誰ガ為ノ宝石箱
色とりどりの照明が、まばゆく舞台を照らす。
華やかな輝きで包まれたステージの上には5人のアイドルが華麗に舞い踊っていた。
少女達が踊りを披露し、高らかに歌い、
笑みを浮かべてファンサを行う度に会場が熱気に包まれていく。
だがその割れんばかりの歓声の中には、少々邪欲のある興奮が紛れ込んでいた。
アイドル達の衣装は白を基調とした水晶を彷彿とさせるような煌びやかな衣装だが、
くるりとターンする度に食い込んだ淫猥な下着が見えてしまう程にスカートが短く、
胸の凹凸をしっかりと見せつけるデザインとなっていた。
客の中に下心を丸出しにする者が何人かいるのも、邪な視線を向けるのも、
無理のない話だった。
しかし始まりがあれば終わりがあるというもの。
フィナーレとなる曲が終わると、
まるでそれが合図であったかのように観客達から歓声が上がった。
その反応がとても良かったのか、
メンバーの誰もが嬉しそうな笑みを浮かべ、瞳を輝かせる。
「信徒の皆〜! 今日はありがと~! 次のライブでまた会おうねっ!!」
本日のセンターだった『グレイテスト・グレート』のそんな言葉を皮切りに、
メンバー達がそれぞれお別れの言葉を放つ。
そうして彼女達は手を振りながら退場していき、
その笑顔と歌声の余韻を観客達に与えていった。
姿が見えなくなった後でもなお響く盛大な拍手を背に、
アイドル達は舞台裏の階段を降りていく。
最後の段差を降りたその瞬間————
先程までの高揚が噓だったかのようにスン・・・と5人とも真顔になる。
まるでスイッチを切ったように瞳から光が消えた彼女達は、
汗が額から滴り落ちるにも関わらず、
見えない糸で操られるようにひたすら歩き続ける。
やがて控え室にしては大きすぎる部屋へたどり着き、
中へ入るとそこには——真っ白な蠅の怪物『クリス=タブラ=ラーサ』がいた。
《本日もお疲れ様でした》
タブラ=ラーサのその言葉を聞いた瞬間、
アイドル達は一斉に片膝をつき恭しく頭を垂れた。
この怪物こそが彼女達の主人・・・・・・もとい、プロデューサーなのである。
訂正したのにはちゃんと理由がある。
5人のアイドル達は、元はと言えばタブラ=ラーサの他者を操る力によって
支配された『ゼニス』と呼ばれる種族のクリーチャーなのだ。
反抗勢力を全て薙ぎ払い逆らうものが居なくなった後、
かの怪物の次の目的は来るべき時に備えてエネルギー源となる水晶の生成
そして貯蓄だった。
そこで白羽の矢が立ったのが、5体のゼニス達。
つまりアイドルグループ『ゼニス・セレス』は言ってしまえば、
タブラ=ラーサによって見目麗しい女の子の姿にされたゼニス達による
水晶を作る為の客寄せパンダだったのだ。
しかし例えどんな形であれ、ファンの心を鷲掴みに出来ている以上
アイドルとしては成功している。
労いの言葉に本当に労う気があるのかはともかく、
今のタブラ=ラーサを言い表すなら
プロデューサーという役割の方がピッタリだろう。
《今回の演目も見事でした お陰様で水晶もだいぶ増やすことができました》
5人を見下ろしながら投げかけられたタブラ=ラーサの言葉に、
グレートが代表して返答をする。
「お褒め頂き光栄です・・・♥」
顔を上げたグレートの表情にはその瞳には、愛情の光が灯っていた。
催眠および洗脳によってタブラ=ラーサを敬愛し、
心の底から従順になったが故のものだった。
「いいわけ・・・ないだろ・・・っ!!」
だがその中に一人だけ異議を口にするものがいた。
懸命に絞り出したような小さな声を出した少女は『ライオネル』だった。
「何も知らない者を手前の為だけに水晶に変えて・・・!
