象十万頭分の 3

象十万頭分の 3


何度かソウルイーターとの交戦と休憩を挟みつつ、日付を跨ぐギリギリで一行はハスティナープラの宮殿に辿り着いた。

「無理をさせたな。しっかり休ませてやってくれ」

「はい」

電池が切れたかよのうにぐっすり眠っているドゥリーヨダナとユユツを抱えたドリタラーシュトラが御者に声をかけ、御者は出迎えに出てきた者たちとともに馬車を片付けに引いていった。

「兄様」

「パーンドゥ。一体どうなっている」

宮殿の中から急いだ様子で現れた男は、名前のとおりドリタラーシュトラやヴィドラよりも少し浅い肌の色をしていた。

「それが……そちらの者たちは?」

口を開きかけたパーンドゥだったが、ドリタラーシュトラの背後に立っていたカルデア一行に気づいて口を閉ざす。

「親父殿の客人だ。部屋を用意してくれるか。部屋は……分けたほうが?」

マシュを見てから(最年長に見える)ヴラド三世に視線を移すドリタラーシュトラにヴラド三世が首を横に振って答えた。

「では、とりあえず一部屋用意してくれ」

「はっ」

パーンドゥに従って来ていた従者の一人にそう声をかけたドリタラーシュトラとヴィドラ、カルデア一行を交互に見てから、パーンドゥは最終的にヴィヤーサへと視線を向けた。

「親父様、どういうことです?」

「さてねぇ。私も全部はわかっていないから。でも彼等が私の客人であり、この事態の解決策を探す為に我々に助力してくれることは保証するよ」

にこにこと笑ったヴィヤーサは少し体をずらしてパーンドゥの奥を見る。

「だからね。双方、武器を下ろしなさい」

「え!?」

藤丸とマシュが驚いて振り返ると賢王とヴラド三世、ロビンフッドが武器を構えていた。なんで?と首を傾げ、笑ったままのヴィヤーサが指差すほうを見ると弓を構えた壮年の男が立っていた。

「ビーシュマ、二度は言わないよ。君たちも今の私と喧嘩はしたくないだろう?」

笑みを湛えたまま壮年の男を見たヴィヤーサが振り返って賢王たちにも視線をやる。サーヴァントの身で生きているヴィヤーサに挑むことは大凡正気の沙汰ではないだろう。

「ま、生きてる仙人に挑むのは蛮行っすよね」

ロビンフッドがため息を吐きながら武器を消すと賢王とヴラド三世も続く。素直に従う様子にパーンドゥたちは驚いたようだが、三人が完全に武器を消すのを待ってからビーシュマと呼ばれた壮年の男はようやく武器を下ろした。

「先輩、ビーシュマさんというと」

「ヨダナたちの大伯父さんだよね」

マシュとこそこそと言葉を交わす藤丸を見ながら、笑みを深くしたヴィヤーサがビーシュマに顔を向けて肩を竦めると彼は嫌そうに眉を寄せた。

「どうしてお前は聖仙のくせして問題ばかり起こすのだ」

「私が問題を起こしているわけじゃないよ」

厳格ではあるが、まるで弟を叱るような調子が滲むビーシュマに応えるヴィヤーサも随分気安い。

「とりあえず子供らを寝かせに行っても?」

場が落ち着くまで静かにしていたドリタラーシュトラが口を開く。片腕ずつで抱いた子供たちは二人とも、ピリピリとした空気もなんのそのとドリタラーシュトラの肩に頬を乗せて静かに寝息を立てている。

くてーっと脱力し切って寝ている従甥孫に気づいたのかビーシュマがコホンと小さく咳払いをした。

「ああ。……客人方も、不躾を詫びよう。部屋が整い次第休んでくれ。軽い食事を部屋に運ばせる」

「助かる」

礼を述べるヴラド三世にビーシュマが頷くのを待ってからヴィヤーサがパンと小さく手を打つ。

「とりあえず王たちとの話は明日になるだろうし、部屋に行こうか」

「お前は私と来て説明をしろ」

「えー」

「えーじゃない」

ドリタラーシュトラが子供たちを寝かせに行き、ヴィヤーサが半ば無理矢理ビーシュマに引き摺られていってしまったので、どうしたらいいのかと迷っているとヴィドラがこちらだ、と声をかけてきた。

