"赤髪が導く終焉(フィナーレ)"

"赤髪が導く終焉(フィナーレ)"


───────自分が消えることで魔王を、なにより己の罪を消し去り、受け入れられない現実から逃げようとしたウタ。しかしエースやサボ、ルフィとその仲間達との冒険の日々の記憶がそれを拒む。そんな気の迷いにより生まれた僅かな数秒によりウタの運命は大きく動き出す…………



早朝から降り続けていた雨が、そして父親に縋りつき泣き喚いていた娘の涙が止む。父と娘、両者の頬に伝うのは雨か涙か。ともかく、ようやく胸の中にいる愛娘が落ち着いたのを確認したシャンクスはゆっくりと話しかける。


「さて、ウタ…そろそろ落ち着いたか?」

「うん…ありがとうシャンクス……」

「よせ…礼なんかするな」


それよりも何故エレジアにウタがいるのか。ルフィが海軍本部で暴れていたことも相まってシャンクスの中には疑問ばかりが浮かんだ。だがその理由をウタに問うとすぐルフィに会ったのかと逆に聞かれた。


「いや、会ってない…あそこで会ったら約束が違うからな……だがまぁあいつのことだ。相当深手を負わされただろうがきっと立ち直る。あいつは強い男だ…それはお前も分かってるだろう?」

「うん…うん…!そうだよね…!!ルフィだもんね…!!!あ、そうだ…なんで私がここにいるのか、だったよね?えっと、順を追って話すね…まずは……」


​───────​───────


「まったく!そんなことがあったとは知らなかった!!これならマリンフォードであのくまにだけでも"落とし前"をつけてくるべきだった!!!」


あっけらかんとしたシャンクスの反応にウタはちょっと待ってと止めようとするが、ベックマンがそれを遮るように話す。


「シャボンディと言やァ…黄猿が来たんだって?あのビーム野郎……一発ぶち込んでやればよかったか」

「そりゃいい!!俺も一発、眉間にでもぶち込んじまえばよかったなァ!!」

『ギャハハハハ!!!』


さっきまであんなにかっこいいなあと思ってた赤髪海賊団のみんなが昔と変わらずくだらない冗談を言い合って笑ってる。その光景に懐かしさを覚えるのと同時に寂しさを感じた。その正体はもう…分かりきっている。


「ん?どうしたウタ?」

「ごめん……シャンクス…私今、シャンクス達と会えて嬉しいのに、今、嬉しくない………」


嬉しいのに嬉しくない。さっきの会いたくないのに会いたかったも中々矛盾しているけれど、これが本心なのだから仕方ない。なんら嘘偽りのない、"私"の想い。


「私、シャンクスに会うために海に出たの。ルフィ達と一緒に、立派な海賊になって……それからまた赤髪海賊団の"音楽家"になるために旅してきたの……なのに………こうして笑いあってるみんなを見てると…………」

「そうか……思い出すか……仲間たちのことを」

「うん……"赤髪海賊団"のみんなと会えて嬉しいのに……今は………"麦わらの一味"のみんなと………なにより…………ル゙ブィ゙の゙傍゙に゙居゙だい゙!!!……会いたいよぅ……ルフィ……」


仲間とはぐれ、エースを失って今のルフィはきっと身体も心もボロボロだ。私もエースを失って辛いけど、ルフィはもっと辛いに決まってる。あいつ、ああ見えて結構寂しがり屋なんだから。そう考えてた矢先、シャンクスが懐を探り出した。


「…………そうか……会いたいか……ルフィに。なら会わせてやろう」

「え!?ルフィに!!?会えるの!?」

「ああ、俺のとっておきだ!!……これを見ろ!!」バサァ!!


………新聞?日付を見るに今朝のものだと分かるけど、これが…とっておき…?


