赤髪海賊団

赤髪海賊団


やっと会える。そう考えると進む脚が速くなる。強くなる雨脚の中森を駆ける。

どんな顔になってるだろうか。

どんな姿になってるだろうか。

昔、ある約束をした友人の顔と何よりも大切な娘の顔を思い浮かべる。彼らの活躍は新聞で飽きる程みた。その顔も、今置かれている状況も。彼らが活躍する為に宴をしたものだ。

もうすぐ…もうすぐで

「ルフィ…ウタ…」

息が辛くなるのも気にならない。今1番辛いのは彼らの筈だ。何度も、何度も繰り返し考えた。再開した時に駆ける言葉のパターンはゆうに100を超えた。

なんて話そうか。

どんな行動をしようか。

まず抱きしめてやろう。その後に今までの思い出を書いてやるんだ。彼らがしてきた冒険の話を。彼女が作った歌を。

「止まって…止まってよ…」

「大丈夫だウタ…大丈夫だから」

森の間にすっぽり抜けた空白地帯に彼らは居た。数多の海賊達の死骸に囲まれながら、ウタはルフィの腕の傷に必死に布を押し当てる。

「ウタ!ルフィ!」

思わず声が出る。顔を上げたウタの表情が憎悪に歪む。彼女は恐らく、まだ真実を知らないのだろう。だが、恨まれていても良い。無事でいる事が1番だ。

駆け寄り手を伸ばす。

「今まですまなかったルフィ。だが、もう大丈夫だ。」

「触るな!!」

伸ばした手は無常にもルフィ自身の手によって弾かれた。憎悪と嫌悪の声と共に。思考が凍り付く。重ねたシュミレーションが全て崩れ去っていく。

こうなる事も予想出来てた筈だ。その為のシュミレーションも考えた。ありとあらゆる状況を想定していた。だが、実際にその状況に立てば仮定など意味は無いと痛感する。

「ルフィ…」

現状を受け入れられず、思わず手を伸ばしてしまう。

「触るなって…行ってんだろうが!!」

帰って来たのは無常な拒絶と嵐の如き覇王色の覇気。その目は疑心に囚われ、その奥に強い狂気をはらんでいた。

「だが、その傷では…」

「そう言ってお前らも俺たちを利用する気なんだろ!答えろよ!赤髪のシャンクス!!」

『シャンクス!俺も船に乗せてくれよ!』

こちらに憎悪を向けるルフィの顔に幼い彼の顔が重なる。幼かった彼の顔は精悍な顔付きへと変わり、その目の下には隈がこびりついている。12年という歳月が確かに間に横たわっているのを感じる。

「そんな訳ないだろ…俺たちはお前らの為に何度も…何度も…」

「信用できる訳ないだろ!」

怯えるウタを抱きしめ、ルフィはこちらを睨み続ける。ただこちらを拒絶し、取りつく島もない彼らの様子に心が締め付けられる。

それでもまだルフィがそれを被って居たからこそ、何とかなると思っていた。大切な、約束の証だからこそ。

「もう、おれ達に関わらないでくれ!」

ルフィは麦わら帽子を脱ぎ、雨でぬかるんだ地面へと叩きつける。そして、容赦なくその帽子を踏みつけた。

自身だけでなく、それを見ていた赤髪海賊団の面々の殆どがその表情を強張らせる。その行為の意味を知っていたから。それがお互いとってどれだけ大切な物か分かっていたから。

それは間違いなく決別の証だった。

◇◇◇

降りしきる雨の中赤髪海賊団の面々はただ悲痛な顔で下を向いていた。変わってしまった友人と娘を思い、変わってしまった現状に困惑しながら。

誰1人として去りゆく彼らを追う事は出来なかった。

「おれは…どうすれば良かったんだ…何処で間違えたんだ…」

涙ながらに話すシャンクスに言葉を返せる物は居なかった。普段頼りになる副船長のベックマンでさえ、その顔に影を落とし俯いている。

その中で1人だけ、新参故に動けた男がいた。その男は地面に落ち、泥まみれになった麦わら帽子を拾って話し出す。

「お頭達は何も間違ってないと思ってんすがね。」

「世辞ならよせロックスター…新参者のお前に分かるわけ無いだろ…」

その言葉にシャンクスは強く否定を示す。普段彼が使わないであろう怒気が篭った強い言葉に、ロックスターは怯まずに言い返す。

「確かにわからないことは多いんすがね、それでも確かに分かる事もあると思ってんすがね。」

シャンクスの前に差し出されたのは泥に塗れた麦わら帽子。傷だらけで血と汗さえ染み込んだそれは、それでも確かに大切にされて来たのだと感じさせた。

何度も手直しされた後からは、直した人間の真心が感じられた。

所々の劣化からは、使い手の愛情が感じられた。

先程踏みつけられた跡からは、酷い葛藤が感じられた。

それその物が確かに彼らとの縁が切れてない証であった。

「お嬢もルフィ君もきっと、まだ心のどこかでお頭達の事を信じてると思ってんすがね…」

差し出された麦わら帽子をシャンクスは抱きしめ、涙する。

まだ諦めるには早かった。

まだ彼らとは繋がっていた。

シャンクスは、かつてこの帽子を譲った船長を思い出し確かに繋がるその縁に感謝した。

雨が上がる。雲の間から光がさす。そこに居たのはかつて被って居た帽子を被り直したシャンクスと赤髪海賊団の面々。

「急いであいつらを保護する。おれ達の大切な親友と娘だ。野郎ども!気合い入れろ!!」

赤髪海賊団大頭、赤髪のシャンクスの号令を気に彼らは動き出す。彼らに出来る事をする為に。

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