「ヴィヤーサさんは大丈夫ですか?」

「あのお二人は……まあ、兄弟のようなものだからな。お互いに気心が知れているんだ。気にしなくていい。明日の朝には合流できるだろう」

「聖仙とはああも気安いものばかりなのか?」

ヴラド三世が不思議そうにヴィドラに問う。

カルデアにいるヴィヤーサは確かに親しみやすく、たくさんいる小さな孫たちと一緒になって花畑で花冠を作ったり絵本を読んだり、もっとたくさんいる大きな孫たちが作った本を読んだりゲームに興じてみたりと普通の「お祖父ちゃん」ではあるが、ヴィヤーサの後からカルデアに召喚されたマハバ属には一定期間は畏怖を持って接せられている。暫くしたら畏怖が尊敬程度に収まり仲良し祖父孫をしているが、それでもギャン泣きしているヴィヤーサを見るまではある程度の距離を保って接しているのが通常だ。

問われたヴィドラが気まずそうに頬を掻く様が、藤丸には悪戯がバレた子供のように見えた。

「親父様は特別だ。聖仙には格別畏敬を持つのが普通なのだが……その、親父様は兄様がアレなせいで各方面から「生産責任を取れ」とつつかれているらしくて……気軽に顔を出してくれるからつい普通に親子の距離で接してしまう」

アレで通じてしまうのはどうなのだろうなと全員で遠い目をしながら、それでも納得できる。生産責任は確かに聖仙でもなければ取れなさそうだ。

案内された部屋に食事が運ばれてきたところでヴィドラがマシュを見た。

「やはりマシュ嬢の部屋は分けたほうが良かったのでは?」

「ありがとうございます。ですが、こちらで大丈夫です」

「そうか?」

人数分の寝台が用意されているだけでも大変ありがたい、とヴラド三世が語るのに「どんな旅をしてきたのだ?」と不思議がるヴィドラに笑って誤魔化し、顔を覗かせたドリタラーシュトラも一緒になって食事を終える。

