記憶喪失レオパルド(仮) S1

記憶喪失レオパルド(仮) S1


 男のベッドはかなりの広さがあり、豹であればあと四、五頭は寝そべることができそうだ。ベッドの上に飛び上がると、今度は砂になることもなく、柔らかな羽布団に着地することができた。足もとの方へ移動するつもりだったが、歩きにくいので枕の方から布団に潜り込み、身体を横たえた。ここまで男からのリアクションはない。さすがに気づいていると思うが、相手をするのも面倒になったのか。三つも四つも置かれている枕に頭を乗せ、さっさと眠ってしまうことにした。

 頭を撫でられ、ハッと目を開く。

「もう痛みはねェか?」

 顔を上げると男が横になったままこちらを向いて、おれの耳の後ろ辺りを撫でている。なんだ急に! てっきり蹴り出そうとしてくるものと思っていたから、ベッドを賭けて戦う覚悟でいたものを、またしても予想外のことに面食らう。男の表情は闇に紛れてわからないが、撫でる手つきは愛しむように優しいので、思わず喉を鳴らしてしまう。……喜んでるみたいで嫌だ。前脚をそっと上げると男の胴に届いた。抗議のつもりで押しやってみるが、柔らかい肉球を押し当てたのでは効果がなさそうだ。昼間はきっちりと着込んでいたのに、今は薄物一枚になっていて、少し爪が当たれば布地を引き裂いてしまいかねない。前脚を下げると男は更に近づいてきておれの額に顔を寄せ、今度はおれの肩から背へと毛皮を撫でていく。なんだこれは。どういう状況だ。男の指は撫でてほしい場所をよく心得ているようで喉を鳴らすのをやめられない。まさかおれは、普段からこの男とこういうことをしているのか?

 男の愛撫は唐突に終わった。眠ってしまったからだ。その間おれは身じろぎ一つせずに撫でられるままになっていた。結局どういう関係なのか。お互いの名前さえ教えようとしない奴と一緒に寝ていていいんだろうか……。手を伸ばして男の髪に触れる。おれとは全然違う髪質だ。サラサラと絡まることなく指から滑り落ちていく……

「?!」

 髪を触るおれの手が人間の手になっている。いつからだ?! さっきまでは豹の姿だったはずだ。なんとか戻ってみようと思うが上手くいかない。ずっと食事も摂っていないし、エネルギー切れのような気がする。幸い人間の姿でもベッドには十分な広さがあった。男から少しだけ距離を取り、おれもそのまま眠りにおちた。

 朝になって目が覚めると、ベッドに男の姿はなかった。昨夜脱ぎ捨てたシャツを拾って着た後、入ってきた扉を開ける。開けると同時にハットリが飛んできておれの肩にとまった。ローテーブルの上にはパンや果物の籠があり、ハットリが食べる豆の小皿も置いてあった。おれの朝食を用意してくれているんだろうか、部屋に男の姿はない。顔を洗いたいと思い、寝室の方とは反対側のやや簡素なドアに向かった。洗面所かもしれない。おれがドアノブに触れようとする前に扉が開き、シャワーから上がったばかりの男が現れた。


→ 反射的に剃で逃げる

 濡れた肌にぶつかる

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