記憶─sideライダー─
神永 side in
───夢を見た
いつも見る夢とは違う、自分のモノでは無い経験を追体験しているような夢だ。
場所は…どこかの屋敷だろうか、時代的には平安だろうか?どこか俯瞰した映像のようで誰かの視点というわけでは無い。視界には二人の人物が映っている。
一人は見たところ幼い子供、もう1人は…少々奇抜な服装をした妙齢の女性…?
子供が女性に弟子入りさせてくれと懇願している様子だ、ただその眼はどこか空虚なもので…
子供は強情な様子で幾ら女性が断ったとしても折れる様子がない、兄のためになる為に私を鍛えていただきたいと頼んでいる。
「どうか私に力を!───大天狗、鞍馬山僧正坊様!」
子供が口にした言葉はある伝説に出てくる、大天狗の名であった。
そしてこの記憶が誰のものであるかも
───これはライダーの、牛若丸の記憶だ。
どこから聞いたと、思い当たる節があるのか頭を抱えつつも条件を突きつけた鞍馬山僧正坊、この時は鬼一法眼と名乗っていたようだ、は彼女に教えを授けると決めたようだ。喜んだ少女は部屋を出ていくが視界が変わらない
「───覗き見とは、いや記憶が混線しているのか?」
こちらを理解したような言葉を発した鬼一法眼はこちらを見ながら一言
「成程、遮那王はそちらに現界したのか…いやここでは無いどこかで仕置はしている、わざわざ僕が行く必要はない」
何を言って───
「遮那王の一生を見ろ、そして遮那王に寄り添って見せろ、遮那王の新しい主よ」
場面が一気に変わる───
そこからは早かった、子供のように遊ぶ牛若丸ともう1人の少女。それを見守る鬼一法眼、時には太刀を教え時には兵法を教え、時には叱り喜びまるで親のように接していた。
が、牛若丸が鬼一法眼の太刀を継いだとしても「六韜」と「三略」という兵法書だけは見せなかった。
それを知ってしまえば、人では無いものになると知っていたから…だがそんな師匠の願いを知らずか、兄の為ならば悪にもなろうという牛若丸。幸寿前と共謀し兵法書を掠め取った牛若丸はそのまま出奔、平泉へと下った。そして兄の頼朝が挙兵、そしてそのまま合流し名を挙げていく。
一ノ谷の戦い、屋島の合戦、壇ノ浦の戦い、それらを経て平家を滅ぼす…
まさに三面六臂の大奮闘、徐々に民衆や同陣営からの人気は高まっていくだがそれと同時に兄との確執が深くなっていく、本人は兄の為を思い行動しているだが兄にはそれが最も恐ろしいものだったのだ、場合によっては味方にをも牙を剥きかねない忠犬を。
そして兄が抹殺にかかっても本人は「兄が望むのなら」と受け入れていた、だが部下の説得があり奥州へと逃れるが───
兄から向けられた兵により、窮地へ立たされた義経は館の奥、持仏堂へと押しやられる
「義経様は奥の方へ!」
「弁慶、貴様は───」
「安心召されよ!私の頑丈さは貴方が最もわかっているでしょう」
その言葉と共に締められる扉。
そしてその中で、兵に囲まれた堂の中で───
彼女は、声にならない声を出した
「───兄上」
それは、怨みの声ではなく、誰かを尊ぶ様な心配するような美しい声で───
そこで、目を覚ます。
「───あ」
身体を起こし頬に触れる、そこには一筋の涙が流れており
「…そうか、そうだったんだな牛若丸」
傍から見たら忠犬のようであった、だが彼女には、牛若丸にはあのようにするしか無かった、できなかったのだ。天才故に、あのような偉業が出来てしまった。
そして天才故に理解されなかった
「裏切るなんて、そんなことは絶対ありえない」
自分はなんて愚かなことを思ってたんだろう、先程の夢を見て理解した。
「───主殿?」
「うおっ!?…牛若丸か、どうしたん─」
隣からはね起きた牛若丸に、急に抱きつかれた。
勢いのまま布団に倒れる、牛若丸が馬乗りになるような体勢だ。
「ど、どうした」
「…必ず、貴方の隣にいます」
「はぁ?」
「私は、この戦いの間であろうとも貴方の隣で───」
「…何やってんのよ、あなた達」
襖が空いたと思ったらそこには心底軽蔑したような目でこちらを見下げている美作がいた。
神永 side out