走れクソガキ
ローは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の大目付を除かなければならぬと決意した。ローには政治がわからぬ。ローは、海賊団の船長である。人体を切り、白熊と遊んで暮して来た。けれども記憶喪失になって生きていたという恩人に対しては、人一倍に敏感であった。
きょう未明ローは拠点を出発し、海を越え沖越え、十里はなれた此の海軍基地にやって来た。ローには父も、母も無い。女房も無い。妹もない。でも船員はいる。このローは、島の或る律気な一准将を、近々、船員として迎える事になっていた。問答無用で間近なのである。ローは、それゆえ、恩人用のツナギやら祝宴の御馳走やらを買って、はるばる海軍基地にやって来たのだ。
「いや本人の了承は得ろよ」
「おどろいた。コラさんは乱心か」
「当然のことだと思うが??」