記憶喪失レオパルド(仮) S9

記憶喪失レオパルド(仮) S9


 おれは豹の姿になってベッドの上に飛び乗った。寝転がって身を捩り、どうにかこうにか服を脱ぎ捨てて裸になる。起き上がってベッドの端まで移動し、鼻の先にいるクロコダイルを見上げた。案の定、すぐにおれの隣に腰掛けて毛皮に指を這わせた。おそらく、クロコダイルはこの姿を見ると触らずにはいられなくなるのではないか。猫だなんだとバカにしたように言うのは、それが自分の弱点だということを隠したかったからなのだと思う。おれは身体を横たえ腹を見せてやった。クロコダイルは僅かに逡巡したものの、ベッドに上がっておれの横に寝そべり、柔らかい腹の毛を撫で始める。すり寄って身体の上に乗りかかってやってもされるがままだ。首に腕を回し、おれの身体に沿って足を開いたところで、人の姿に戻った。

 組み敷かれてしまったことに気づいたクロコダイルが抵抗する前に、両腕を押さえてキスをする。これ以上は砂になって逃げられるかと思ったが、意外にも抵抗する力が弱くなるばかりで、逃げる素振りはない。首筋や胸に舌を這わせながら、膝を立たせるようにして足を更に開かせる。ガウンはすっかり着崩れて肩や腿が露わになった。身体を起こし、腕の戒めを解く。まだ絡みついている腰紐をほどいて完全にガウンの前を開ける。露出した身体を撫でているとクロコダイルの右手が伸びてきて左腕を掴まれた。さすがに拒まれるのかと思ったが逆に引き寄せられ、身体がぴたりと密着する。顔が胸に押し付けられた状態で、頭の上から微かな声が聞こえた。

「ほしい……」

 その時、急にパッと目の前が開けたように以前の記憶が戻ってきた。自分が何者であったか、相手が何者であるのか。昨日からのことも含め、今では全てが分かる。今、愛しい相手から求愛されているということも、それに応えたくてたまらないということも……。ゆっくりと身体を起こし、もう一度キスする。

「……おれが先に言いたかったんだがな」


 昨日と同じベッドで朝を迎えたが、今日は隣に体温を感じる。

「ようやく起きたか、今日は報告に行くんじゃねェのか?」

 どうやらおれが目を覚ますのをずっと待っていたらしい。起き上がって羽布団の上に流れているガウンを掴み、袖を通す。クロコダイルはベッドから出ると、脱ぎ捨てられていたおれの服を拾って投げつけてきた。……もう少し余韻に浸る時間があっても良さそうなものだが、おれはそんなに寝過ごしたんだろうか? そもそも眠りについたのが随分遅かったはずだ。記憶喪失からは回復できたが、昨夜の記憶に関してはところどころ焼き切れたように途切れている。思い出すとまた身体が騒ぎ出してしまいそうで、結局おれも余韻を振り払わなければならなかった。クロコダイルは扉の前で立ち止まり、まだ動かずにいるおれに向かって溜息混じりに言い放った。

「もたもたしてると昼になるぞ。おれはシャワーに行くがどうする? 一緒に入るか?」

「………………入る」

 もう少しだけいさせてもらうことになりそうだ。クロコダイルの気が変わる前に行かなくては。おれは急いで服を手に取った。


(了)

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