知り合いだったと急に言われて驚かない人間はいないだろう。心がはやったことを反省しつつどう取り繕えばいいか考えあぐねていると、先に動いたのはうるティの方だった。


「あーーー!!もしかしてお前、キングでありんすか?!」

「っなるほど!その可能性があったか、さすが姉貴!!」

「そうだが……ああ、そうかあの頃はずっとマスクをしていたんだ」


 二人にも前世の記憶があったらしい。百獣海賊団は良くも悪くも弱肉強食の世界で、飛び六胞であった二人とも仲良くとはいかなかったけれど、懐かしさで頬が緩むのを感じた。もしかしたら他の幹部やカイドウさんも記憶を持ってこの世界に転生したのだろうか。


✳︎


 おれの推測は正しく、数ヶ月後に待ち望んだ来訪者が養護施設の門を叩いた。


「ウォロロロ、ここにいたか!」

「…?!カイドウさん、カイドウさんなのか!!」

「なんだだいぶ縮んだじゃねェか、キング」

「きゃーカイドウ様でありんす!お久しぶりんす!」

「カイドウさんもこの世界に来てたのか!…てか姉貴、それありんす言葉なのか??」


 前世でおれの全てだった人、カイドウさんはおれとうるぺー姉弟を引き取るととある屋敷におれたちを連れてきた。この世界は大航海時代に比べたら平和で腑抜けたような世界だから大っぴらに暴力で支配することはできず、所謂裏の筋としての組織を持っているらしい。カイドウさんがいるならカタギでも極道でもおれにとって大きな違いなどない。


「だっははは、お前がキングか?!ずいぶん縮んだじゃねェか」

「もしかして僕の方が歳上?キングうるティページワン、一緒に光月おでんの舞台を見ようよ!この世界だとブルーレイってやつで何回でも見られるんだよ!!!」


 屋敷には記憶より少しだけ若返った能無しおしるこ野郎とヤマト坊ちゃん…いや、こっちではお嬢なのだろうか、どちらにせよ見知った二人がいた。不思議なことに今のところ出会った全員が記憶より10歳程度若く見えるが、おれだけ百獣海賊団が瓦解した時点からは35も若返っており、最年少だったうるティとページワンと変わらない年齢になっている。余談だがこの時代の光月おでんはカイドウさんに敗れた侍などではなく、ヤマト嬢がハマっている歌舞伎役者らしい。ならば後でブルーレイとやらに付き合ってやるのもいいか。


「今は出払っているが、ジャックにササキ、フーズ・フー、ブラックマリアもこの組にいる……ドレークは警察をやっているって話だ」

「全員いるのか……全員?」


 指折り数えて、違和感を覚える。後一人若い男がいたはずだ。ヤマト坊ちゃんのように話が通じなくて、30も歳上のおれのことを息子だなんて主張して、意味が分からないと何度突っぱねても変わらず無償の愛を注いでくれたあの人は……


「カイドウさん、1という男は…?」

「まだ見つけてねェがきっといるだろう。……なあキング、これは想像でしかねェんだが…おれはお前だけガキになっちまったのは本当の意味であいつの息子になるためじゃねェかと思っている」

「…もしあいつがあの時と同じ歳だとしてもせいぜい兄弟がいいところだろ」

「ウォロロロ、そうかもな。だがあいつのことだ、どんな姿でもお前の父親を自称するに決まってる」

「違いない」


 あの頃はカイドウさん以外に心を閉ざし、1の気遣いを鬱陶しく感じることもあったけれど、平和な世界に生まれ変わった今、あいつの声が妙に恋しく思えた。

 カイドウさん達と再会して両親と死別したときから止まっていた歯車が回り出すのを感じるが、灰色だった景色は未だ薄く色付いただけ。あのめちゃくちゃな父親に出会って初めて、おれは鮮やかな色彩を取り戻すのだろうと根拠のないことが頭をよぎって離れない。

 なあ1お前はどこにいるんだろうか。


「今度はおれがあんたを探す番だな」


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