「明日、朝食を終えたら王たちと面会する予定だ。君たちも参加してほしい」

「いいんですか?」

いきなり王たちの会議に参加できるとは思っていなかった藤丸が思わず声を上げると、ドリタラーシュトラが頷いた。

「ドルパダ王が文句を言うかもしれんが、親父殿の客人だとゴリ押せる」

「力技ですが、まあいけるでしょう」

それはいけているのか?との疑問を挟まず、ヴラド三世が顎を撫でる。

「その会議、議題は何になるかの検討は?」

「パーンドゥの話では、何かを持って来ていると」

「何か?」

「詳細は不明だが、厄ネタではあろうな。私が帰還するまでは危険すぎて見せられないと言われたそうだ」

肩を竦めるドリタラーシュトラに賢王が首を捻った。

「何故貴様が帰還すれば見せられるのだ?」

「たとえ何が起こったとしても大抵のことなら私が殴ってどうにかできるからじゃないか?」

「それでいいんすか……?」

神々を殴ってどうにかできる男なら、そりゃあ、大抵のことは殴ってどうにかできるだろうが。

「それが呪いである可能性などはないでしょうか?」

小さく挙手したマシュにヴィドラが首を振った。

「ないな」

「断言する根拠は?」

「兄様を呪えるような呪物を持ち歩いていたら普通の人間は半日保たずに死ぬ」

ヴラド三世が心底嫌そうにドリタラーシュトラを見た。

「何処まで突き抜けておるのだ貴様」

「ははは。いや……本当に、何故私はこうなのだろうな?」

「首を傾げんでくださいよ……」

困った様子で傾げた首を摩っていたドリタラーシュトラが立ち上がる。

「実際に見ないまま話し合っていても埒が開くまい。今日は一先ず休もう」

「はい。おやすみなさい」

「おやすみ。朝、湯の用意をさせておくから、入っておくといい。迎えを寄越す」

「ありがとうございます!」

二人が部屋を出ていき、藤丸とマシュはベッドに転ぶ。疲れていたのかすぐに寝入った二人を見ながらロビンフッドが声を潜めて確認する。

「一応、不寝番しますか?」

「軽い警戒程度はしておくか。ヴィヤーサが味方であると断言している我等を狙う身内はいないだろうが、特異点ではあるからな」

「我と狂王の交代で良かろう。貴様には明日以降も御者を任せるやも知れんしな」

「おっ! じゃあお言葉に甘えて」

やりぃ!と静かに喜びを表してベットに潜り込んだロビンフッドを見送り、ヴラド三世は賢王を見る。

「何か見えたか?」

「ドリタラーシュトラが何かを殴り飛ばしているのは見えた」

「……何故適性があったのが余たちなのであろうか……」

「知らん。たぶん藤丸と一緒に遠い目をしながらビックリする係なのだろう」

「その係は必須なのか? ……まあ、王たちとの交渉役だと思って受け入れるか……。先に任せても?」

「構わん」

少し衣擦れの音がしたあと、すぐに寝息が増える。休める時に休むのは大事だと誰にでもなく頷きながら、賢王は視線の焦点を暈す。

なんか見慣れた髑髏烏帽子がドリタラーシュトラにぶん殴られている未来が見えた気がしたが、たぶん気のせいだと思う。思いたい。ただでさえトンチキであるのに、更にトンチキの度合いが増す気がする。

空いたベッドに腰をかけながら賢王は深々とため息を吐いた。

「……もしアレがカルデアのだとしたら、ドリタラーシュトラにやめるように説得しなければならないのか……?」

太陽神を生身で殴り飛ばすような輩を?と頭を抱える。賢王が何度脳内でシミュレートしてみても、今いるメンバーでドリタラーシュトラを止めるのは不可能だった。

ヴィヤーサに手伝わせるのも有りだなと賢王が思考を巡らせているその頃、ヴィヤーサはアムビカーとアムバービカーのおもちゃにされていたので嫌な予感には気づかなかった。




翌朝、湯を使わせてもらってから食事を取り、案内されるままに廊下を進む。

「あ、先輩」

「ん? あ、わぁー……圧巻」

途中、広大な庭園の横を通った時マシュがフジマルの裾を引いた。振り返ってマシュの視線を追った藤丸が見たのは、数々の花々に彩られた庭で遊ぶ幾人もの子供たち。

殆どが紅藤の髪をした少年だが、数人違う色が混ざっていた。

「アルジュナと……あ、ナクラとサハデーヴァもいるね」

駆けっこをしているアルジュナと百王子たちから少し離れた所でナクラとサハデーヴァは百王子のうち二人に花冠を作ってもらっているようだ。別の百王子に花冠の作り方を教わっている子はもしかしたらヴィドラの子かも知れない。他のインド特異点では早々見られそうにない平和な光景に一行は目を和ませた。

「スヨーダナさんたちはいらっしゃらないようです、ね?」

少し詰まったマシュに藤丸が視線を向けると、マシュは足元を見ていた。顔を下げるとまあるいほっぺを濃く染めてキラキラと目を輝かせる少女が一人、マシュの脚にしがみ付いていた。

「おねえちゃん!」

「はじめまして。ドゥフシャラーさんですね?」

「うん!」

大きく頷いたドゥフシャラーは期待いっぱいの目でマシュを見つめる。

「おねえちゃん、お客さま? 遊んでくれる?」

「えっと、私は……」

どうしましょう、と藤丸を見るマシュに賢王が笑う。

「ははは! 我等が騎士を誘うとは目の付け所が良い娘だ! マシュよ、遊んでやるがよい。話は我等だけでも十分だ」

「で、ですが……」

オロオロとするマシュに対して、遊んでもらえそうだと察したドゥフシャラーが目を輝かせて大人たちを見ていた。その輝きを受けてヴラド三世が薄く笑って案内してくれている従者を見る。

