象十万頭分の 2

象十万頭分の 2


「先程はみっともないところを見せてすまなかったな」

服を着て改めて天幕に入ってきたドリタラーシュトラが言うと賢王がふっと口角を上げた。

「神すら退ける膂力を産む肉体だ。鑑賞に値したとも」

「それなら良かった……のか? とにかくそちらのお嬢さんの目の毒にならなくて良かったよ」

ドゥリーヨダナの一臨に似た格好のドリタラーシュトラが頭を掻き、ドゥリーヨダナとユユツを抱えてクッションに座る。膝の中に仕舞い込まれた二人は楽しそうに笑っていた。

それにしても大きい。(そういえば今までの特異点ではドリタラーシュトラ王とちゃんと会ったことなかったな……)と思いながら藤丸はドリタラーシュトラを見つめる。

身長はヴラド三世より高い。ともすれば蘆屋道満と並ぶだろう。ビーマのように圧のある体格ではないが、ドゥリーヨダナと同じで近づいてみると「うおでっか」となる系だ。黒い服を纏っているからかも知れないが、親子揃って着痩せするタイプらしい。

癖のついた柔らかそうな青藤色の髪を緩く流し、後ろで一つに纏めている。淡い色合いの髪に垂れ気味の眉と垂れた目尻はともすれば気弱そうにも見えるが、正史世界では生涯一度として光を映すことのなかった筈のタンザナイトの輝きの強さがそれを打ち消していた。

「で、改めて君たちは……その……なんだ?」

当然の疑問を呈するドリタラーシュトラにヴィヤーサが笑う。

「私の客人だよ」

「親父殿の?」

首を傾げたドリタラーシュトラの横でヴィドラがため息を吐いて眉間に皺を寄せた。

「この者たちからそのような話は聞いていませんが」

「“私”とは初対面だからね。しかし、その程度は些細な問題だろう?」

泰然と笑うヴィヤーサはカルデア一行からすると少し違和感を覚えるが、本来はあんな泣いてばかりの男ではないのだ。基本はにこにこ仙人なのである。

そんな言葉で納得するのか?とロビンフッドがドリタラーシュトラとヴィドラを見やれば、二人はため息と共に意見を飲み込んでいた。

「あのー、自分たちで言うことじゃないですけど、それで納得していいんスか? だいぶ怪しいっすよ、俺ら」

「いや、まあ。怪しいとは思うがな、親父殿の客人だと言うのなら『招かれるべき客』だ。信じる他あるまい」

「親父様が保証している相手を疑うよりも先にしなければならないことがあるしな」

「それでいいんスか」

「聖仙とはそういう存在なんだよ」

諦めたように笑うヴィドラに、カルデア一行の頭の中にはゲームのバッドエンドに辿り着いてギャン泣きしていたり、ヴィカルナの出版物を読んでしくしく泣いていたり、孫ギーケーキ事件を聞いてさめざめ泣きながらビーマをぽこぽこ叩いていたり、スヴァタントラナマに叛逆されて宇宙猫顔をしていたヴィヤーサが浮かんだが、なんとか思考から追い出した。

「親父殿の客人というのは受け入れるとして、何をしに?」

「ああ、それは──」

「ドリタラーシュトラ王、よろしいですか」

ヴィドラがカルデアの目的を伝えるより先に天幕の外から声がかかる。聞いた記憶がある声だと藤丸が記憶を探っていれば、ドリタラーシュトラの許可を得て天幕に入ってきたのは知っているより少し若いドローナだった。

「どうした?」

「早馬が着きまして、急ぎ帰還してほしいと」

「何かあったのか」

「マツヤ国のヴィラータ王がいらっしゃっているそうです。あと、ドルパダ王も」

ドルパダを呼ぶときに嫌そうなのはご愛嬌と思おう。

「は?」




異常すぎると判断したドリタラーシュトラが戦場をドローナに任せて急ぎ宮殿へ帰還するのに連れ立って、カルデア一行も首都へと向かう。「内緒話をするなら御者は不要ですか?」と、ヴィドラに聞かれたヴィヤーサが笑って返したことで一行を乗せた馬車の御者はロビンフッドが務めていた。

