言葉よりも

言葉よりも

新旧七武海が家族の世界スレに気ぶった何か 仲良し家族からのクロバギ夫婦が惚気るところが見たかったが方向間違えました



 いや、ちょっとばかしマズいことになったなァ。他人事のように考えていれば、苛立った声が降ってくる。


「だから責任取って言ってるんだよおばあちゃん、わかる?」

「はいはい、よォくわかっておりますとも。謝ります謝ります靴も舐めます」


 ショッピングモールの通路の隅っこ。素行がよろしくなさそうなお兄ちゃんらに囲まれながら、べっと舌を出してみせれば舌打ちが飛んでくる。このクソババアって顔に書いてある。わらわ怖い、なんてかわいい義理の娘のモノマネしたら和まねェかな空気。無理だろうな~。


「いくらお孫さんがかわいくてもさあ、いきなりぶつかってきた詫びは要るって話。慰謝料ね」


 はい、家族でお買い物、なんてほのぼのイベントに降って湧いたトラブルの説明がこちらになります。ありがとよチンピラ兄ちゃん今日はじめて感謝したぜ。まあ、合ってるのはおれ様の孫がかわいいの部分とぶつかったの部分だけだが。

 くまが大好きなパパママに誕生日プレゼントに買ってもらったばっかりのでっかいテディベアを持ってたがるのは無理もないことだし、ちゃあんと左手はウィーブルとお手々繋ぎながらで気を付けて端っこの方を歩いていた。そいつにいきなりぶつかってきたのはゼニゼニうるせェこの兄ちゃんだ。こうもしつこいのを見るにワザと。


(ッカァ~~面倒くせェ~~おれ様もお手々繋いどいたらよかったぜ、旦那様と)


 くまが大喜びした後。ハンコックが通りすがりにアクセサリー店を気にして、そいつを見たミホークがこれまた嫁を気にして、デキる姑のおれ様は『ちょっと歩き疲れたからジジババはこいつらと休んどくわ~』なぁんて素敵提案をしていそいそ恋人繋ぎをはじめるアツアツ息子夫婦を見送ることにしたのだ。

 あとはDQNとエンカウントしようが一睨みで黙らせられるじいじ、……だけだと逆にトラブルが起こるとマズいので場を治めるのが得意なジンベエと一緒にフードコートの場所取りを媚びつつお願いして、後のメンツでメシ買いに行った——のが、アダになってしまった。


 一番上の孫、ドフラミンゴは格好だとか図体こそハデかもしれねェが、昔っからお兄ちゃんするのが好きな優しい子だ。ティーチとモリアがカッコイイ動物が犬かコウモリかでケンカだかじゃれてんだかするのを『そうだなお前らで価値観は違って当然だ』なんて仲裁しながら後ろからついてきてくれていた。そう、後ろから。


(客観的に見りゃあ、ちびっこ二人にばあさん一人。当たり屋するには打ってつけだわな)


 ぶつかられた瞬間すっ飛んできてくれたドフラミンゴにも意図は見えていたようだった。パパ譲りかじいじ譲りか、怒りを露わにして割って入ろうとしてくれたし、たぶんお任せすれば秒殺だったとは思う。だが、高校生が暴力沙汰はよろしくない。非が相手にあろうと、目立つ外見をしてるとあることないことが独り歩きしがちなことをおれ様はよくよく知っている。

 だから、それより先にゴメンドンマイワザとじゃねェんですあっちでお話をとこれ見よがしに左手薬指に嵌まったサファイアをチラつかせて強引に矛先を向けたのも、目でドフィいいから弟連れて向こう行けってしたのもおれ様で、あ~~でもココまでしつこいか?ボケババア演技疲れてきたんだが?