「責任者に……この場合はガーンダーリー妃か? まあ、責任者に言付けを頼む。聖仙ヴィヤーサの客の一人が王女と遊んでおるが許してほしいと」

「かしこまりました」

きゃあっと嬉しそうに跳ねるドゥフシャラーを微笑ましく見ていた従者もにこやかに頷いてくれるた。

ドゥフシャラーと手を繋いだマシュが本当に良いのだろうかと賢王を見ると、賢王が笑ってその頭を撫でる。

「こういう時の異常は子供のほうが気づいたりもする。遊びながら話を聞いて、情報収集をしておくがいい」

「! はい! マシュ・キリエライト、頑張ります!」

パッと顔を輝かせて敬礼したマシュを真似して敬礼するドゥフシャラーに、藤丸とロビンフッドがしゃがんで視線を合わせて話しかける。

「マシュをお願いね、ドゥフシャラー」

「うん!」

「仲良くしてやってくださいな」

「まかせて!」

元気に返事をしてマシュの手を握って庭に飛び出していくドゥフシャラーを見送り、改めて会議の為の部屋に向かう。

一際大きく豪華な区画に入ると、見慣れない着飾った老人が待ち構えていた。

「案内ご苦労様」

「はい。では、失礼致します」

「ありがとうございました」

頭を下げる従者を見送ってから老人に顔を向けて藤丸は首を傾げる。

限りなく白に近い白菫色の髪を背に垂らした老人は同色の豊かな髭を蓄えている。垂れた目尻が優しい雰囲気を湛えていた。

「あれ? そっちの私はこの年齢の姿を見せたことがないのかな?」

首を傾げる藤丸たちに逆に首を傾げた老人の言葉に賢王が手を叩く。

「もしや、翁か?」

「ああ」

にこりと笑うヴィヤーサに一行が目を見開いた。カルデアにいるヴィヤーサは基本的に青年の姿であるし、昨日見ていたこちらのヴィヤーサも青年の姿をしていたからだ。

「……そういや、聖仙って普通は髭の老人なんでしたっけ?」

目を丸くしていたロビンフッドがなんとか冷静を取り戻して訊ねるとヴィヤーサが笑って頷く。

「そう。私もこちらが本来の姿だよ。……まあ、こんな風に着飾るのは異例だけどね……ビーシュマが私が来たことをアムビカーたちにバラすから捕まってしまって……」

ぶつぶつと文句を言いながら金銀の装飾を弄り、諦めたようにため息を吐いて飾りから手を離す。

「そっちが本来の姿なら、どうして普段若い姿をしてるの?」

藤丸の質問にヴィヤーサが眉を下げる。

「君たちは私くらいしか会ったことがないだろうからわからないかもだけど、聖仙って、割と怖い人たちなんだよ。あんまり『らしい』見た目をしてたら怖がってみんなに避けられてしまうんだ」

遠い目をして笑ってから、ヴィヤーサが部屋を指差す。

「さ。そろそろ王たちも見えるだろう。ドルパダ王に怒られないよう、先に座っておこう」

部屋に入ろうと背を向けると想定したより長かったヴィヤーサの髪には色とりどりの花が編み込まれていて、白菫色に映えていた。編み終わりには金の髪留めが存在を主張している。

