記憶についてのあれそれ

記憶についてのあれそれ


*五分間について捏造しています

 食後のデザートの時間、オレ達の目の前に置かれたドーナツの穴に何処からか持ってきたアイスクリームを乗せて楽しそうに笑う藤丸。オレは別に気にしていないのだが、彼女の気遣いが好ましいと感じた。ゴルドルフ・ムジークやキッチンのサーヴァント達から説教を受けたが隣に彼女が居ると苦ではなかった。記憶。


 シオン・エルトナム・ソカリスとレオナルド・ダ・ヴィンチの話について行けず疑問符を浮かべる藤丸に、内容を補足をしてやると陽の光のような瞳を真っ直ぐこちらに向けて「さすがデイビット、頼りになる!」と伝えられた。彼女に頼りにされるのは悪い気はしない。

自然と緩むオレの口元へ二人からの生暖かい視線が向けられ嫌な予感がした為、藤丸の手を引いてその場から逃げることにした。…………藤丸の手の感触も、記憶することにしておく。


 カドックとキリエライトと藤丸の四名で行ったボードゲームの罰ゲームでとあるサーヴァントの衣装を着せられた藤丸の、珍しく照れた表情と声。記憶。

よく似合っている、と褒めた時の消え入りそうな声での「ありがとう」も忘れられない。そんな藤丸とオレを見ながら「次の衣装が決まったんだわ!」と叫び出したハベトロットの意図は分からないが。その次の衣装とやらもきっと藤丸であれば似合うのだろう。

カドックの呆れた顔とキリエライトの少し紅潮した顔、こちらも忘れないように。


 テスカトリポカが相変わらず何かを企んで、それをククルカンに邪魔され落ち込んでいる姿を慰めようとする藤丸の——……このままでは五分では全く足りない。

一日を五分に圧縮する為にその結果に繋がる過程、会話、体験、感情を不要として切り捨てていく。

楽しい時間だった。嬉しい言葉だった。可愛いと思った。目が離せなかった。それなのに記憶の容量に全てを残しておく事は出来ないからと、自ら切り捨てていく。

そうやって取りこぼし、自分の中から漏れていくものが、彼女と共にしたものであるのなら惜しいと感じてしまう。

以前は仕方のない事だと割り切れていたはずが、彼女の表情、一挙手一投足を。彼女の言葉を。自分の中に燻る感情を全てを覚えていることが出来たら、とどうしようもならない事を考える。この恋というバグはオレのような人間にも発生するらしい。



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