『誓いの紋章』①
『出来たぞ、ウタ!!やる!!』
『…何これ?』
『──の麦わら帽子だ!!おれ達の新時代のマークにしよう!!』
『えー…下手…フフ、だけどありがとう』
〜〜
『やだ、いやだ!!やめて!!』
『いやだよ…ルフィ…助けて…』
『あああああああああアアアア!!!』
〜〜
「アアアア!!」
己の絶叫と共に飛び起きてしまう。
特別に用意された小さめの一人用のベッドは、すっかり自分の流した汗で汚れてしまっている。
「…ふっ…ぐ…う…ひっぐ…」
脳裏に焼きついた光景が離れず、自ら拒んでしまったあの温もりを求めるように一人、泣き続けていた。
〜〜
「…………」
しきりに船が波で横に揺れる。
歩んだ先、光を遮ぎられた部屋で、いるはずの彼女に声をかける。
「……ウタ、起きてるか?」
部屋からの返事はない。だが、気配は起きている。
「…朝食、ここに置いておくぞ…ちゃんと、食べてくれよな」
そう言って、朝食を扉の横に置く。
昨日は結局夕飯を数口しか手を付けていなかったが、今日こそは食べてくれると嬉しい。
参謀総長であるサボが率いる革命軍の軍艦は、バルディゴに向けて航海を続けていた。
総司令官ドラゴンに、無事二人を保護したことを直接報告するためだ。
…そう、革命軍は「協力者」の助力もあって、確かにルフィとウタの二人を保護できた。
…しかし、一歩遅く…二人を奪還したのは海上…天竜人を乗せた政府の軍艦からだった。
二人の行方の手がかりを得ているとき、その情報は入った。
二人の隠れていた島をCP0が奇襲、拿捕されてしまったこと。
…そして、聖地を独断で出航したチャルロス聖の乗った船に乗せられてしまったこと。
すぐに革命軍はその船を襲撃した。
結果としてCP0を牽制しつつ、船にいた多数の奴隷と、目的の二人は救出できた。
が、二人の状態は最悪だった。
ルフィは長い逃亡での傷が悪化しており、そこに更にCP達を相手にした手傷があった。
奴隷達に痛めつけられていたルフィに意識はなく、「彼」の協力がなければ命も危なかっただろう。
もう一人…ウタの方は外傷自体は少なかった。
…だが、気絶していたところを救出され、手当ての直前に目覚めたウタは錯乱していた。
蹲り、怯え、そしてボロボロの布とかした服で背中を守るウタを見て…その場にいた主要の者達は、彼女の身に起きたことを確信した。
何もかも手遅れだったのだろう。
彼女は既に、「刻まれてしまっていた」。
今でも噛み締めた唇から血が出るかのようだった。
やっと己の記憶を取り戻し、必死の思いで助けられたはずの妹は、とにかく周りを拒絶してしまった。
…あろうことか、ルフィすらも。
なんとか怪我から目覚めたルフィが駆け寄った時、ウタは怯え、その手を弾いてしまった。
きっと無意識だったのだろう。
しかし、それは両者に大きな傷を残してしまった。
未だ二人はそれぞれの別の部屋から出てくることがない。
体と心を深く傷つけた両者に、多くのものがどうするべきか考えあぐねていた。
だが、それも今日までにするつもりだった。
「…サボ君」
後ろから声をかけられ振り向く。
そこにいた同胞は、決意のこもった目で頷く。
「…ルフィ君のことはお願いね…私も、なんとか頑張るから」
頼もしき相棒に、笑って頷く。
「…頼んだ、コアラ」
〜〜
「……」
今でも、多くの光景が脳裏に焼き付く。
思い出したくない下卑た笑顔。鉄の焼ける音。
…背中に走る激痛。
……再会したのに、何も話せていない兄。
………拒絶してしまった、最愛だったはずの人。
「…ごめんなさい…ごめんなさい…!!」
ルフィを拒絶してしまった。
もう自分は、ルフィに合わせる顔がない。
いや、そんなもの元々ないのだ。
背中にこれを刻まれた自分には。
穢されてしまった自分には。
もう…ルフィの隣にいる資格など─
「失礼します」
突如、ハキハキとした声が部屋の外から聞こえてくる。
顔を上げられないこちらに構わず、扉が開かれた。
「コアラです…少し、お話しませんか?」
続く