「いやァ今朝こいつを見た時は度肝を抜かされた!!ほら見ろここ!あいつ、こんな似合わねェことして!!」


ハァ……とっておきっていうから何がくるかと思ったら新聞って……さっきまであんなに頼りがいのある"大頭"だと思ってたのに……でも、変わってないんだね、昔から。そういう子どもっぽいところ。


「全くもう…何かと思ったら新聞って……あ、でもほんとにいる!ルフィ!!生きてた…!!……何やってるのコレ?」


新聞に書いてあった内容は確かに度肝を抜かされるような内容だった。


《海賊"麦わらのルフィ"『マリンフォードで新時代への16点鐘・戦死した者たちへの追悼の花束』……》


「16点鐘と言えば海兵の習わしだ……それに追悼の花束とは…ルフィらしくない行動だ……お前の話を聞くに、この行動は同行してるレイリーさんの提案だとは思うが……意図が読めん。ウタ、お前には分かるか?」

「う〜ん……なんだろう…?」


確かにこれはルフィらしくない……なにか引っかかる………あ!


「ん?なにか分かったのか?」

「ふふ!あははは!!そっか!そっか!!分かったよルフィ!!!」


全くもう!人の気も知らないで勝手なんだから!!


「ん〜?なにが分かるんだこれでェ??」

「シャンクスには分かんないよ!これは…ルフィが私たちだけに向けたメッセージ!!」


エースを失って辛かったろうに、もう立ち直ったんだね…ルフィ……………よし!私も覚悟を決めて、前に進まなきゃ!!


「シャンクス!!それから"赤髪海賊団"のみんな!!!今日は本当にありがとう!!みんなが来てくれなかったら私、今頃すっごい後悔してたと思う!!だからこれからは、悔いが残らないよう自分の気持ちに正直に、精一杯生きていく!!!」


そうだ!"私"は"私"!!他の誰でもない自分の人生を生きていくんだ!!!


「だから私、決めたよ!!!……今日をもって赤髪海賊団の"音楽家"…辞めさせてもらいます!!!

『えええええぇえええええ!!!!?』

「お、おいウタ!?どういうことだよウチを辞めるって!!?」

「そうだぞウタ!!赤髪海賊団の"音楽家"を辞めるって…!お前、海賊辞めちまうのか!!?」


動揺を隠しきれない赤髪海賊団の古参メンバー達。そんな連中をみて副船長はやれやれと嗜める。


「……どうもこうも、当然の帰結なんじゃねェのか?ルフィの傍にいたいってことはそういうことだろ…」

「うん、その通りだよベックマン!」


ずっと考えてきたことではあったけど、いつからそう考えていたのかはもう覚えていない。けれどルフィ達と色んな冒険をして、航海して、共に笑いあって…自分の心が何処にあるのかはもう、明白だった。


「赤髪海賊団の"音楽家"を辞めて私は…"麦わらの一味"の……"歌姫"になる!!!音楽家はもう別にいるからね」

「そうか……ウチを辞めて正式に"麦わらの一味"へ……」


…寂しくないと言えば嘘になる。おれに会うために海に出たと聞いたときはそりゃあ嬉しかったが、それを聞いたときにはおれ達の娘の心が何処にあるのかは痛いほど分かってしまった。だが、こんなにも嬉しいものだとはな……娘の成長というものが。…ここは親としてしてやれることは一つだろう。


「……構わないぞおれは。ルフィなら………お前のことを託せる」

「シャンクス……ありがとう……こんなワガママ、許してくれて……」



しんみりとした雰囲気がアリーナの升席を埋めつくした頃、升席下の階段を駆け上がる音と探し人の名前を叫ぶ声が聞こえた。


「ウター!!!どこだー!!!返事をしてくれー!!!ウター!!!あ!いた!!ウタ!!!それに、赤髪海賊団!!?なぜここに!?」

「あ、ゴードン」


そういえば、書き置きを置いて出ていってそれっきりだった。シャンクス達と会えたことが嬉しすぎて、今の今まですっかり忘れていた。ごめん忘れてた!と舌を出しながら陽気に返してみせた。

「忘れないでくれたまえ!!?ああでも…よかった……!元気になってくれて……もうほんとうに……どうしようかと……うぅ、すまない……私が及ばないばかりに君に負担を強いてしまった……すまない……私は本当にどうしようもない……」