「……遊ばれてるな」

「断ってはいるんだけどね……なんで女性ってこう、飾るのが好きなのかな……しかも断れない圧があるんだよね……私が断るの下手なのかな……」

ヴラド三世の言葉に力無く笑って返すヴィヤーサの顔に疲労が滲む。着せ替え人形にされるのは流石に苦行判定が通らなかったのでヴィヤーサといえど普通に疲れていた。

ちなみにだがヴィヤーサが断るのが下手なわけではなく、クル国の女性陣が強いだけである。

部屋に入ると、大きなラグが3つ敷かれていて、その上にクッションがたくさん準備してあった。入って正面のラグにはドリタラーシュトラが座っていて、その両脇にパーンドゥとビーシュマ、ビーシュマの後ろにヴィドラが控えていた。

庭に姿が無かったドゥリーヨダナとユユツ、ユディシュティラとビーマもそこにいて、それぞれ父親の両サイドに引っ付いている。

ドリタラーシュトラが手を上げるのに軽く頭を下げ、手を振るドゥリーヨダナとユユツに手を振り返して一団の後方、少し高い位置に設置されていたラグに座ると、陰になっていてわからなかったがビーシュマの後ろにもう一人百王子がいたのが見えた。ぺとりと顔をビーシュマの背に押し付けていて、ともすると眠っているのかもしれない。

藤丸たちを初見のユディシュティラとビーマがパーンドゥの両脇からチラチラと一行を見るのに笑って返していると賢王が眉を顰める。

「我たちはここでいいのか?」

「あくまで会議は王たちのものだからね」

「いや、この高さで良いのか、ということだと思うが」

多くの場合、上の位置に座るというのは立場が上あることを表す。ヴラド三世の言葉にヴィヤーサはにっこりと笑った。

「勿論。君たちは“私の”客人なのだから」

ロビンフッドが小さく呟いた「なるほど、聖仙って怖い」という声に藤丸もしっかりと頷く。






一方、藤丸たちと別れたマシュはドゥフシャラーと一緒に花束を作ったり、不思議そうに近づいてきた王子たちの髪に花を編み込んだりして遊んでいた。

「マシュお姉さんは何をしにこの国に来たのですか?」

「えっと、調査ですね」

髪が短くて花を編めない代わりにとドゥフシャラーに花冠を載せられたアルジュナが首を傾げつつ聞くと、マシュがちょっと困った顔で答える。

「ちょうさ?」

「せんそうをしているりゆうですね?」

アルジュナを真似して首を傾げるナクラの横でサハデーヴァが歳よりもしっかりした顔でふむ、と考え込む。

「父上が一番強いのに、なんで挑むんだろうな?」

「ゔぃゔぃつ、おねえさんはその「なんで」をちょうさしにきたのですよ」

脚を投げ出して座るヴィヴィツの脚の間に座り、背もたれにするように小さな体にもたれかかって短い腕を組んで考え続けるサハデーヴァの頬を「なんでそこに座りながらお前は偉そうなんだよ……」とヴィヴィツがつつく。

「ぼくもすわる!」

「うわっ! 二人は無理だって! カルナ!」

「あー、ほら、もう。こっちこいナクラ」

「うん!」

ヴィヴィツに助けを求められたカルナに呼ばれ、ナクラが嬉しそうにその膝に収まる。

歳上の従兄弟の膝に収まり満足そうに笑う双子にマシュは目を細めた。その横でアルジュナが腕を組み、ドゥフシャラーが新しい花冠の制作に取り掛かりながら唸る。

「戦争の理由……思い当たりませんね」

「ねぇ……」

うーん。と子供たちとマシュが一緒に首を捻っていると、サクリサクリと軽い足音が近づいてきた。

「貴女がヴィヤーサ様のお客様?」

「あ、母上!」

カルナの声にマシュが振り返って見上げると、美しい女性がいた。艶やかな髪を腰まで伸ばした、花の如き顔の王妃。その、あやめ色の瞳はしっかりとマシュを見つめている。

「……ガーンダーリー、様?」

「ええ。はじめまして、旅の方」

にっこりと笑ったガーンダーリーはそっと膝を折りマシュの横に座り込んだ。視線を合わせてマシュを覗き込む目が悪戯っ子のようにキラキラと陽光を受けて輝いていた。


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