誘えるシステクノ

誘えるシステクノ



古今東西、技術の発展には犯罪の発展が付き物である。硬い物を割る道具は建屋への侵入に使われ、遠くへ早く移動する車は犯人の逃走距離の延長を助長し、情報を素早く入手出来るインターネットは他者の個人情報を抜き取る為に利用される。

技術が進歩すれば犯罪も複雑化する、全く多様性を重んじるのは人間関係だけで十分だろう。

さて、何故こんな事を長々と愚痴っているかと言えば、それは勿論俺が所轄の刑事であり、サイバー犯罪の捜査の為に無理矢理駆り出されたからだ。

「ったく……本庁のサイバー犯罪対策課だかなんだか知らんけどさぁ……」

事件のあらましはこうだ。

近頃巷で人気のフルダイブ型VRゲーム。ファンタジー世界をテーマにしたオープンワールドの設定が好評で、男女問わず若者の多くが利用しているのだが……ここ数日、『ダイブしたまま意識が戻らない』事故が複数件発生しているのだ。

被害者の肉体はいずれも病院に搬送されているが、全て植物状態。当然意識が戻らないのだから、何があったか本人から聞き込むなど不可能だ。

これだけ見ればゲーム側の問題に見えるが、ログの解析結果によると『何者かの干渉により肉体と意識が強制的に遮断されている』という結論に至るそうだ。つまるところ、事故ではなく人為的な傷害……なのだろうか?とにかく事件性が高いという事らしい。

で、事件のあったゲーム施設が偶々俺の所轄の範囲にあり、偶々俺がゲームのアカウントを持っていて、『新規アカウントより既存アカウントの方が捜査しても怪しまれないだろう』というお偉いさんの理屈で俺に捜査協力依頼が飛んできたというわけだ。勘弁してほしい。

とは言え、そこは俺も一端の刑事である。被害者の1人が意識が切れる直前、何者かと接触していたという情報を3日3晩聞き込み続けてようやく手に入れたのだ。これを元に事件解決の手がかりをお偉いさん方に突き付けてやれば、ちょっとは満足して俺を解放してくれるだろう。

「それにしても……ガイシャはこんな所で何してたんだ?」

時刻は夕方。中世風の街並みの世界で、大通りから外れた裏路地で被害者は意識不明となったらしい。

路地そのものに怪しい所はない。強いて言えば、NPCすら通らない寂れた道というくらいか。もしやガセ情報を掴まされたか、と落胆していると

コツ、コツ、コツ、コツ……

石畳の上を歩く音が道に響く。なんと、こんな寂れた路地に通行人が来たらしい。NPCでなければ何という物好きだろうか。だが、えてしてそういう人間ほど何かの情報を持っていたりするものだ。もしかしたら事件の参考人かもしれないし。取り敢えず怪しまれない様に、かつスムーズに聞き込めるように気さくに声をかけようとして、

「あ、……………っ!!??」

喉を通りかけて声が止まった。

「あら〜?もしかして『救済』をお望みでしょうか〜?」

目の前にいたのは、余りにも不気味な女。シスターの被り物の下の顔は謎の模様が描かれたバイザーで隠れて全容が窺えない。全身は所謂ラバー素材のぴっちりとしたスーツを纏い、セクシー女優でもなかなかお目にかかれない様なボディラインを隠そうともしていない。それどころか、胸に至っては蛍光色の生地になり殊更目立つ様に工夫する始末。

一見ただの痴女に思えるが、その女が纏う雰囲気は余りにも異質で、一刻も早く逃げねばという気持ちに襲われる。だが同時に、背中を見せるのはもっとヤバいという警鐘が頭に鳴り響く。

