超親友な宿儺と脹相(前世)
がらがらと辺りに瓦礫が崩れる音が鳴り響く。
二対有る眼と、口を喜色に歪ませながらその音に耳を傾けていると、一際大きくがらんと音が鳴り、視界の端で瓦礫が持ち上がり崩れた。
音の主は、大層不機嫌な様子で云う。
「巻き込んでいるが?」
それに対し、正に開豁、と嗤って返す。
「貴様ならこの程度死なんだろう?」
それに釣られたのか、ふっ、と小首を傾げ目を閉じて口端を上げる何時もの笑い方で云う。
「それもそうだな。」
しかしその後すぐにじとりと据わった目で、
「だが、痛いものは痛いぞ。」
と半ば千切れかけた腕を持ち上げ、引き千切って寄越してくる。
「ほら、丁度良いから喰え。」
「ケヒッ、気が利くな。」
断る理由は無い上、こいつの腕は中々に美味いので、有難く頂く。
腕を喰っている間、腕を治してやる。
「ふっ、お前こそ気が利くな。」
また、あの笑い方をする。
余計な色や熱を含まないそれが、存外心地よいのだと、気付いたのはいつ頃だったろうか。
異形の己を恐れる事も畏れる事も無くただ気が向いた時に、機が合った時に共にいる存在。
これを、友と言わずしてなんと言うのか。
決して口にすることは無いが、互いにそう思い合っているだろう確信が有る。
思案に耽りながら腕を喰らっていると、不意に声をかけられる。
「美味そうに喰うな。」
「お前の血は喉越しが良い。」
そう言うと、きょとりと首を傾げる。見た目と年嵩に似合わぬ幼い仕草だ。
「喉越し……?」
「粘着かず水のように呑みやすい。」
「ああ、赤血操術にはその方が使いやすいからな。」
「有難い事だな。」
そう云えば、滅多に声を出して笑わない男が声を立てて笑う。
「ふはっ、はははっ、お前は本当に面白いな。退屈しない。」
「ヒヒッ、それは、お互い様だ。」
二人分の笑い声が、瓦礫だらけの地面から突き抜けるような青空に昇って行った。