責任とれよ
いつの間にか、孤独が嫌いになったらしい。……お前の所為で。背中が温かいような気がして扉間は目を覚ました。チラリと後ろを見ると背中にはマダラが居た。恋人で鍵も渡している以上家に居ること自体は別におかしなことではない。だが、こうやってマダラが扉間の家にやってくることは今日が初めてだ。何か嫌なことでもあったのかと扉間はマダラの方に身体を向けた。
「悪い。起こしたか」
「どうせもう起きる時間だ。気にするな」
「もう起きんのか?」
「ああ」
ベッドから抜け出そうとする扉間をマダラが抱き締めた。出て行ってほしくないのならそう言えば良いのにと思いながらも扉間はその腕に逆らわず大人しくベッドに身を預ける。マダラは何か言いたげな顔をしながらも何も言わない。言いたいタイミングになったら言うだろう、と扉間はマダラの言葉を待った。五分か十分。決して短くはない時間二人は黙っていた。
「なぁ」
「どうした?」
「オレと別れる、なんて言わねぇよな」
「今のところそんな予定はないが?」
貴様が別れたいのなら別だが、と言う扉間にマダラの腕の力が強まる。マダラが、絶対別れてやらねぇからな、と地を這うような低音で言う。別れ話に発展しそうな喧嘩をしたことすらないのにと扉間が苦笑する。扉間の苦笑に、何を笑ってんだ、とマダラの腕が強まった。
「まて、折れる。死ぬ。オレを殺す気か?」
「お前と別れるくらいなら心中してやる」
「そんな話一切してないだろう!!落ち着け!!!」
それでも尚しがみつくマダラの額に駄目元で扉間がキスをする。マダラが少し大人しくなったのを幸いと扉間が腕から抜け出そうとする。ベッドから完全に抜け出るよりマダラの腕が扉間の腰を掴む方が早かったが。腰を掴まれた扉間が離せとマダラの手を叩きながら抗議をする。
「どうせ休日だろ。そんなにオレと居るのが嫌か?」
「生活リズムを崩したくない。それにベッドから出て行くくらいで今生の別れのような反応をするな!」
「ちょっとくらいオレを優先しろよ」
「……ちょっとだけだぞ」
扉間が渋々と言った様子でベッドに戻る。戻ってきた扉間を全身で包むように抱き締めマダラが息を吐いた。もぞもぞと動き向かい合わせになった扉間がマダラの頭を抱き締める。まるで、子どもにするように優しく。
「落ち着いたか?」
「キス」
「はっ?」
「キスしてくれ」
唐突なマダラのキスの強要に扉間が困惑した表情になる。一分ほど逡巡した後、扉間はマダラの額にキスをした。そうじゃなくて、とマダラは自らの唇を指す。仕方ないと扉間がマダラの唇に己の唇を触れさせた。待っていたと言わんばかりに、マダラは扉間の後頭部を抑え己の舌を口内に入れる。いつになく執拗に扉間の唇を貪ったにも関わらず、マダラは物足りなそうに色の薄い恋人の唇を甘噛みをしていた。
「朝からしつこいぞ」
「ちゃんと我慢してるだろうが」
「そう言いながら服に手を入れるな」
「オレとするの嫌か?」
「……嫌じゃない」
耳を赤くしながらそう答えた扉間にマダラは噛みつくようにキスをした。マダラが嫌と答えても好きだというまで抱くつもりだったということは扉間は知らない。
連絡先をとうの昔に消した元カノに絡まれた。私とやり直す気はない、と言う女にないから別れたんだろ、と返す。酷い、私があれだけ、と言い募ろうとする女にオレは意外と退屈でつまんないんだろ、と別れる前に言われたことをそのまま言う。流石にそう言われて追い縋る気にはなれなかった女がアンタみたいな男、誰とも付き合えないわよ、と言った。扉間と付き合う前だったら、単なる捨て台詞だと無視が出来ただろうその言葉。
ここ数日扉間と会っていなかった。単に忙しいとは知っている。つもりだ。数日会わないだけで寂しいなんて。ああ、自分に会いたいと言った女を鬱陶しいと思っていたツケが回って来たのだろうか。扉間の家の鍵は持っていた。けれども、使っていいものか分からず日が暮れるまで眺めていた。
結局決心が付いたのは翌日の早朝になってからだった。起こさないように鍵を開け家の中に入った。忙しいと言っていたわりには家が綺麗だなと思った。そもそも、汚すような生活をしてないじゃないか、と首を振る。足音を忍ばせて、扉間が寝ているであろう寝室に足を踏み入れた。よく寝ている。顔を見たらマシになると思っていた孤独がオレの心を支配した。どうにか、埋まらないだろうか、とベッドに忍び込み扉間を後ろから抱き締めた。ああ、扉間の匂いだ、と思った。