「動くな!」

咄嗟に銃を構えて威嚇する。こういう時、ゲームの雰囲気を無視して実用的な装備を選んだ自分の先見性を褒めたくなる。

「あら、あらあら〜?」

「見えているか分からんから言うが、お前は今銃口を向けられている。分かったら大人しく両手を上げてその場から……」

「大丈夫ですよ〜?そんなに怯えなくても、私は貴方を『救済』するだけなのですから〜」

ふざけた格好の次はふざけた台詞と来た。どうやら新手の宗教か何からしい、いよいよもってこの仕事辞めたくなってきた。

「おい、何言ってんのか分からんが、俺の指示通り……」

「貴方は今、何に怯えているのですか〜?」

「!?」

信じられない事に、目の前のシスターは銃を向けた俺の方へ歩み寄り始めた。

「おい!分かってるのか、お前は銃を向けられてるんだぞ!動くな、それ以上動くと撃つぞ!」

「伝わってきます〜……貴方は今、私を恐れていますね〜……それは一体何故でしょうか〜」

「聞いてるのか!?それ以上は本当に……」

ジリジリと。シスターが歩みよる度、後ずさって距離を取ろうとしてしまう。

「私が奇抜な格好をしているから〜?私が伝えたい事が分からないから〜?それとも〜……」

「いい加減に……!」

「命の危険を感じているから」

一瞬にして言葉から温度が消える。距離は離れているはずなのに、まるで氷のナイフを首筋に突き立てられた様な寒気を感じる。

「しかし〜、それはおかしな話です〜。このVR世界では、どれだけ傷を負おうとも、死んでしまうわけではないのですから〜」

「……それ、は」

確かに。ゲーム中でダメージを受ける事はあっても、それが利用者本人の身体を傷つける事は決してない。例えドラゴンの炎に焼かれようと、ログアウトすれば焦げ跡一つない肉体に戻れるのだ。

「それに〜、私が貴方に危害を加える理由が〜、一体何処にあると言うのでしょう〜?」

「……」

またしても正論。基本的にこのゲームにおいて、プレイヤー同士の戦闘はルールで定められた物を除き規約で禁止されている。今の俺みたいに、許可なく攻撃されればアカウントは早急にBANされる。目の前の彼女に、俺を害するメリットがあるのだろうか?

「どうやら〜、お話をお聞きいただけそうですね〜?」

ハッと気がつくと、俺が足を止めてしまった間にシスターは更に距離を詰めていた。これ見よがしに腕を組んで胸を持ち上げ、ゆったりとしたリズムで上下にいやらしく揺らす……。

「ほ〜ら、怖くな〜い、怖くな〜い……私は貴方を、『救済』したいだけですから〜……怖がる事なんて、何もな〜い……」

「……い、いや待て、その救済ってなんなんだ……」

最早構えた拳銃がシスターにぶつかる距離。俺が引き金を軽く引けば、すぐさま弾丸がシスターの身体を貫くだろう。

だが、シスターは拳銃を恐れるどころか。

むにゅり♡

「それについては、今からゆっくりと〜♡でも、こんな無粋な物は、必要ありませんよね〜♡」

胸の谷間に銃身を挟むと、両腕で胸を押しつけてぐにぐにと変形させる。もしこの拳銃が、俺の身体だったなら。

扇情的な仕草、ミルクの甘い匂い、耳をくすぐる囁き。

「わ、分かった、話だけなら……」

頭の芯が痺れるような感覚に襲われ、俺は拳銃を手放した。


「では〜、楽に腰掛けて下さいませ〜」

オブジェクトの樽に俺が座り込むと、シスターは目の前に跪く。なんだか偉い立場になった気分だ。

「それでは早速お話を〜。先程も申し上げた通り〜、私達の目的は皆様の『救済』でして〜」

「それはもう聞いたよ」

「これは失礼いたしました〜。さて〜、その『救済』というのは〜、『精神の肉体からの解放』なのです〜」

「……はあ」

なんだか御大層なお題目だ。親からは昔そういうのが流行ったとかなんとか聞いたような気もするが。

「あ〜、呆れないで下さい〜。それに〜、肉体からの解放は〜、貴方も今実践してますよ〜?」

「実践?」

「はい〜。肉体に危害を加えず〜、精神のみを一人歩きさせて快感を得る〜……このVR世界そのものが〜、肉体からの解放場なのです〜」

「……ふむ」

なるほど。言われてみれば確かに、この世界では現実の肉体に依らずアバターを作り、より自分が思う自分でゲームを体験する事が出来る。そういう意味では、今俺は肉体に囚われていない状態なのだろうか。

