貝原亮介の年末事情
「じゃあ来年もよろしく!良いお年を!!」
「「「「来年もよろしくお願いしまーす」」」」
12/29
今日は仕事納め。ベビーシッター業は不定休のシフト制だが、基本的に12/30〜1/3は休みだ。
今日は友人と飲む約束をしているので同僚と上司に挨拶そこそこに早めに退社。
店はこちらの懐事情に合わせてもらい安いチェーン居酒屋に待ち合わせをしている。
年末年始は出費が多い、という側面もあるし。
「やあ亮介くん。直接会うのは半年振りかな?」
「そうなるか。改めて久しぶり、ヒカル。ルビーちゃん達のライブ観に行かしてて貰ってるよ」
約束の店には友人、カミキヒカルがにこやかに笑みを浮かべ俺を待っていた。
「「乾杯!!」」
ビールの入ったグラスを2人で打ち鳴らす。
ヒカルとは学生の時に出会って2年後に再会してからは時たま会って飲んだりしていた。
芸能関係で働いている彼と不定休な俺とは中々会える時間を作るのが難しく、年に2、3回飲みに行くぐらいだ。
「最近どうよ?ルビーちゃん達は売れて、アクアくんも話題になって鼻高々じゃないか?」
「嬉しくもあり、心配もあり、な感じかな。輝かしい世界に見えるけど光が当たらないところは見るのも聞くのも悍ましい世界だからね。
大人として守らなきゃいけない、て常日頃目を光らせてるよ」
「へー…やっぱりあるんだな…怖っ」
軽い気持ちで聞いたら実録芸能界の闇を垣間見た。
知っている子ども達なだけ心配になる。
父親のこいつが目を光らしているみたいだが大丈夫なのだろうか?
「心配してくれてありがとう。まあ義父の繋がりが強いから睨み利かせてる感じだね。後は僕自身無駄に業界に居続けた訳じゃないし。
ここだけの話、アイを狙ってた人とか結構居たからね?大変だったよ」
「やっぱり?可愛いもんな。今でも推してるぜ俺」
星の砂渡したことあったし。今でも大事にしてくれている、と聞いて嬉しかったが。
「ありがとう。アイにも言っておくよ
…物理的にずっとアイの側をマークしていたからね。アイは賢いから大丈夫だったかもしれないけど、悪い人は本当に狡猾だからさ」
「あー確かに。子どもとか未成年狙う手口とか優しさ見せて信頼させてから、とかザラだしな。仕事柄よくわかるよ」
グルーミングという手口で子どもの純真さに漬け込み、信頼を裏切っても裏切られた子どもは今まで優しくされた積み重ねから身体と心を傷つけられても逃げられなくする手法だ。
1番卑劣で外道な方法で反吐が出る。
「アイにはその方法で、逆にお邪魔虫な僕にはアイから引き離そうとするんだよ。綺麗な女の人使って。その間にアイと僕を引き離そうとしたりさ」
「マジで⁈怖っ…てか美人あてがわれんのかよお前。羨ましい」
「羨ましい、て君は言うけど僕自分より歳上の女性は綺麗でも怖いよ普通に。ベタベタ接してくるのとか恐怖でしかない」
吐き捨てる様に言い放ち、勢いよくビールを煽るヒカル。
…こいつに明かされた過去聞いてるから迂闊な返答だったかもしれない。
「悪い。迂闊だったな…どうやって切り抜けたんだ?大変だろ、上手くカド立たない様にするのは」
「こっちこそごめん。神経質だった。
んー…アイが未成年の頃は義父さん…社長が一緒に居てくれたから助けてくれてたよ、僕とアイをね。
だから無事というか何というか…
18ぐらいになると上手くかわせる様になったよ、
『失礼、次の現場があるので』とか『〜さんと打ち合わせが』みたいなさ。アイもそんな感じ」
「やっぱり慣れなんだなぁ…てか、ハニトラとか普通にあんだな。怖いわ」
芸能界の闇、怖過ぎる。
「そうだよ?最近はさー、歳下の子達が来るんだよね…僕に」
「?ほう。歳下か。まあ、トラウマ刺激され無いから相手も学んだのかな。狡猾過ぎるな」
「そうだよ。アイのマネージャーとして現場入りするでしょ?僕にアピールしてくる駆け出しの女優やアイドルが来るんだ…超ベタベタと」
「何それ羨ましい(マジか。絵に描いたようなハニトラだな)」
「セリフと表情逆転してるね」
おっと失礼。しかし、一介のマネージャーなコイツを籠絡して何の旨味が…ユスリタカリの材料か?よく分からない。しかし、コイツ面良いから女に苦労しない星の下で生まれてんな。羨ましい。
そのクセ、愛妻家なのが偉いが。
「同じ現場ならアイは凄い怖いんじゃないか?仲良いもんなお前達」
「笑顔だけど目が笑ってないね…滅茶苦茶怖い。家に帰るまでが本当に怖い。
最近はアイの後輩にあたる女優さんのスキンシップが激しくてさ…
アイの目が本当に笑ってない。超怖い」
ガタガタブルブルと震え出したヒカル。
え?俺の推しにそんなに嫉妬されてんの?
羨ましいなぁコイツ。
けど深掘りやめておこう。聞いたら何かダメージくらいそう。夜の話とかされたら崩れ落ちる気しかしない。
「まあ…美人で可愛い嫁に男前と美少女な娘いても悩みてあるものなんだな」
「そう、側から聞くと僕って凄い幸せものだよね。自慢話になってない?大丈夫?」
「安心しろ。おまえの悩みは割と最初から贅沢な自慢話だから」
「えー?真面目な悩みだよ?」
夜も更けていく。こうして俺の年末は過ぎて行った。
「ところで亮介くん、良い人いないの?」
「居たらおまえと遅くまで飲んでねーよ」
人並みに誰かと付き合いたい、な願望はあるさ。