「しかし、実際目の前にすると驚くね」

ほやほやと笑うヴィヤーサの頬に、賢王がムニリと指を突き立てた。

「ぱややんとしとるのではない翁よ。聞きたいことが多すぎるぞ」

「答えられることならなんでも答えるよ」

任せて!と胸を張るヴィヤーサに、全員が心の底から思っていた疑問を呈した。

「あのドリタラーシュトラ王は本物か?」

ロビンフッドを除く四人の声が重なった事にヴィヤーサは首を傾げる。

「本物だけど……どうして?」

どうしてと言われると、言っていいのか?と藤丸が口を噤む横でマシュがおずおずと口を開いた。

「その、神話ではドリタラーシュトラ王は盲目の王なのです。そして、私たちが今までに訪れたこの時代のインドのどの特異点でも、ドリタラーシュトラ王は盲目でいらっしゃったと聞いています」

聞いたヴィヤーサが目を瞬いて腕を組む。

「そうだったのか……いや、でもあの子は間違いなく私の息子のドリタラーシュトラだよ。それに関しては私が保証する」

「ヴィヤーサさんがそう言うなら信じるよ」

「ありがとう」

藤丸の言葉に笑ったヴィヤーサが「それにしても」と続けた。

「あの超越健康優良男が盲目で生まれるなんて……一体他の世界では何が起こったんだい?」

ゔ、と全員の息が詰まる。「言ってよいのか?」「言わないほうがいいのでは……」「でも誤魔化すのもなぁ……」とまた目で会話していた一行だが、諦めてヴラド三世が口を割った。

「まあ、翁のせいだな」

「私の? 私が何かしたのかい?」

「何かしたというか、逆に何もしなさすぎたというか」

首を傾げるヴィヤーサにヴラド三世が額を手で覆う。言葉を選ぼうにも、どう選んでも暴言になる。覚悟を決めて額を覆っていた手を膝に戻した。

「汚すぎたんだ」

「きたなすぎた」

「ああ。──神話によると、ニヨーガに呼び出されたヴィヤーサは修行中の身であり……酷い風体であった。アムビカーはその醜さを恐れて瞼をきつく閉じて事に及び、結果として盲目のドリタラーシュトラが生まれた」

ヴラド三世の説明を聞いたヴィヤーサがぱちぱちと瞬き「本当に?」と言いたげに一行を見て、頷く一行にくしゃくしゃと頭を掻いた。

「あー……なら、この特異点の始まりは私なのかも……でも私というか母上のせいだな……」

「ヴィヤーサさんのお母様というと、サティヤヴァティーさんでしたか」

「そう。中々強欲な人でね、自分の血を引く子に国を継がせたかったのだろうけど……まあ、それは置いておいて。私がニヨーガの為に呼ばれた時のことなんだけどね」

マシュの言葉に頷いたヴィヤーサが困ったように眉を下げる。

「確かに、汚かったんだ。自分で言うのもなんだけれど、襤褸雑巾のほうがまだマシじゃないかな?ってくらいだったと思う」

襤褸雑巾……と全員が遠いを目をしたのを無視してヴィヤーサは続けた。

「姿を見せたら我が母君から「余りにも汚い」と有難いお言葉をいただいてね。それで私は母上の侍従たちに風呂に放り込まれて磨き上げられてからアムビカーの所に連れて行かれたんだ。ニヨーガを勤める相手の寝所に素っ裸で投げ込まれたのは後にも先にも私だけだろうね。おかげでアムビカーとだいぶ打ち解けて仲良くなれたけれど」

のほほんと笑うヴィヤーサに、朗らかに言うことではないのでは?と喉まで出かかった藤丸の声はロビンフッドの言葉に掻き消された。

「前方に敵影! 魔獣だ!!」

「!!」

藤丸たちが身を乗り出して確認すると、巨大なソウルイーターが3体猛然と向かってきていた。

「黒い獅子……じゃ、ないよね。なんだい、あれ」

「ソウルイーターです! 別の神話世界の魔物になりま──」

マシュの言葉が終わる前に並走していた隣の馬車から黒い影が飛び出す。青藤の尾を揺らしたドリタラーシュトラは躊躇いなくソウルイーターに殴りかかり、3体を楽々吹っ飛ばした。1体1体が5mはあろうかという巨体をなんなく殴り飛ばしていくのは果たして“人間”の所業なのだろうかと遠い目をする一行の横で、ヴィヤーサだけがなんだと拍子抜けした顔をする。

