誰があなたを許すのか

誰があなたを許すのか


ループ概念元ネタスレとはまた違う感じのループです

わりとというかほぼひ◯らし

今まであった概念羅列したらアホみたいに長くなったので、それが追加されたものが見たかったらこちらからどうぞ(羅列以外の違いはありません)













 身体を縛る海楼石に自分には少々狭い檻。そして目の前に広がる光景に、今回も成功したのだとそっと安堵の息をついた。



 これから起こることは知っていた。あいつが笑いながら大事な仲間達のツナギや帽子を持ってきて、彼らは死んだと告げてくる。それから、証拠だと仲間達の死に様を記録した映像を見せてくる。

 何度繰り返しても変わらねェ。いつも始まりはこの日だった。

 何故この日なのかわからねェ。ただ……ここへ来て初めて絶望したのはこの日だったな、とは考えている。


 そうこう考えているうちにあいつはやって来て、予想していた通りの行動をし始めた。おれはただそれをぼんやりと眺めていた。

 愛していた彼らの断末魔を聞きながら、もしこれが防げるのならおれはもう少し頑張れたのかなと考えてしまった。そして、大事な仲間達が死んでいく姿を見ながら物事を考えるやつに許される思考じゃねェと自嘲した。



 ドフラミンゴに敗北し、捕らえられてからおれは何度も同じ時間を繰り返していた。いや、同じというのは少し違うかもしれねェ。今日から始まる無数の可能性によって分岐した世界線……のようなものをおれは死ぬ度にわたっていた。

 違う世界とはいっても、差異はあるものの法則はあった。途中で死んで終わることもあったが、大まかな流れはいつも同じだった。

 おれはあいつにいたぶられ、傷つけられ、辱しめられ……やがて「ヘルメス」という古代兵器によって他の世界へ渡る。その世界でドレスローザで勝利した彼らと出会い、つかの間の安息を得る。それからあいつを倒すため、あるいはおれがさらわれた結果、元の世界へ戻り、そして――


 ――再度敗北する。


 おれは何度も見ていた。本来おれと関わるわけがねェやつらの血肉が飛び散る様を。また再度見ることになった彼らの死体を。自分なんかに向けられる笑顔を。そして……おれが受けるべき苦しみを受けさせた「ドレスローザで勝利したトラファルガー・ロー」の姿を。

 同じように痛め付けられる姿を見た。おれの世話をさせられる姿を見た。鳥にさせられた姿を見た。「三代目コラソン」にさせられた姿を見た。

 何をしても意味がなかった。何を差し出しても解放されなかった。

 優しい彼らは死んでいき、正しい彼は陵辱された。

 詰み上がった死体と止めどなく流れた血を見て飽きるほど絶望し、狂い果てた。そして、おれはやがて一つの結論にたどり着いた。


 みんなが死ぬ前におれが死に続ければいいのだ、と。


 考えてみれば簡単な話だ。原因がなくなれば誰も死なねェ。病巣の切除と同じだ。要は、おれが世界線に影響を及ぼす前にいなくなり続ければいいのだ。

 そう気づいてからの行動は簡単だった。あいつが安定すれば油断するやつだということは経験上わかっていた。だから、逃げる隙は難しくても、死ぬ隙はいくらでも見つけ出せたし、死ぬ程度の体力は温存することができた。

 仮にそのときに死ねなくとも、逃げ出した先で死ぬようにしていた。こっちで死ぬ方がずいぶんと手間はかからねェが、その間におれに関わる羽目になった人が何人も死ぬことになるからできるだけ避けていた。……止めるのが一番いいが、機嫌が良くとも悪くとも殺されるから、それは難しかった。だからせめて、向こうの世界の彼らだけでも巻き込まねェようにしたかったのだ。

 そうやって、少なくともここしばらくはこれでみんなが死ぬのを避けることができた。今のおれにはそれが一番大事で、それ以外は興味がなかった。当然、自分に向けられる何もかもなんか、とっくの昔にどうでもよくなっていた。

 もう肉体的に、精神的に、性的に、何をされても何も感じなくなっていた。昔はそれなりに何か感じていたかもしれねェが、そんな感覚はもう忘れちまった。

 いつの間にか、これ以上誰にも影響が出ずにこのループが終わることだけが救いで、誰かの生死のみ心が動くようになっていた。


 もし何度も繰り返すようになったことに理由があるのなら、きっと罰だ。敗北したという罪を犯したおれに科せられた罰。

 だっておれは、おれだけは恩人の本懐を果たすことができなかった。他の世界のおれは皆、果たすことができたのに。おれの全てを差し出しても許されねェ罪だ。

 だから、この罰が終わるのは、きっとおれが全てを差し出し壊れ果てたときだ。まァ、こんなおれが終わりを求めること自体がおこがましいがな。


 いつの間にか映像は終わっていた。笑いながら何か言っているやつが求めているように狼狽した姿を見せる。意識しねェとできないなんて最低だが、これからのために必要だった。

 ただ無抵抗なだけじゃ反応を引き出そうと苛烈な扱いを受ける。だから、必要なときに悲鳴を、あるいは嬌声を上げながらゆっくりと隷属していくようにしていく。そうやって、死ねるときをじっと待ち続ける。こんなこと、昔なら死んでも嫌だったかもしれねェが、どうせ死ぬのだから関係ねェ。