「それに〜……んっ♡」

「!?」

むにゅり♡むにゅり♡

突然シスターが自らの胸を揉み、甘い声を漏らす。

「こうして〜♡精神だけの存在でありながら〜♡肉体的快感も得られるのです〜♡」

「……」

思わずシスターの痴態を凝視してしまう。なるほど、精神だけの状態でも肉体を満足させる事は出来る……。

「そして〜♡それは貴方も〜♡」

「うわ!?」

胸を揉みながらシスターは俺のズボンに触れ、大きくなった竿をゆっくりと撫で回す。

す〜り♡す〜り♡

布越しの優しい感触が、沸々と俺の中の欲望を温める。

「随分と〜♡溜め込んでいますね〜♡」

「う、く……」

言われてみればここ数日、聞き込みのせいでろくに抜いてない。そんな状態でこのシスターのエロさは毒以外のなにものでもない。

「解放、してみませんか〜♡」

その誘いに、俺は間をおかずに頷いた。


「それでは〜♡お相手をしながら〜♡説明を続けます〜♡」

そう言うとシスターは、バイザー越しに見えているのか俺のズボンとパンツを手際良く下ろす。

「先程〜♡貴方は私を酷く恐れました〜♡肉体に影響を及ぼさないVR世界であるはずなのに〜♡」

あっという間に半裸にされ、いきり勃つ竿が丸出しになる。その竿にシスターは手の平で触れると、ゆっくり指を閉じて優しく握り込む。熱く滾ったモノに触れるラバーのひんやりした感触が心地良い。

「それは〜♡貴方が未だに肉体に執着しているからなのです〜♡」

しゅ〜っ♡しゅ〜っ♡

シスターの喋り方の様にゆったりとした手の動き。子供をあやすような優しい声と共に快感を脳に伝えてくる。

「ここで何かあったら〜♡元の身体に戻れなかったら〜♡肉体に執着しているから〜♡恐れに囚われてしまうのです〜♡」

しこ♡しこ♡もみ♡もみ♡

片手で竿を扱き、もう片手で玉を揉む。甘く柔らかな手の動きは、臨戦態勢を誘うかのよう。

「しかし〜♡本当に肉体は必要なのでしょうか〜♡」

「あっ」

パッと手が離される。もう少しで達する事が出来たというのに、何故ここで止めたのか。

その答えは、すぐにシスターから示された。

むにゅん♡

「うおっ♡」

「現実の苦難〜♡人間関係のしがらみ〜♡死という制約〜♡そんな物が付き纏う肉体に〜♡どれ程の価値があるのでしょう〜♡」

ぐにゅん♡むに♡ぐに♡

シスターのはち切れそうな胸の谷間に、俺の竿が飲み込まれる。見た目以上の柔らかい刺激が立ち所に脳を襲う。

「貴方にもありますでしょう〜♡捨ててしまいたい現実が〜♡だからこのVR世界にいらしてるんですよね〜♡」

たぷん♡たぷん♡むぎゅ♡

絶えず胸の感触を味わいながら、シスターの言葉を反芻する。張り合いのない仕事、楽しくもない職場、顔も見たくないお偉いさん……

「であれば〜♡わざわざ現実に戻る必要はないのではありませんか〜♡れぇ〜♡」

つぅーっ♡ぼた♡にちゃ♡ねちゃ♡

垂らされた唾液を潤滑剤に、更に奉仕は加速する。否応無しに身体は限界へと昇り詰める。

そうだ、こんなにこの世界が楽しいのなら、現実に戻る必要はないんじゃないか?