「見たことのない魔物だったけれど、殴れるのか」

「そうですけど! そうじゃねぇなぁ!? 1体消し飛びましたよ!?」

「物理的に干渉できるならあの子に敵はいないよ。まあ、できない場合は私が干渉させるし、心配無いさ」

1体は力加減がわからなかったのか見事に粉砕され、2体は頭が綺麗に吹き飛んだソウルイーターたちを見た筈のヴィヤーサがのんびり言うのでロビンフッドがツッコミを入れるが、当のヴィヤーサはどこ吹く風である。亡骸はスゥと消えてしまい、停車した馬車に登ったドリタラーシュトラが怪訝な顔をする。

「今変なのいましたよね?」

「うん。幻覚の類では無かったよ」

「消えちゃった」

「不思議だね」

ヴィドラに抱えられたままドゥリーヨダナとユユツが馬車の縁からソウルイーターが消えた地面を見ている。中々に肝の据わっていると思えばいいのか、父親がアレ過ぎて危機感が薄いのかどちらなのかと賢王が密かにため息を吐いた。

「君たちはあれが何か知っているかい?」

「ソウルイーターという魔物だ。消えて無くなる、ということは魔力で無理やり出現させられたものだろう」

ヴラド三世の言葉にふむ、と腕を組んでドリタラーシュトラがヴィヤーサを見るとヴィヤーサも頷いた。

「他の聖仙たちとも連携して街道にこれらが出ないようにしておくよ。普通の獣に襲われるのとは訳が違うからね」

「頼みます。しかし、まずは帰って王たちの話を聞くのが先ですな」

「そうだね」

再び走り出した馬車の上で、先程の一連の暴力についてどう受け止めればいいのだろうかと心の中で考えていた藤丸の横で賢王が隣の馬車を指差した。

「ドリタラーシュトラに関しては一度考えるのをやめるとして、スヨーダナだが」

「うん?」

「魔性を持っておらんな?」

「え? うん。……あぁ、そうか。……他では、あの子たちが役割を負うのか」

悲しげに顔を曇らせたヴィヤーサはカルデアにいるヴィヤーサとよく似た表情だった。きゅっと目を瞑り、すぐにヴィヤーサは元の柔らかく笑った顔に戻る。

「あの子たちはただの子供だよ。生まれかたは特殊だけど、それ以外は至って普通の子供だ。魔性なんて持っていないし、機構としての使命もない。なんなら腕力はユユツのほうが強いくらいだし」

「え?」

「先輩、ユユツさんはああ見えて正史世界でも一人で七十二万の戦士に相当するお方です」

「マジ!?」

すっかり特殊バッファー且つギー壺お兄さんとして過ごすユユツとユユツオルタに慣れていた藤丸はマシュの言葉に目を丸くした。

「腕力はユユツが一番ドリタラーシュトラを継いでるんだよ。百等分の弊害かなぁ……とりあえずユユツが大人になっても人間で測れる範囲の中にいてくれているようで良かったよ」

人間で測れる範囲とは?と疑問を口にしてはいけない。ここは神代のインドである。

「あ、それでさっき代わりに戦場に出ようか聞いてたのかな?」

「そうかも知れませんね。体格的に考えてもおそらく今はスヨーダナさんよりもユユツさんのほうがお強いでしょうから」

腕力つよつよユユツニキ……とギー壺をぶん投げてくるユユツたちを想像している藤丸を他所に、ヴラド三世が顎に指を添えて隣の馬車の子供たちを見た。

「見目もユユツのほうが似ているか。成長した顔は置いておくとして、スヨーダナは完全に女児の顔だ。弟たちも似た顔ならドリタラーシュトラに似ているとは言えまい」

青みが強いから印象として似ているというのもあるが、優しさが全面に出ているがそれでも少年とわかる顔立ちのユユツに対して、ドゥリーヨダナは活発そうな印象はあるものの整った柔らかく甘い顔立ちで、中性的を突き抜けて完全に少女のそれである。どちらがドリタラーシュトラに似ているかと聞かれれば間違いなく皆ユユツと答えるだろう。