「ああ~~孫ォ!それはそれはもう目に入れても痛くないぐらいにかわゆいなァ~~末っ子がばあば♡ってくっついてくるだけで腰痛があら!なんと!不思議ィ!」

「慰謝料払えってんだよババア」

「はい?医者ァ?いや~~こう見えても健康体なもんでご心配なく、若い者にもまだまだ負ける気はねェぜ」


 乱暴な物言いと二度目の舌打ちで渾身の孫トークからのボケが遮られる。舌打ちしたいのはこっちだ、てめェら孫かわいいっつったろ付き合えよ。心の中で毒づきながらこっそり周囲を窺えば、遠巻きながら足を止めている人間が増えてきたのが見える。観客、目撃者は十分。だったら。


「……やわらか素材テディベアにブチ当たっただけで?ババアから金ふんだくろうなんて?脳ミソもボディもよわよわな虚弱体質のクソガキよか全然元気でェ~~す♡」


 それまでの大声からボリュームをグッと落としながら返して、袖を引っ張って手を隠しながらピースをキメる。チンピラ共が一瞬絶句して、怒気に満ちた怖いツラで一歩を踏み出してくる、背中に観客が増えたのが見える。一様にかわいそうな婆さんを見るツラで、煽ったなんて誰一人思っていないだろう。

 昔はバラドルらしからぬ演技力なんてホメられてたんだぜ、これでも。兄ちゃんらの歳じゃあ知らねェだろうがよ。顔の前に両腕を持って行く、暴力に怯えるおばあちゃんを演出するために、観客に悪だくみが見えねェように煽るために。


「おいクソババア調子乗ってんなよ…!!!」

「ひぃッお助けェ!…………て~、欲しいってか?若造。骨折れた?内臓イカれた?かわいいくま&クマちゃんでェ??どんだけ治療費かかんだろ~払う気ねェけど~」

「ざけんなとっととカネ出せってんだよ今に健康体じゃいられなくなるぞババア!」


 おーおー、顔が真っ赤になってら。若い男共を手玉に取って赤くさせるなんて罪なモンだなおれ様も。淑女の胸倉まで掴んできて、手ェ振り上げて、まったく熱烈なこったぜ。後はそのまま一発を入れてくれれば晴れておれ様が何をどうしようが正当防衛でゴリ押しデキるはずだ。


「ッ、…へえへえ、どうぞ。かわいい孫のためならドハデに本望にございます」


 現役アスリートでフィジカルオバケの息子夫婦はしっぽりデート中。孫たちはお強かろうとおチビだろうとなるべく荒事には関わらせたくねェ。……。……ラブラブな息子夫婦にあてられてか、珍しく繋いできてくれた手を解いて行ってきますしたのはおれ様。と、なるとこいつが最適解だ、幸いにもどつかれるのには昔から慣れている。


(……床に上手いこと転げる瞬間、懐のスイッチ式マギー玉をくっつけて、適当なとこまで這いずって逃げてからドカンだな)


 観客がストップ掛けてくれるならそれに越したことはねェが、今ここに至っても善意の第三者がいないとなると無理だろう。チンピラが大声で喚きながら手を振り上げたのが見えて、反射的に目を瞑る。どつきツッコミには昔っからで慣れてはいるが、そいつはじゃれ合いの一環だ、どこの馬の骨とも知れねェ輩と進んでやりたいもんじゃない。

 ——せち辛い世の中になったね。結婚と同時に引退しちまったおれ様と違って未だに現役女優やってる友人の声が聞こえた気がして全力で同意する、ああそうだまた今度茶でもしよう、ドハデトラブルに巻き込まれちまってよォ~~って思いっきり愚痴ってやる、……、……あれ、おかしい、なかなか衝撃が来ねェ、


「いでででででッぎゃあああああ!!!!」

「うひッ!?なっなな何だァ、……あっ」


 薄目を開けかけたところでエグい声色の悲鳴が上がる。思わず上から悲鳴を、更にその上に呆けた声まで重ねてしまったのは、ばっちりで開いちまった目に映っていたのが。


「…………オイオイ。よりによって衆人環視で人妻の胸引っ掴みやがって、随分と若ェこったな。ええ?」

「ク、クロちゃ、なんで……いやッ待ってまだ!ちょ~~っと!?正当防衛じゃ、」

「フン、このおれを誰だと思っていやがる。……法律ギリギリを突きゃあ、機能できねェように殺りゃあいい、てめェに言われるまでもねェことだ……」


 チンピラが振り上げた手を上から押さえ込んでいる、お手々繋ぐどころかミシミシミシミシ音立てさせて骨という骨を全部へし折る何なら肉も握り潰す勢いでおキレになってる旦那様と、絶ッッ対にこれから起こる地獄を止める気のない家族への無体に怒ったままのツラしてるお優しい孫だったからだ。




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