転生もののセオリーとは

転生もののセオリーとは

基本同じ世界線から全員生まれ変わってきますよね

 売れないバンドマンみたいな髪型をしているなというのが扉間のマダラへの第一印象である。当然、褒め言葉ではないが扉間としては貶しているわけでもなかった。仮に百人に聞かせたら八十人は貶していると判断する感想だが、口に出したことがないので問題にはならないだろう。

 変なベンチャー企業の社長か?というのは扉間の柱間に対する第一印象である。繰り返しになるが、明らかに貶している側に入る言葉なのだが、悪口のつもりは扉間にはない。ただ、無駄にポジティブで自分の人生の中で関わり合いになることはないタイプだな、がそういう出力になっただけで。

 別に扉間は二人のことが嫌いというわけではない。むしろ好きの範疇に入っているのだが、それはそれとして、第一印象は上記の通りであったし、何故自分に構うんだという気持ちは未だに拭えていない。扉間は一回もプレイをしたことがないが、世の中には乙女ゲームというものが存在している。現在の扉間の気分は伝聞でしか知らない乙女ゲームなるものの主人公の気分だった。扉間自身にそういう願望があるのならそれなりに現状を楽しめたかもしれないが、扉間という男は恋愛よりも学術書と論文を好む。つまり、需要と供給が一致していなかった。

「ねぇ、私にマダラさん譲ってよ」

「頼んだ。よろしく頼むぞ!」

人生で三回目になる女子からの譲ってほしいという発言に扉間が勢いよく譲渡を宣言し、その場を去った。後は野となれ山となれ。結果は薄々察しているが、今度の女子は上手くやってくれるかもしれないという淡い期待を扉間は抱いていた。猛ダッシュで大学内でも人気の多い所に戻った扉間の肩を誰かが叩いた。友人かと思って扉間が振り向く。柱間の笑顔を見た扉間が無言で前を向いて歩き出す。当然の権利と言わんばかりに隣に並んできたが。

「無言はひどいんぞ??」

「人違いではないでしょうか?」

「他人の振りはやめろ」

「いや、本当に毎日オレに会いに来て何がしたいんです?」

足を止めず扉間が柱間に問いかけた。扉間の質問に柱間が、大切な相手に会いに来ては駄目か?と無駄に爽やかに答える。駄目と言って聞く相手ではないことを知っている扉間があてつけの溜息を吐く。一介の大学生に金持ち二人が会いに来るという時点で大分迷惑だが、もっと迷惑なのは真剣に交際を求めているということだった。いっそ遊びなら扉間もやけくそで頷いたかもしれない。だが、不本意ながら交流している間に、二人とも本気だということが扉間には分かってしまった。

「オレは扉間じゃないといけない」

「気のせいでしょう。人間、何とかなりますよ」

「何とかならん。扉間」

柱間が扉間の白い手首を砕きかねない強さで掴んだ。柱間の狂気の滲む瞳を扉間が敢えて無視して、痛いです、と少し困ったような声を出した。それに正気に戻った柱間が手を離す。扉間の腕に若干赤い跡が残っていた。

「すまん、痛かっただろう」

「いえ、お気になさらず」

「敬語じゃなくて良い」

「柱間」

口から出そうになっていた言葉がマダラの乱入によって引っ込み、扉間は胸を撫でおろした。勝手に二人喧嘩していればいいと扉間が踵を返そうとしたのをマダラが腕を掴み阻む。

「女を嗾けてまでオレを避けたいのか?扉間」

「さぁ?少なくとも嗾けたことはないですね。何故かオレに許可を取りにくる女性は居ますが」

「女どもに言っとけ、お前らには興味ねぇって」

「自分で言ってください」

「腕を離せ、マダラ」

「お前のもんじゃねぇだろ。柱間」

喧嘩をしかねない雰囲気の二人に扉間が心の中で深い溜息を吐いた。二人が異常に構うせいで扉間は前世の記憶なるものを思い出していたが、記憶の中の二人はこんなに仲が悪くなかった。それに、前世は二人とも扉間という存在に執着などしていなかった。嫌われているという意味ではマダラに執着されていたが、恋愛感情に発展するような出来事は一切ないと扉間は断言できる。兄であったらしい柱間も兄弟以上の仲など存在していない。

「お前だけには渡さん」

「こっちの台詞だ」

前世で親友だったからといって今も仲良くなどと扉間も言うつもりはないが、自分への執着の原因が前世の記憶由来ならこんなにも二人の仲が悪いのはおかしい。何か二人の間で致命的なすれ違いが起こっているとしか扉間は思えなかった。そもそも、二人に前世の記憶があるというのも扉間の仮定でしかないので答えは藪の中だが。

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