背が高くそれなりに体格のいいユユツに対して小柄で華奢なのもドゥリーヨダナの少女っぽさに輪をかけている。ドローナに少女だと思われていたアーユスやマジカル☆ヨダナと同じ素体なんだなあと藤丸は納得した。

体格の違いは単純に成長速度の違いだと考えている藤丸とマシュだが、事実は栄養状態と訓練内容の違いであるのでこの世界のユユツは『神には勝てない程度のドリタラーシュトラ』程度に育つのだが、まだ知らない話である。ドゥリーヨダナはビーマを完封するユユツを見て自分は大人しく内政に専念しようと考え直して細め小さめに育つがまあそれも今は知らなくていいだろう。

「あれがどうしてああ育つのか……ではなく。この世界ではスヨーダナたちは機構ではないのだな? では、人口削減ノルマはどうなっている」

一瞬遠い目をした賢王が改めて問うと、ヴィヤーサが目を逸らした。

「おい」

ムニムニと頬をつつかれてヴィヤーサがボソボソと声を出した。

「いや、その……既に、達成済み、と言えばいいのか……減らす分には足りてるんだよね……プリトヴィー様も「もういいわよ。軽くなったわー」と仰っていたし」

「は??」

ロビンフッドさえ振り返って声を揃えれば、うぐぅ、とヴィヤーサが静かにダメージボイスを出した。

「いや、ほら。ヴィドラから聞いていないかい? ドリタラーシュトラは一人で数億の戦士を蹂躙できると」

「それは聞きましたが」

「それ、実績があるんだ。あの子がまだ若い頃から、とんでもない怪力の王子がいるって聞いた喧嘩っ早い王たちが戦争を仕掛けてきたりなんだり、まあいろいろあって……合計、15億くらいかな? なんか……気づいたら減ってた……」

「うっっっっそだろ」

また全員の声が揃う。そんなことありか。気づいたら15億も人が減っていることがあるのか。まさかドリタラーシュトラの目が見えているというだけで、全ての地獄が無かったことになるようなことがあっていいのか。いや15億減っているのなら悲惨な戦争はあったのだろうが。

「あ、あの! それでは、半神の皆さんは? ユディシュティラさんとビーマさんのお名前は聞きましたが、こちらでは半神ではないのですか?」

慌てて問うマシュにヴィヤーサが笑って答える。

「いや、パーンドゥの子らは半神だよ。パーンドゥはそういった行為ができないから」

「隠者殺しはここでもやっておるのか……」

「流石にちょっと可哀想だと思うんだけどね。まあ射られた彼の怨みを「いやうちの息子なんで」と言って解呪するのもあれだし……まあ、それも苦行かな……と……」

「なんでもかんでも苦行にするのをやめよ」

ムニィ、と楽しくなってきたのかヴィヤーサの頬をつつき続ける賢王に笑っていた藤丸の頭にふと疑問が過った。

「あの、ヴィヤーサさん。どぅ、じゃない、スヨーダナたちは役割を背負ってなくても百人のままなんですか?」

「ああ、うん。それはね──」



**********


「子が欲しいです」

「そうだねぇ……君は自然に授かるのが難しいようだから少し手助けするよ」

「有難うございます、ヴィヤーサ様」

「ご馳走いただいたしね。それじゃあ、どうしよう? 兄弟はいたほうがいよね」

「そうですね。百人くらい欲しいです」

「二、三にn……え? ん? な、ひゃく?」

「はい! 子供は多ければ多いほどいいです! あの方との子供ですもの! 可愛いに決まっていますし!」

「い、いや、流石に多くないかな!? せめて十人とか」

「百人」

「強欲〜。いや、できるけど。本当に大丈夫? 百人のお世話できる?」

「侍女もいますし、私の家族も手伝ってくれますもの。母の愛は無限なので大丈夫です!」

「譲らないなぁ! 百人となるとだいぶ手順も延びるよ? いいの? 待てる?」

「百人生まれるならいいです!」

「うーんこの」


**********



「──ということがあって」

「ガーンダーリーさん!!!」

「わははははははは!!!」

突然隣の馬車からガーンダーリーの名が聞こえてきたことに驚いてそちらを見たドゥリーヨダナたちだったが、頭を抱えている藤丸たちと呼吸ができなくなる程笑っている賢王を見て大したことではなさそうだと判断した。

