誰そ彼

誰そ彼


予想外の同行者こそ増えれど先生を確保できた便利屋たちはすぐさま脱出へと移る。

行きと同じように前衛を平社員、殿を社長が務め、

その間を先生を背負ったジュリとその娘、脇を室長と課長が固める形だ。

給食部長まで運ぶ余裕はなく、やむなく置いていく事になった。


火炎放射器で薙ぎ払った廊下は燻りこそすれど延焼の気配もなく、サラダたちも近寄って来る気配はない。

とはいえ、ゆっくりしている暇はない。

今もRABBIT小隊が全力でサラダたちを引き付けているはずなのだ。

早めに合流して撤退しなければならない。

事前に伝えられていたRABBIT3への連絡先をコールするが……あるはずのレスポンスがない。

冷や汗が社長の頬を伝う。

RABBIT3はここから撤収するためのヘリの操縦者、

今回の任務では他の兎たちを見殺しにしても安全な所にいなければならない立ち位置でもある。

それがこちらの連絡に出ないという事は何らかのトラブルが発生しているという事だ。


それを伝えれば全員の顔に緊張が走る。

気がつけば外もいやに静かだ。

銃撃の音も、爆発の音も、サラダたちが集団で這いずる音さえも聞こえない。

それに急かされるように皆が足を速めて出口を目指す。

全員が何か大型の肉食動物に追い立てられるような圧を感じていた。

ジュリの娘に至って怯えて涙目になっている。

来る、何かが来ている、とても危険なものが。

そして突入してきた部活棟のエントランスに戻ってきた所で、“それ”が入口だった場所から姿を現した。


黄昏の逆光に照らされた姿はゲヘナなら誰もが知る風紀委員長。

何も纏う事なく曝け出された肢体は幼いながらも艶めかしく背徳的な雰囲気を漂わせている。

だが、眼光鋭い紫苑の双眸に載せる、隠すことなき怒りの表情は常の彼女なら浮かべないものだ。

さらには彼女の怒りに合わせるように蠢く翼は時折解けてその手に握られた機関銃へと絡みつく。

そこにいたのは風紀委員長ではなかった。

そして、それが何であるかを便利屋たちは理解していた。

彼女と同じ存在と既に彼女たちは会っていたのだから。


「どこへいくつもりかしら、無法者」


風紀委員長空崎ヒナが産んだであろう、混血のサラダがそこにいた。

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