記憶喪失レオパルド(仮) S5
恋人だったとしたらどうなんだ、と流し目で言われ、思わず身震いしてしまう。本当に恋人なら受け入れるだろうから、こちらから迫って真偽を確かめることにした。嫌なら砂になって逃げることもできるはずで、決して無理やりするわけじゃない。殊更ゆっくり顔を近づけても、クロコダイルに動く様子はなく、黙っておれを見ている。あまり見つめられてもやりにくいが、目を閉じろと言ったところで聞くとは思えない。
押し当てるようにして唇を触れ合わせ、すぐに離した。クロコダイルは何事もなかったようにおれを見ている。今更こんなことで動揺する関係ではないということか。こっちは動揺しすぎて心臓が口から飛び出しそうになるのを歯を食いしばって耐えているというのに、憎らしい。
クロコダイルの右手が動き肩を掴まれた。引き寄せられて、もう一度唇を重ねる。唇の間から舌を出され、おれも舌で答える。息苦しさに喘ぎながら必死で舌を追う。首に腕を回して頭をかき抱く。快感に全身が粟立つ。豹になってしまいそうだ。これ以上はマズいと思い、相手の胸を手のひらでおさえて顔を離した。頬が燃えるように熱い。本当に以前は普段からこんなことをしていたのか? そのままずるずると身体を倒し、膝上に頭を乗せる頃にはすっかり豹の姿になっていた。クロコダイルの手のひらが肩や背の上を滑っていく。
「お前は豹になるだけが能じゃねェんだがな……まァいい、しばらくそうしていろ。昼までにおれは残りの仕事を片付ける」
顔は見てないが、感情がめちゃくちゃになっているおれとは相対的にクロコダイルの声音は落ち着いている。顔は膝の上に伏せたまま、豹の姿で尋ねる。
「……何か隠しているだろう。おれは何者なんだ。記憶を失う前、何があった」
「……さァな。仕事の邪魔だ。豹が喋るんじゃねェよ」
左の鉤爪の根元のほうでおれの頭を緩く押さえる。記憶が戻ってもおれはここに居続けることができるんだろうか。お互い気持ちは同じだと思うのに、何故かそのことを余計に苦しく感じる。
午後から窓を直す作業が始まるので、クロコダイルは昼食を外で済ませるという。おれも人型に戻ってついていく。二人で並んで外を歩いていることに自然と気分が昂揚する。今度は酒を飲むのもいいかもしれないと考えていた矢先、襟首を掴まれた。
「……喋るなよ。どうやら、お前を捜しにきたようだな。鼻の利く連中だ」
おれを捜しにきた? 不意に目の前が昏くなる。おれは、お前の猫なんじゃなかったのか……? おれを引っ張って薄暗い路地に身を潜め、通りから目を離さずにクロコダイルは言葉を続ける。
「おれは海賊、お前は政府の役人、おれ達は本来敵対関係にある。これがお前の知りたがっていたおれ達の関係だ。満足したか?」
外にいるのは連絡に応じないおれを捜しにきた政府の人間だという。
「……今までで一番信じがたい話だな。何かそれを証明できるものは?」
クロコダイルは一枚の紙を取り出す。指名手配書だった。この男の首にかかった金額が記されている。
「どうする? 仲間のところへ戻りたいか? てめェで決めろ」
→ CPと接触する
クロコダイルから離れない