ドリタラーシュトラの胡座の中に座ったユユツの膝に座っているドゥリーヨダナが首を傾げる。

「なんだろ? 百王子の誕生秘話でも聞いたのかな」

「それは叫ぶしかなかろうなぁ」

からからと笑うドリタラーシュトラにヴィドラがため息を吐いた。

「義姉様は結構強欲ですよね。いえ、全員可愛い子たちですし、結局多くて良かったのですが」

「百人だもの……可愛いけど、びっくりしたなぁ」

腹違いの弟妹が百一人いると認識した瞬間の衝撃を思い出してユユツが遠い目をする。基本的にスヨーダナとスシャーサナとしか関わりがなかったなか「みんなちゃんとあるいておしゃべりできるようになったからいっしょにあそぼ!」と誘われて訪れた庭園にいた弟妹たちの人数に圧倒された。しかも全員が似たような愛らしい容姿で抱っこ抱っこと強請ってくる。

スヨーダナとスシャーサナだけでなくユディシュティラとビーマにも協力してもらって、全員を代わる代わる抱きしめたのは今となっては幸せな思い出だが、当時はクタクタになったものだ。確実に抱っこした筈の子が「ぼくまだぎゅってしてもらってませんけど」みたいな顔して強請ってくるのでエンドレス抱っこだった。抱きしめると本当に嬉しそうに笑うのが可愛いかったので仕方ない。

そういえばあの時人生初の筋肉痛を経験したな……と遠くを見ているユユツの上でドリタラーシュトラが笑いながらドゥリーヨダナの頬をつつく。

「スヨーダナも我儘が酷かったから、ガーンダーリーに似たのだろうな。ユユツが止めてくれる子で良かった」

「最近は我儘言ってないもん!」

むうと丸い頬を更に丸く膨らませるドゥリーヨダナをいい子いい子と抱き寄せるユユツと、それに甘えてしがみつくドゥリーヨダナに笑うドリタラーシュトラを見てヴィドラは再びため息を吐いた。

兄も叱りはすれど甘やかしてしまう方だがユユツも同類だろうなと思いつつ、この子たちこのままで大丈夫だろうか……と一抹の不安を覚えながら小言を挟む。

「大きなのは減ったが、まだユユツにいろいろ無理を言ってるだろ。天幕から抜け出したのだって我儘だからな」

「ユユツが一緒だからいいと思ったのに」

「確かにそこらの戦士よりはユユツのほうが強いが、二人ともまだ子供なんだから大人しくしてなさい」

揃ってむうと頬を膨らませるあたりユユツもかなりやんちゃなんだよなぁとヴィドラは天を仰いだ。






〜〜〜一方通信が繋がれっぱなしだったカルデア〜〜〜


「母上」

ガーンダーリーの息子として育ったヨダナ属全員から呆れた声を向けられ、ガーンダーリーが首を傾げる。

「子供は多いほうが幸せでしょう?」

「『弟妹が望まれなかった』世界などは提示されただけで吐く自信があるので、百人の弟妹を与えてくれたのは大変有難いのですがそれはそれとして強欲が過ぎます」

偽王が軽い頭痛を覚えながらも苦言を呈する。パーンダヴァの兄弟たちは(ドゥリーヨダナの強欲の元凶は神々からのオーダーとかでなく絶対にこの方個人な気がするなぁ……)と遠い目をしていた。