「であれば〜♡精神を完全に肉体から解き放つ〜♡『救済』を行うのが私たち『システクノ』の使命なんです〜♡」

「しす…♡てくの…♡」

「さあ〜♡貴方にも解き放つ快楽を〜♡」

たぷん♡たぷん♡たぷん♡たぷん♡

胸の上下が激しくなる。玉の中身が迫り上がってくる。我慢など、とうに効くはずもなく。

「お゛っ……♡♡」

シスターの胸の中に、ほとばしる精をぶち撒けた。

「んふ……♡いかがでしょうか〜♡自らを解き放つ快楽は〜♡」

「う……♡ふぅ……♡」

シスターの問いかけに答える余裕もなく、腰掛けた樽からずり落ちる。さっきまでとはうって変わって、正座のシスターに見下ろされる格好になる。

「素晴らしい経験でしょう〜♡でも♡『救済』はここからが本番なのです〜♡」

「あう……♡」

むにゅうう……♡

シスターは俺の上に寝そべると、柔らかい身体を擦り付けながら器用に俺の竿を秘所へと誘う。今射精したばかりだというのに、シスターの柔らかな肢体と甘い香りが再び肉欲を沸騰させる。

「人間の発展の根源は『快楽』〜♡快楽こそが人間を突き動かし〜♡快楽によって人間は更なる進歩を得られるのです〜♡」

すり♡すり♡……ぬぷ♡

ラバースーツには切れ目でもあったのか、秘所が滞りなく竿を飲み込む。玩具では得た事もない快感が脳を麻痺させる。

「なればこそ〜♡その快楽を与える事で〜♡人間を見果てぬ地平へと導く〜♡それこそが『救済』の果てにあるものなのです〜♡」

たんっ♡たんっ♡たんっ♡たんっ♡

リズミカルに跳ねながら説法が続く。快感で思考はとっくに溶けているのに、その声は妙に鮮明に聞こえる。

「私の抱き心地はいかがですか〜♡ぎゅうっとして〜♡離したくなくなりますでしょう〜♡」

ぱん♡ぱん♡むにゅ♡むにゅ♡

シスターの言う通り。その感触は抱き枕より柔らかく、陽の光より温かく。このまま永遠に抱いていたくなるほどだ。

「肉体を離れたからこそ〜♡貴方はこの快楽を享受出来たのです〜♡煩わしき肉体など捨てて〜♡共に更なる高みへと〜♡」

たん♡たん♡たん♡たん♡

腰を打つペースが上がる。自分の中の大切な何かが、頭の中で焼き切れる。危険だという警鐘は、もうとっくに燃え落ちた。

「テクノ・ブレイク……♡」

ぐりぃっ♡

先端が、シスターの、奥へと押しつけられ、

「ふ、うぅ〜〜〜〜っ♡♡♡」

どびゅるるるぅ〜〜〜〜〜〜っ♡♡♡

声すら出せぬ快楽。息すら出来ぬ幸福。うねる膣が竿を貪り、俺の全てを吸い出していく。

「はぁ〜……♡おめでとうございます〜♡貴方の精神は貴方の肉体を離れ〜♡救済への道に至りました〜♡」

シスターの嬉しそうな声。何を言っているかは理解出来ないが、俺の中の何かが失われたのは感じる。

だが、最早どうでもいい。

この甘く柔らかな幸せを、いつまでも味わえるというのなら。

「さぁ〜♡お祝いにた〜くさん♡交わりましょうか〜♡」

再び訪れる快楽の波に、俺は目を閉じて身を委ねる事にした。




【VRゲーム意識障害事件について続報です。警視庁サイバー犯罪対策課によりますと、本事件の捜査を行なっていた〇〇署の刑事が昨日意識不明の状態で発見されたとの事です。刑事はこれまでの被害者同様植物状態である事から、サイバー犯罪対策課では同一犯による犯行であるとの見方を示し…………】

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