「ちょっとそんなに謝り倒さないでよ!?」


一人で勝手に落ち込んでた私が悪いのに。…でも、私歪んでるのかな。私のことでたった一人の音楽の先生がこんなにも涙も鼻水も垂れ流して心配してくれているのが嬉しくてたまらない。


「ねぇゴードン、あれからずっと塞ぎ込んでいた私を、いつも元気づけようとしてくれてありがとう……貴方の手料理や励ましがなければ今日まで生きてはいられなかった……本当にありがとう!」

「!!!!ウゥッ……ウタ……!!こちらこそ……君がこうして生きていてくれるだけで……わたひは……!!」


先程までウタとシャンクス、親子のやり取りにより彩られた雰囲気がゴードンの登場により完全に塗り替えられた矢先、シャンクスがその空気を割って入る形でゴードンへ歩み寄る。

……大人げないです。シャンクスは。


「割って入ってすまないが…久しいな、ゴードンさん」

「ッ…グス……シャンクスか……なぜここへ……君はあの"頂上戦争"を止めて"新世界"へ戻ったのでは…?」


頂上戦争を止め、白ひげとエースを新世界で埋葬した赤髪海賊団がなぜここにいるのか。この島の責任者として当然の反応だ。シャンクスが言うには、エレジア近海にて用事が出来たらしくここを拠点に航海をするつもりのようだ。エレジアが赤髪海賊団のシンボルにより守られている上、自分のたった一人の教え子を救ってくれた男の願いを断る理由はない。


「承知した…それで用事というのは…」

「まァ待ってくれ…そういう話は後にしよう……それよりも今は……!野郎ども!!俺たちの娘の、赤髪海賊団の"音楽家"の門出を祝って…

宴だァー!!!」

『うぉぉおおおおおおおぉ!!!』


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ドンチャン!! ドンチャン!!

赤髪海賊団とエレジアに住む人々による宴が催される中、シャンクスはルフィからのメッセージ、『3D2Y』についての解説をウタから受けていた。


「そういうメッセージだったのか…2年後にシャボンディへ……そして新世界へ来るのか……」


確かに、ウタの話を聞くに今のルフィ達の実力じゃ新世界には遠く及ばないだろう。レイリーさんの差し金なのだろうが悪くない判断だ……そうなると、おれの取るべき判断はこれしかないだろう。


「なァウタ、俺から一つ提案があるんだが…」

「提案…なに?」

「この2年、恐らくは修行期間ということになるだろう。各個に成長を遂げ新世界へ飛び込む。だがそうなった時にもしお前がまた"魔王"に取り込まれれば、その対処は成長したルフィ達でも厳しいものになるだろう」


痛いところを突かれる。そういえば、前へ進んで生きていこうと決めただけで私が"魔王"に取り込まれるかもしれないという現状は何一つ変わってないんだった。


「そこでだ!お前さえ良ければおれ達が鍛えてやる!!戦闘技術はもちろん、"魔王"に取り込まれないよう気を強く持つこと…もう二度とあんな惨劇を繰り返させない強い心と身体を持つんだ!!どうだ?悪くない話だと思うんだが」


確かに…!自分を強く持って"魔王"に取り込まれないようにすればルフィ達と一緒にまた冒険できる!そのまま一緒に"新時代"を作ることだって……あれ?でもそれって……


「…でもいいの?私、ルフィのことを海賊王にしようとするんだよ?いつかは敵対するのにそれを鍛えるだなんて…」

「アホ言え!!お前らみたいなガキがどれだけ鍛えたところでおれ達に勝てるか!!!」

「なにをー!?じゃあいいよ!!2年後にはシャンクス達を倒せるくらい強くなってやる!!!」

「やってみろ!!ガキンチョが!!!」だっはっはっは!!!



口ではそう言って……私たちのことを本気で心配してくれてるんだよね……ありがとう、シャンクス…………

ねぇルフィ、私強くなるよ……もう"魔王"にも、どんな敵にだって負けない……必ず会おうね……


2年後に!!!シャボンディ諸島で!!!

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