「ドリタラーシュトラ様との子が欲しかったのだもの」

「だからって、百人は多いですよ……」

偽王とガーンダーリーの話を聞きながら、ビーマセーナは隣にいたヴィヤーサを見下ろした。

「あっちのヴィヤーサ様、なんか性格違うくないか?」

「あっちの私は悩むところが私と違うところだからかな……そんなノルマの達成の仕方がありなの……?」

まさか息子が大暴れしているだけで、孫たちに降りかかる厄災の十割が片付いてしまっているとは考えたくなかった。それはそれで何か問題がありそうだが、あのドリタラーシュトラなら殴って解決するのだろうなと謎の確信が持ててしまうのがつらい。

「というか、私がニヨーガの際に身を清めていただけでそんなに歴史が変わるのか……」

「逆に何故清めてなかったのですか?」

サハデーヴァに問われたヴィヤーサは遠くを見る。

「私は直でアムビカーの寝所に投げ込まれたから」

「結局投げ込まれてる……」

ナクラの声にはははとヴィヤーサの乾いた笑いが虚しく続いた。

「あそこのユユツ兄さんは肉体派のようですね」

ヴィカルナがユユツとユユツオルタを見ると、二人は嬉しそうに笑う。

「いいよね! 声を聞く限りまだまだ小さな子供だろうけれど、もし大人の姿でカルデアに来ることがあればみんなを壺に入れるのを手伝ってくれるかもしれない!」

「おっと」

「あの愛された幸せスヨーダナを知っているのなら、こちらのドゥリーヨダナたちの境遇を共に嘆いてくれるだろうから。きっと私たちの愛し方を理解してくれるさ」

「あー……」

「どうして貴方はヤバいと確信できる話題を振ったのです?」

アルジュナに冷静に詰められ、えへっと笑うヴィカルナの横でシャクニが顎を摩った。

「なぁ。1体消し飛んだと言っておらんかったか? 殴りの圧で消し飛ばしたのか? ソウルイーターを?」

しん、と場が静かになる。

「……できるか?」

「宝具を使えばたぶん……お前は?」

「数撃で致命傷は確実だが、消し飛ばすとなるとな……声の早さから言っておそらく一撃だろう。キャスターたちからの援護も無いとなると無理だ」

ドゥリーヨダナとビーマが互いに確認し合ってできないと判断する。二人の会話を聞いてスヨーダナが自分を抱き上げている父を見上げる。

「とうさまは?」

「宝具を使えば確実ですが、流石に一撃で消し飛ばすのは援護無しでは難しいでしょうか」

「そうなのかぁ……」

ぽてりぽてりと残念そうに尾を振るスヨーダナを見て、マジカル☆ヨダナが後ろに立っていたハタヨーダナを振り返る。

「ハタヨは? 火力ではアルジュナオルタと張れるよね☆」

「自己強化し武具を一斉掃射すれば可能であると推測できるが……それを一撃と捉えるのかという疑問がある」

「マハバ属の二大火力が無理ならたぶん宝具以外でできるやついないだろ……」

カリ化ドゥフシャーサナの言葉を受けて、ユディシュティラが考え込むように俯いていた顔を上げた。

「……もしかして、伯父上は全力でナーフされた状態が常だったのでは……?」

「視力を奪うとかいう限界ナーフ済みで象十万頭分の力とか、クソゲーが過ぎるんだけど?」

スヴァタントラナマの言葉を受けて、ねぇ、とユッダが隣にいたドゥリーヨダナオルタの袖を引っ張る。

「もしかして、あの父上って象十万頭じゃ足りない?」

「……ん……あぁ、うん……まず、視力がある段階で……戦闘能力としては、軽く10倍には……なるのじゃないかな?」

「その上で鍛えてるんなら、そりゃあ神々だってぶっ倒すだろうよ……」

うとうととしながらも話を聞いていたドゥリーヨダナオルタの評価にドゥフシャーサナが頭を掻く。

「…………この特異点、結局何が原因なのかしら?」

「なんだろうね……珍しく神々では無さそうだけど……」

冷静なドゥフシャラーの問いにジャヤドラタも首を傾げる。

結局はマスターと同行メンバーが調べるしか無いとして一時解散になったが、全員の頭の中にはやたらムキムキなイマジナリードリタラーシュトラが鎮座していた。

Report Page