中には本当に私た・・・じゃない、俺達の事を
好きだった者も大勢いるはずなのに・・・!」
タブラ=ラーサの絶対的支配下にあることに変わりはないのだが、
それでもライオネルはただ黙って従うことは出来なかった。
その琥珀色の瞳から大粒の涙をこぼしながら、ライオネルは激昂する。
《・・・随分と元気が良いですね》
だがそんな彼女の意見もタブラ=ラーサにとっては雑音同然だった。
怪物はライオネルの隣にいた『レディオ・ローゼス』と『サスペンス』に命令し、
彼女を取り押さえさせつつ無理矢理立ち上がらせる。
二人がライオネルの頭を動かせないように両側からガッチリと掴むと、
タブラ=ラーサは水晶を取り出す。
飴玉と比喩するには小さすぎず、頬袋を突き破る程の大きさもないソレは
花被の形をしていた。
「うう・・・・・・い、いやだ・・・・・・やめろ・・・!」
これから起こるであろうことに察しがついているからなのか、
ライオネルは必死に抵抗しようとする。
しかし水晶の華を持つ手が眼前に近づくと同時に、
まるで見えない手で動かされるように言おうとした言葉が止まり、
口がこじ開けられるように勝手に開きだした。
タブラ=ラーサが水晶の華を『ライオネル』の口に無理矢理押し込む。
「んむぅ・・・!」
舌の上を水晶が滑り、喉がゴクリと上下に動いた次の瞬間——
彼女の身体がビクリと跳ね上がったかと思うと、身体を激しく痙攣させる。
「ふあ・・・ぁぁっ♥ ひぁ♥ あぁぁぁんっ♥」
目の前の蠅の怪物に対する嫌悪と怒りが、まるでカードを捲るように裏返っていく。
もっと尽くしたい、捧げられるものを全て捧げたいという感情が、
大樽に入った水を小さなコップに注ぎこむかの如く彼女の心を溢れ尽くしていく。
やがてライオネルがぐったりと脱力すると、
ローゼスとサスペンスがパッと拘束をとく。
「あはっ・・・・・・♥ プロデュぅサぁに反抗してぇ・・・ごめんなしゃいぃ・・・♥
これからもたっくさん、水晶を作るために頑張りまぁす・・・♥」
彼女は解放されると同時に跪き、服従の言葉を媚びるように謳いあげる。
他の4人と同じように光が消えた澱んだ瞳と蕩けた笑みが、
精神を犯され終えた事を物語っていた・・・・・・
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「——という事もあってなぁ? 今の俺は・・・いや、私達は誰かに命令され、
使われないと生きている実感すら感じれないようになってしまったんだ♥」
色々あって最底辺で顎で使われていた時には考えられないような
真っ白な高級ベッドの上で、鬼丸は左腕に抱き付くライオネルから甘い声で
そんな話を聞かされていた。
「どんな相手だろうと、仕えるお方がいないと落ち着かなくて、狂ってしまって、
この世界をまた滅ぼしてしまうような、あぶなーい事にだって
手を出してしまうかもしれないんだ・・・♥
サスペンスの言葉を借りるなら、私達にかけられた二度と解けない
呪いのようなものかな・・・?♥」
右腕に抱き付いているベートーベンが、耳元に甘く溶かすような囁き声でそう囁く。
下半身の方をチラリと見れば、そのサスペンスはグレートとローゼスと共に
先程まで精液を吐き出していた鬼丸の陰茎を丁寧に掃除していた。
それぞれ唇や頬、そして胸を使って鬼丸のソレを
奪い合うように清めようとしている三人を見て、左右の二人がクスクスと嗤う。
描写するまでもないかもしれないが、とうぜん全員全裸だ。
「なぁ、鬼丸はどこかへ行ったりしないよな?♥
ず~っと私達のご主人様でいてくれるよな?♥」
「鬼丸は優しいから・・・私達を助ける為に、
いつまでも身も心も委ねさせてくれるよね・・・?♥」
そんな淫靡な空間の中心に居る鬼丸に、
ライオネルとベートーベンが表情を伺いながら縋り付く。
正しい心を持つならば答えるべきNoという言葉が、
まるで喉の奥に引っかかった様に出てこない。
そもそもどこからかやって来た黒い神があの蠅野郎を倒したせいで
こうなっちまったんだぞどうしてくれるんだ・・・という責任転嫁も、
がっちりとホールドされた両腕から伝わる女の子特有の柔らかさと、
汗と雌の匂いが混ざった独特な甘い匂いを嗅いでいるうちに、
何処か彼方へと消え失せてしまう。
淫乱な奉仕を続ける三人も、輝きが戻ったものの情欲に染まった眼をこちらへ向け
媚を隠そうともしない甘い吐息を漏らす。
やがて鬼丸の口から出てきた一言に、アイドル達は淫靡な微笑みを浮かべると——
左右から感謝を示すキスが彼の頬に浴びせられた。