 そうやっていつも通り繰り返していたのに、今回はちっとも拘束が緩まなかった。何をしても死ぬ隙を見せなかった。

「おれから逃げられると思うなよ」

 あいつは口癖のようにそう言っていた。

 何がしたいのかわからねェが、今回は誰かが来るか衰弱死を待つしかねェようだった。ちゃんと死ねないおれのせいで死ぬ人が増えるとわかると、胸が苦しくなった。




 そうやって死ねないまま、いつも通り動けねェ状態で閉じた檻を眺めていると、遠くから巨大な何かが暴れるような音がした。

 ……もうそんな時か。今回はドレーク屋だ。彼が助けに来るときは大きな音がするからわかりやすかった。

 おれを助けに来る人は世界線によってまちまちだった。ドレーク屋のときもあればベビー5のときもあった。最初の頃はおれ自身が隙を見て逃げ出すときもあった。……もう、今はそんな愚かなことはしねェがな。

 誰が来てもどうでもいいと思っていたが、ドレーク屋なのは悪くねェな。向こうの世界に行く前に死ねるかもしれねェ。

 そうぼんやりと考えているうちに音は段々大きくなり、やがて轟音と共に部屋の壁が破られた。そして、鳥籠を破壊したドレーク屋は人間の形態に戻りながら落ちていくおれを受け止め、ゆっくりと床におろした。おれはそのまま大人しく床に座り込んだ。

「大丈夫か、トラファルガー」

 ドレーク屋はおれを抱えたその瞬間だけ辛そうに顔を歪めたが、すぐに柔らかな表情と顔でおれに語りかけてくる。どう答えれば隙を見せるかと思案しているとドレーク屋は勝手に頭を抱え始めた。

「……何を言っているんだおれは。大丈夫なわけないよな」

 そのままの状態で、深刻そうな声で呟いていた。

「とにかく、今からそれを外してやるからな」

 しかし、やがて顔を上げておれの海楼石の首輪を指差した。そして、どこからか盗んできたのか鍵を差し込んだ。首輪はカチャリという軽快な音と共に外れ、力が戻ってくるのを感じた。

「"ROOM"」

 即座に脱力感がなくなった身体で能力を使う。温存していたとはいえ今のおれが死ぬためには能力を使う必要があった。今まで繰り返してきた中で使えねェ時間はずいぶんと長いが、問題はなさそうだ。

「"タクト"」

 まずドレーク屋の持つ斧で自分の首を斬ろうとする。当然、異変に気づいたドレーク屋に斧を握られ、動きを止められた。

「な、何を……」

 蒼白した姿を見ながら、内側の――すなわちドレーク屋と自分の周りに張った"ROOM"だけを解除した。

「いいだろう……」

 それらしい言葉をつむぎながらドレーク屋がもう一つ持っている武器に意識を向ける。

「もう、辛いんだ」

 ドレスローザのときのように島全体とはいかねェが、あのときドレーク屋と自分の周り以外にもう一つ、この部屋を覆うように"ROOM"を張っておいた。普通ならドレーク屋も違和感に気づくかもしれねェが、動揺している今ならその心配はねェ。

「だから……死なせてくれ。

 "タクト"」

 ドレーク屋が気づき目を見開いたが……もう、遅い。あいつが持つ剣はまっすぐおれに向かっていた。

 これで死ねる。そう思い口角を上げながら目をつむった。


 カァンッ

 想像していなかった音が響き、つい目を開けた。そこには、ドレーク屋の剣を弾いた鞘に入ったままの刀があった。その刀はゆっくりとおれの方へ倒れてきた。

「どうして……」

 やけになってその刀を抜こうとするがびくともしねェ。いつもそうだ。この刀はおれが死のうとするときは使わせてくれなかった。

「どうして止めるんだ、鬼哭!」

 死なないと。早く死なないといけねェのに。おれはいるだけで害悪を撒き散らすんだ。だからそうなる前に世界から消えないといけねェのに。

「その刀は忠実だな。トラファルガーのことを探している間につい持ってきてしまったが、正解だったようだ」

 どこが忠実だ。一番大事なときに抜けなくなるなんて。ゆっくりと顔を向けると穏やかな顔をしたドレーク屋がその手をおれの膝の上に置いてきた。

 その手には「ヘルメス」が握られていた。

 カチリという音と共に、球状の壁がおれだけを包んでいく。能力も覇気も通さねェこれのせいで"ROOM"は解除されてしまった。

 こうなるくらいなら、一か八か"タクト"で首をひねればよかった。鬼哭に意識を向けるなんて、バカなことをした。

 聞き慣れた機械音声と「ヘルメス」の説明や渡る世界を指定するドレーク屋の声が聞こえる。聞きたくなくて片手で耳をふさいだ。

 「幸せ」も、「安全」も、「傷つかない」も、もう聞きあきた。どうせおれは彼らの願いを叶えられねェんだ。聞くだけ無駄だ。

 ふさいでもまだ聞こえてくる声に苛立ちを感じていると、ドレーク屋がおれを囲む壁を叩いた。無視しようとしても執拗に叩き続けるそれへ忌々しげに顔を向けると笑いかけてきた。

「お前が他の世界へ行ったら、おれはドフラミンゴの足止めをしてくれているセンゴクさんと一緒にここから逃げる。大丈夫だ。おれもセンゴクさんも死なない。だから――」


 ――お前も生きることを諦めないでくれ。

 その言葉を最後に転送が開始し、ドレーク屋の姿は消えた。


 今いた世界から他の世界へと渡る束の間、どんな法則で存在しているのかもわからねェ場所の中、おれはひとり膝を抱えた。

「最後になんてこと言いやがるんだ……」

 それは一番許されねェことだよ、ドレーク屋。

 誰に語りかけるわけでもなく、そう呟いた。

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